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中村倫也『ハヤブサ消防団』タイトルからは絶対にわからない “真のテーマ” に背筋が凍る【ネタバレあり】

エンタメ・アイドル 投稿日:2023.09.07 11:00FLASH編集部

中村倫也『ハヤブサ消防団』タイトルからは絶対にわからない “真のテーマ” に背筋が凍る【ネタバレあり】

 

 ようやく、このドラマが何を描きたかったのか、全貌が見えてきた。と同時に、背筋にゾゾゾッと悪寒が走ったのだ。

 

『半沢直樹』(TBS系)などで知られる池井戸潤氏の同名小説が原作で、中村倫也が主演を務めている『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)。先週木曜に第7話まで放送されている。

 

 筆者は原作小説を未読で結末を知らない状態のため、このドラマを非常に楽しめている。

 

 

 主人公は、賞を受賞した1作め以降、売れ行きが下降線で崖っぷちだったミステリー作家・三馬太郎(中村)。太郎は豊かな自然が広がるのどかな集落「ハヤブサ地区」に移住して、地元の消防団に加入する。だが、その田舎町では、連続放火騒動や住民不審死などの怪事件が起きて――というストーリーだ。

 

 ここからは第7話までのネタバレありで綴っていくので、未視聴の方はご注意を。

 

■【ネタバレあり】実際にあった過去の報道を思い出させる展開

 

 結論から言うと、このドラマは田舎町の集落がカルト教団に乗っ取られていく話だった。

 

 序盤は、町民の住宅が次々狙われる連続放火事件の謎を突き止めるというミステリー要素を軸に展開。そして、放火の犯人と疑われていた男が不審な水死をとげ、何十年も前に自殺した女が幽霊となって現れるという噂や、その娘と思われる謎の美女の写真など、多くの謎が提示されながら第3話まで進んだ。

 

 そう、第3話時点まで、この作品がカルト教団を題材にした物語だとは提示されていないのだ。

 

 第4話でとうとう「アビゲイル騎士団」という新興宗教の存在が明らかになる。

 

 数年前に、教祖と幹部3名が信者12名を拷問の末に殺害し、その凄惨な事件が明るみになって世間を震撼させていた。動機がうやむやなまま教祖と幹部の死刑が確定し、教団は解散することになったが、一部の元信者は今でも教義を信じているという。

 

 本作のヒロイン的ポジションで太郎と恋仲になる立木彩(川口春奈)も、教団の広報としてPRビデオを制作するなど、熱心な信者だった。

 

 そして、先週放送の第7話と、公式サイトに公開されている第8話のあらすじや予告映像で、ついに全貌が見えてきた。

 

 まず連続放火事件は、気のいい消防団仲間だった徳田省吾(岡部たかし)と、太陽光発電企業の営業スタッフである真鍋明光(古川雄大)が共犯しておこなっていた模様。真鍋はソーラーパネル普及を謳ってハヤブサ地区の土地買収を進めていたが、買収に応じない家を経済的に困窮させて土地を売らせようと、省吾が放火を繰り返した。

 

 彼らの真の目的はソーラーパネル設置などではなく、アビゲイル騎士団の後継団体「聖母アビゲイル教団」の拠点をハヤブサ地区に作ることだったようだ。

 

 第7話の後半、東京に行っていた太郎と消防団の仲間たちがハヤブサ地区に戻ると、異様な光景を目にすることに。ふだんは地元民しかいない寂れた集落に、一見すると観光客のようなよそ者たちが大挙している。聖母アビゲイル教団の信者たちだ。

 

 過去に、のどかな田舎の村に新興宗教の大型施設ができたり、白い装束をまとった信者たちが集まったりという報道が実際にあったことを、記憶している人は多いだろう。アビゲイルに特定のモデルとなる教団はなさそうだが、どうしても想起させられた。散りばめられていた謎がつながり、背筋に走る悪寒。もはやホラーだ。

 

■タイトルのおかげで、恐怖感を余すところなく体感できた

 

 ここまで明らかになり、『ハヤブサ消防団』というタイトルがつけられた意図に感服する。

 

 誤解を恐れずに言うなら、『ハヤブサ消防団』という作品名にたいした意味はないと思う。真のテーマを伏せておくための隠れ蓑のようなものだったに違いない。

 

『ハヤブサ消防団』というタイトルだけの印象で言うなら、消防団員たちの活躍と友情を描いた熱血ストーリーのようなイメージではないか。だが、中身は、田舎の集落にカルト教団が侵食してくるという物語だったわけで、ある種のミスリードだ。

 

 とはいえ、最初からカルト教団が絡んでいることを匂わせたタイトルでは、視聴者が身構えてしまうので、第4話以降のインパクトや恐怖感が激減してしまう。

 

『ハヤブサ消防団』というタイトル名から、この真のストーリーを予想することはほぼ不可能。だからこそ、日常に徐々に侵食してくる得体の知れぬ怖さを、余すところなく体感できたとも言える。

 

 主人公と気持ちをリンクして感情を推移させることができたので、同じように不穏な気配に怯え、同じタイミングでおそろしい計画に驚愕することができたわけだ。

 

 しかし、このタイトルのつけ方にはデメリットもある。

 

 中盤回まで観てもらえればおもしろさ(=怖さ)は伝わるはずという自信はあっただろうが、『ハヤブサ消防団』というタイトルを聞いて、「つまらなそう」と感じて観ないドラマファンも少なくないはず。

 

 そういう意味で、“池井戸潤原作” というブランド力はあれど、それを差し引いてもかなりのストロングスタイルの作品だと感じた。

 

 とても上質な恐怖心を味あわせてくれたこと、そして、その怖さを最大化するためにミスリードしたことに感服したが、タイトルでおもしろさを表現できないジレンマはあっただろう。

 

 もうひとつ特筆したいのが、一見バラバラに見えた謎や不気味なシーンが、全部きちんとカルト教団の話に集束してきていること。

 

 どのドラマとは言わないが、質の悪いミステリー作品やサスペンス作品は、視聴者に次回も観てもらうため、毎回終盤になるとショッキングなシーンを強引に挿入することが珍しくない。

 

 そういった衝撃シーンが、きちんと大筋の物語に関連していたり、真犯人につながっていたりすればいいが、ほとんど関係ない枝葉のサイドストーリーだったというオチもよくあること。視聴者の考察を混乱させるだけの三流の手法である。

 

 だが、『ハヤブサ消防団』で描かれたショッキングなシーンの数々は、しっかり真のテーマにつながっていて、見事に集束してきている。その構成のきれいさも素晴らしい。

 

 ――今夜放送の第8話の予告映像のなかで、白い服をまとった信者50人以上の集団が、無表情でゾロゾロと歩を進めるシーンがあった。こういったうすら寒く、恐怖心を掻き立てるシーンが、さらに物語に没入させてくれることだろう。

( SmartFLASH )

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