これまで、数えきれないほどたくさんのテレビ番組、映画に出演されている西田敏行さんですが、わたしの心に深く刻まれているのは、青春の1ページを彩ってくれたドラマ『池中玄太80キロ』(日本テレビ系)です。
1980年4月にスタートしたパート1から、最後にタイトルを西田さんの体重に合わせ、『池中玄太83キロ』に変更した「さよならスペシャル」まで、わたしの中では、ず~~~っと “特別な人” でした。
西田さん演じる池中玄太は、頑固で涙脆くて、いつだって一生懸命。学生だったわたしに、演技の素晴らしさや奥深さなど理解できようはずもありませんが、ほかの人とはちょっと違う方……という目で拝見していました。
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理由は簡単明瞭です。雑誌だったと思うのですが、憧れてやまない石川さゆりさんが、「誰のファンですか?」と聞かれ、西田さんのお名前を挙げられていたからです。
そんなことで!? と、思われるかもしれませんが、それがファン心理というものです。
それだけに、初めてお会いさせていただいたときは、嬉しさよりも緊張が遥かに上回っていました。
初めて西田さんにお会いしたのは、本田美奈子.ちゃんが西田さんと対立する夏木マリさんの娘役で、わたしが亡くなった妻(ほとんど遺影での登場でしたが……)を演じさせていただいた『遠山金志郎美容室』(1994年・日本テレビ系)でした。
二度めは、芸者さん役で出させていただいた『浅草ふくまる旅館』(2007年・TBS系)。
三度めは、西田探偵局長の顧問として『探偵!ナイトスクープ』(2014年・朝日放送系)。関西では驚異的な視聴率を誇るお化け番組です。
西田さんといえばアドリブが有名で、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)では、セリフの半分以上が台本にはないアドリブで、出演者全員がビビりまくっている……と、大きな話題になりましたが、わたしにはその記憶がありません。
緊張しすぎて気づかなかっただけでは!? う~~~ん、それもないとはいえませんが、わたしのなかの西田さんは、いつもニコニコ、優しく微笑んでいらっしゃいます。
一度、お食事に誘っていただき、2人っきりでふぐ屋さんに行ったときも「どうぞ、召し上がってください」と、丁寧に言葉をかけてくださって。恐縮のしっぱなしです。
一時期、メル友のように頻繁にメールのやり取りをしていましたが、いただくメールも同じです。
『冬美ちゃん元気? またご飯を食べに行こうね』という砕けたメールは一度もなくて『先ほど、番組に出演されている坂本冬美さんを拝見しました。とても素敵でした』という、いつもちょっとかしこまった感じのメールです。
温かくて優しくて、とっても真面目な西田さん。アドリブを仕掛けて、相手の困る顔を楽しむという、茶目っ気たっぷりの西田さん。おしゃれにハットを被り、温かくて味わい深い歌声で『もしもピアノが弾けたなら』など、素敵な歌を歌唱される西田さん。即興で歌を作って、その場で歌われる西田さん……すべてがすごすぎて、もう完璧です。
その西田さんから、わたしが座長を務める公演のパンフレットにいただいたのが「坂本冬美は見返り美人だ」というお言葉でした。正面じゃありません。振り返り、ちらっと横顔が見えたときの美人です。
これって……褒められている!? 喜んでいいの!? それとも、ビミョーに誤魔化されている? なんとも悩むお言葉ですが(笑)、でも、やっぱり嬉しいです。
もう一度と言わず、二度でも、三度でも、西田さんが歌っているお姿を拝見したいし、心温まる歌声をお聴きしたいです。
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、著書『坂本冬美のモゴモゴモゴ』(小社刊)が発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋