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映画『ロストケア』原作者が長澤まさみの演技に感嘆「心の揺れや迷いと向き合う姿が素晴らしい」

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.02.03 20:52 最終更新日:2023.02.03 21:19

映画『ロストケア』原作者が長澤まさみの演技に感嘆「心の揺れや迷いと向き合う姿が素晴らしい」

 

 2月2日、映画『ロストケア』(3月24日公開)の完成披露舞台あいさつがおこなわれた。主演の松山ケンイチ(37)、長澤まさみ(35)、戸田菜穂(48)、鈴鹿央士(23)らが登壇した。

 

 介護士でありながら42人を殺めた殺人犯「斯波宗典(しば・むねのり)」を松山が演じ、彼を裁こうとする検事「大友秀美」を長澤が演じている。「介護」という現代社会が抱える問題をテーマに繰り広げられる、社会派エンターテインメント作品だ。

 

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「映画化の話が進むなかで、検事役を女性に変更して、長澤さんが演じると聞いたときは、『いまの時代に合っているな』と思いました。この小説を書いた10年前は性別を深く考えず、検察官=男性のようなステレオタイプな認識で書いていたような気がします」

 

 こう話すのは、先の舞台あいさつにも登壇した原作小説『ロスト・ケア』(光文社刊)作者の葉真中顕(はまなか・あき、46)氏。2013年に刊行され、第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した同作が、10年の時を経て映画化されたことになる。

 

 原作ではもともと「男性検事・大友秀樹」だった役柄が、今回、「女性検事・大友秀美」に変更されている。葉真中氏は、その改変について、こう話す。

 

「介護の担い手には女性が多い、家庭の中では望んだわけでもないのに女性に“押しつけられる”ということもよくあります。そういう問題を潜在的に孕(はら)んでいる『介護』の現場で起きた事件に女性の検事が対峙するという構図は、映画のアレンジとして、むしろいいのではないかと思いました。別の形で描き直せる可能性も感じられました」

 

 実際、長澤演じる女性検事を観て、葉真中氏は原作よりも複雑で立体的なキャラクターという印象を抱いた。それは長澤による人間的に厚みを持たせた演技ゆえだった。

 

「原作の大友は、42人を殺めた斯波と“対決”するとき、背景にある斯波の気持ちをまったく理解できていないと感じた読者が多かったようで、『大友はきれいごとばかり言ってムカつく』という意見もあったんです(笑)。

 

 ところが、長澤さんが演じた大友には、原作にはなかった共感力があり、もう一段深いところで葛藤を抱えているような人物像になっていた。

 

 映画の大友は、ただ正義を振りかざしているのではなく、凶悪犯と対峙するなかで、自身の心の揺れや迷いとも向き合っていた。もがきながらも、やはり譲れない正しさみたいなものに一生懸命すがろうとしているというか……。

 

 あまり詳しく話すとネタバレになってしまいますが、大友というキャラクターに、人間の深みと厚みを出してくださった長澤さんは素晴らしいと思います」

 

 大量殺人犯の斯波を演じた松山については、こう話す。

 

「私のなかで、斯波はイケメンではなかったので、『松山さんが演じるのか』と思っていたんです(笑)。ですが、ずいぶん減量されたようで、撮影現場を見学したときには斯波になりきっていらっしゃいました。

 

 スタッフに聞いた話では、映画化が実現するかどうかわからない段階から、『斯波を演じたい』とおっしゃって、熱心に取り組んでくださったようです。

 

 松山さんが演じた斯波は鬼気迫るものがあり、まさに役と同一化したような錯覚に襲われました。松山さんのおかげで、この作品のいちばん大切なテーマである『事件が起きる前に社会や私たちがやるべきことがあるのではないか』という部分がより強く伝わるのではないかと思います。

 

 観た方にも『斯波は殺したくて42人も殺したのではない』ということを、他人ごとではなく、自分ごととして考えてもらえたら嬉しいですね」

 

 この小説を書こうとした際、葉真中氏自身が「介護」を身近に感じていた部分があったという。

 

「最初に介護問題を中心にした小説を書こうと思ったんです。書き進めるうちに、《喪失の介護、ロスト・ケア》というフレーズが浮かんできました。

 

 小説の主人公やその周囲の人物は、私と同じ世代、いわゆる “ロスト・ジェネレーション” 世代なんです。いまは私たちの世代が高齢者を支え、親の介護を担っていますが、いずれ自分たちも介護される側になります。

 

 そういった問題意識のうえで、タイトルを『ロスト・ケア』としました。私自身、以前に祖父の介護をしており、発症した認知症には苦労もしましたが、その負担で私や他の家族が体調を崩すようなことはなく、無事に祖父を送り出すことができました。

 

 ただ、このときに『ひとつ間違えたら、大変なことになる』と感じたのです。当時はまだ介護保険制度が走り始めたばかりで試行錯誤の段階だったとはいえ、介護保険の仕組みについて、いろいろな問題点や疑問点がありました。

 

 その直後、2007年、ある大手介護サービス事業者の不正事件があったのですが、たまたま親戚がそのサービスを利用していたこともあり、これは小説にできると思ったのです」

 

 完成した映画については、「1本の映画として仕上げるなら、これがベストの形だったと思う」と感想を述べた。

 

「原作はミステリー小説として出版しましたが、映画版はミステリーとしての部分がばっさりカットされ、検事と犯人の価値観のぶつかり合いに重きを置いた構成になっています。

 

 でも、ミステリー小説の忠実な映画化は非常に難しい。特に『ロスト・ケア』の原作には小説ならではの仕掛けもあるので、それを強引に映像にしようとすると無理が出てしまうと思っていました。長澤さんと松山さんが対決する“人間ドラマ”に再構成してくださったのは大正解だと思います。

 

 原作とは違う種類の感情や感動を持った、情緒的に迫るエモーショナルな映画になっていますし、個人的には、いま日本でできる最良の映画化だと思っています。

 

 ミステリーは広い意味での『娯楽』ですが、笑ったりいい気分になるだけが娯楽ではなく、ちょっと深い部分で感情を揺さぶられるのも娯楽だと思っています。ですから、映画も小説も、まずはフィクションを楽しむという気持ちで接してほしい。

 

 もちろん、この映画を観て、何かを考えていただけたら嬉しいですが、全員が全員、何かを考える必要もない。映画館を出た後に、『なんかいいもの観たな』と思っていただけたら嬉しいなと。

 

 エンターテインメントは単純に人の心を震わせる機能があると思いますから、いまから公開が楽しみです」

 

はまなかあき
1976年東京都生まれ。2013年、『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。第2作『絶叫』は第36回吉川英治文学新人賞、第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)の候補となり、大きな話題を呼ぶ。2019年、『凍てつく太陽』で第21回大藪春彦賞、第72回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。2022年『灼熱』で第7回渡辺淳一文学賞受賞。そのほかの著書に、『コクーン』『Blue』『政治的に正しい警察小説』『ブラック・ドッグ』『そして、海の泡になる』『W県警の悲劇』『ロング・アフタヌーン』などがある。

( SmartFLASH )

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