エンタメ・アイドルエンタメ・アイドル

前野朋哉、バイプレイヤーにして映画監督「僕、やっぱり映画が好きなんです」

エンタメ・アイドル 投稿日:2023.03.05 11:00FLASH編集部

前野朋哉、バイプレイヤーにして映画監督「僕、やっぱり映画が好きなんです」

前野朋哉

 

「独身時代は仕事帰りに寄ってお酒を飲んで。結婚して子供ができてからは家族で来ています。僕はこのすっきり系のネパールアイス(ビール)が大好きなんです。いやー、今日も美味しい!」

 

 グラス片手に、こちらも思わず飲みたくなるような笑顔を見せてくれたのは前野朋哉

 

 JR荻窪駅から歩いて数分。インドにネパール、タイにベトナム。まさにアジアの味を楽しめる「アジアンキッチン クマル」は、前野の好奇心をかき立てる店でもある。

 

 

「とにかくメニューが多くて、しかも日本語名じゃないから、出てきて食べるまでわからない。全メニューを制覇したくなっちゃって通い始めました。以前、『バトゥーラってなんだろう?』と家族で話して注文したら、アツアツの揚げパン。めちゃくちゃ美味しくて家族のお気に入りです」

 

 バトゥーラに、ミックスダルカレー……紹介してくれたのは、前野が10年通ってたどり着いたベストメニューだ。

 

「2人の子供の外食デビューもクマルさんなので、ここの味で育っています(笑)。僕ら家族の “したい” をかなえてくれるお店で、安心します。妻のOKが出れば、僕は昼からビールを飲んでます」

 

 これまで映画ドラマを合わせて数十本の作品に出演し、バイプレイヤーとして欠かせない存在の前野だが、最初に目指していたのは映画監督だった。

 

「子供のころから映画が好きで、映画に関われる仕事に就きたいと思っていたんです。大阪芸術大学1年のときに、先輩の石井(裕也)さんが卒業制作で撮った『剥き出しにっぽん』に、スタッフで入らせていただいて。現場で石井さんの演出を見ていたので、作品が完成して上映した後にめちゃくちゃ感動して、映画は監督だなって思ったんです」

 

 じつは撮影の当日に来なかった俳優の代わりに前野がこの作品に出演。記念すべきスクリーンデビュー作となっている。石井組に参加して映画監督への思いを強くした前野は、大学2年生のときに初めて短編映画を監督した。

 

「石井さんが上映会に観に来てくれて、ウケてたんです。それに手応えを感じたというか、ものすごく気持ちがよくて。石井さんが『ぴあフィルムフェスティバル』でグランプリを受賞して、学生からどんどん “映画屋” になっていく姿を間近で見られたことも、刺激になりました」

 

 2009年には監督と主演を務めた『脚の生えたおたまじゃくし』を制作。2010年、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で審査員特別賞とシネガー賞をダブル受賞する。

 

「もちろん賞をいただけたのは嬉しかったんですけど、実質2位なので純粋に喜べないというか。当時はグランプリを獲ると次回作を撮れる助成金がもらえたので、けっこうダメージが大きかった。ただ作品が伝わったという感覚はあったので、自信につながりました」

 

 グランプリは逃したものの、同作は韓国の富川国際ファンタスティック映画祭で招待作品として上映された。前野は、ほかに日本から招待されていた監督たちと飲んだ席で、偶然、真向かいに座った吉田大八監督と映画について語り合った。これが縁で『桐島、部活やめるってよ』(2012年)の出演につながる。助成金は獲得できなかったが、前野の “俳優としての道” はつながっていた。

 

「吉田さんがキャスティングのときに『この役は、前野くんみたいなイメージ』と言ったらしく、結果オーディションに呼ばれたんです。高知県で撮影をしたんですが、部ごとにワークショップをやったりして、これからという俳優さんの若さや空気感、メンタルがすごくよかった。試写で見たときにおもしろかったので、絶対にヒットしてほしいと思ったんですよ。でも、初日に映画館へ見に行ったらガラガラ。うわーっマジか! と思った感覚は今でも覚えています」

 

『桐島-』は公開後しばらくたってから口コミで話題となり、人気に火がついた。

 

「僕はそれまで、自分の芝居を見るのが本当に嫌だったんですよ。でも、『桐島-』は群像劇ということもあって、僕みたいなやつがいてもいいなって思えたというか。それが自信にもなりました。この作品に役者として関われたから、もう思い残すことはないやと思うぐらいでした」

 

 だが、『桐島ー』以降、前野のもとに映画やドラマのさまざまな役のオファーが舞い込んだ。そして、2023年は “初めてづくし” の年になっている。

 

 1月13日に公開された映画『ひみつのなっちゃん。』では、滝藤賢一、渡部秀とともにドラァグクイーン役に挑戦した。

 

「僕が演じたズブ子(沼田治彦)は、オープンに感情を出す役だったんですが、自分の中の中性的な部分を引っ張り出してきたというか。もともと男と女が真逆ではないみたいな感覚があったので、わりとナチュラルに演じられました。ズブ子を演じてからは、これまで入りづらかった女性の輪の中にスッと入っていきやすくなりました(笑)」

 

 現在、出演しているドラマ『リバーサルオーケストラ』はオーケストラが舞台。地方のポンコツオケである児玉交響楽団を、田中圭演じる天才マエストロと、門脇麦演じる元天才ヴァイオリニストが一流オケに変える音楽エンタテインメントだ。前野はセカンドヴァイオリンの首席、土井琢郎を演じ、生まれて初めてさわるヴァイオリンで優しい音色を響かせている。

 

「去年の夏から練習していますが、曲数が多いのでヒーヒー言ってます。僕も含めて演者は芝居をしに行くというよりは、演奏をしに行っている感覚なのかもしれない。音楽家の楽屋みたいです。演奏するというテーマが一緒なので、団結感がありますし、すごくムードがいいです。

 

 演奏? 僕は芝居をするより100倍緊張しています」

 

 そんな役者の幅を広げている彼の胸には新たな目標がいくつもある。

 

「役者としては、白塗りをして “麿” の役をやってみたいです。世間のことを全然知らなくて顔もダメなのに、和歌だけはうまいみたいな(笑)。麿たちの青春物語に出たいですね」

 

 監督としての夢も忘れていない。

 

「ずっと妖怪ものを撮りたいと思っていて。河童には河童の悩みがあるだろうと想像すると楽しいし、ロマンを感じる。河童と人間がふれ合う話なんかはおもしろそうだなと思っているので、いつかは撮りたいですね」

 

 演者と監督。2つの役目を経験している彼にとって、それぞれの楽しさとは。

 

「演者として関わるときもその作品を楽しめますが、監督のほうが最初から最後まで作品のことだけ考えなくてはいけないぶん思いも強い。完成してお客さんに観ていただいたときはとてつもない喜びを感じます。この幸福感は演者では味わえない。両方の楽しみがあるので、今の状況はありがたいことだと思っています」

 

 映画の話になると前野は饒舌だ。そして合間にビールを美味しそうに飲む。こんな風景が前野の荻窪の日常の風景なのだろう。

 

まえのともや 
1986年1月14日生まれ 岡山県出身 大阪芸術大学芸術学部映像学科在学中に石井裕也監督映画『剥き出しにっぽん』(2005年)でデビュー。『ショッキングピンク』(2008年)で主演・監督デビューを果たす。同じく監督・主演作『脚の生えたおたまじゃくし』(2009年)で「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」の審査員特別賞&シネガー賞受賞。『桐島、部活やめるってよ』(2012年)、『大人ドロップ』(2014年)、『エミアビのはじまりとはじまり』(2016年)など出演作多数。『ひみつのなっちゃん。』(2023年)ではドラァグクイーンを演じた。現在、『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系、毎週水曜22時〜)に出演中

 

【アジアンキッチン クマル】
住所/東京都杉並区上荻1-24-3 イーグル上荻1階 
営業時間/平日11:00〜15:00(ランチ)、17:00〜23:00(ディナー)土・日・祝日11:00〜15:00(ランチ)、15:00〜23:00(ディナー) 
定休日/年中無休

 

写真・野澤亘伸

( 週刊FLASH 2023年3月14日号 )

続きを見る

エンタメ・アイドル一覧をもっと見る

エンタメ・アイドル 一覧を見る

今、あなたにおすすめの記事