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小林幸子 “71歳のラスボス”は今夏「歌舞伎町のクラブイベント」へ…“なんでもアリ”の活躍の原点は師の言葉

芸能界デビューは9歳時。今でも芸能界の最前線を突っ走る(写真・福田ヨシツグ)
時代を映し、聴く者の心を彩る名曲の数々を世に送り出した“和の大作曲家” 古賀政男が、 “最後の弟子” としてその才能を見出したのが、9歳の小林幸子だった。
「先生は、私のことを『チビ、チビ』と呼んでかわいがってくださっていたのですが、デビューを前にしたある日、その先生から『チビ、衣装を買いに行くぞ』と言われて……」
目の前に現われたのは古賀の愛車、リンカーン・コンチネンタル。当時のことを思い出したのか、小林は「車の中が自分の部屋より大きくてびっくりしちゃったんですよね」と、目を丸くしてみせた。
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「デパートに着くと支配人をはじめ、お店の方がずら〜〜っと並んでいて。9歳の私にとっては “な、何これ?” ですよ。まわりの人から “すごい先生なんだからね” というのは聞いていましたけど、どれくらいすごいのか、そのときわかった気がします(笑)」
何十着と用意された着物の中から、古賀が小林のために自ら選んだというのが、今回のヒソモノ。約60年間大切にしているオレンジを基調にした着物だ。
「『蝶々の柄がかわいいねぇ。うんチビ、これにしよう』とおっしゃって。小さくてもう袖を通すことはできませんが、古賀先生が選んでくださったこの着物が私の原点です」
書斎でのレッスンが終わると、古賀はいつも必ずひとつかふたつ、小林に自身の経験、思いを伝えた。
「9歳の私にはなんのことか、さっぱりわかりませんでしたが、先生がおっしゃった言葉は全部覚えておこうと思って。いろんなことに遭遇するたびに、 “先生がおっしゃりたかったのはこれなんだ” と、ひとつひとつ言葉が思い出されて心に沁みてくるんですよ」
数えきれないほど多くの言葉を残してくれたという古賀だが、小林が今も特別に思っている会話がある。
「チビ、人は悲しくなるとどうなる?」
「泣いちゃいます」
「涙が枯れたらどうなる?」
「……わかりません」
「わからなくてもいいから覚えておきなさい。いいか、涙が枯れたら人はその場でしゃがむんだよ。そして、しゃがんだ後に、もう一度立ち上がるんだ」
古賀が選んだ蝶々柄の着物を纏(まと)い、『ウソツキ鴎』で華々しくデビューした小林だが、そこから急降下。200万枚を超える大ヒット曲『おもいで酒』に出合うまで、苦節15年の長い長すぎる下積み時代に突入する。
「その間、もう何度しゃがんだことか(苦笑)。そのたびに、 “倒れるんじゃない。しゃがむんだ” という先生の言葉を思い出して。しゃがんで力を溜めて、また立ち上がっての繰り返しでした」
『NHK紅白歌合戦』で魅せた宙乗りやド派手な衣装。ギャルメイクでDJプレーや人気ボカロ曲のカバーなど、斬新なものに挑戦し、今ではネット世代から “ラスボス” の愛称で呼ばれる小林の心のド真ん中にあるのは、古賀メロディの原点であり、真髄と言ってもいいだろうこの言葉である。
ーー歌で人はおなかいっぱいにならない。でも、心を温かくすることはできる。チビも、いつかそういう歌手になりなさい。
「ジャンルは関係ないんです。聴いてくださる方の心を温かくできるような歌手でいたい。そのためには、自分が楽しくなきゃいけないし、まわりも楽しくなきゃいけない。次、どうやったら楽しんでもらえるか!? それを考えるとワクワクしちゃうんですよね」
そんな小林が今夏チャレンジするのが、新宿・歌舞伎町にある日本最大級のクラブで開催する伝統と最先端が交錯する唯一無二のカルチャーミックス音楽祭『ZIPANGU the Party!!』だ。
「今年72歳になる私が、歌舞伎町のクラブですよ? ディスコじゃなくて、クラブ(笑)。信じられますか?」
真ん丸になった小林の瞳の奥が、キラキラと輝いている。
「今回が2回め。深夜2時スタートと聞いて、始まる前に眠くなっちゃうんじゃないかと心配したんですけど、蓋を開けたらもうギンギンで(笑)。年齢も国籍もバラバラのエネルギーの塊の中に放り込まれて、最高の一夜でした」
日本伝統音楽から歌謡曲、最新のダンスミュージックまでなんでもアリの世界。唯一、共通しているのが、すべてが “本物” であるということ。
「有名とか無名とか、そういうことじゃないんです。志や思いが本物で、それがみんな同じ方向を向いているかどうか。大切なのはそこです」
自身が楽しむことで、観てくれる人、聴いてくれる人の心を温かくしようと、今も変わらず全力で走り続ける小林。こんな小林を、 “不世出の大作曲家” 古賀政男はどんな思いで見るだろう。
「ふだんは難しい顔をされているんですけど、素顔はお茶目さんでしたから、きっと、 “楽しければ、それでよし!” と言ってくださるような気がします。そうですよね、先生!」
こばやしさちこ
1953年12月5日生まれ 新潟県出身 大作曲家・古賀政男に見出され、1964年『ウソツキ鴎』でデビュー。『おもいで酒』『雪椿』『もしかして』などヒット曲多数。コミケ、ニコ動などで見せるパフォーマンスが注目され、若い世代からは “ラスボス” の愛称で呼ばれている。新潟県新潟市のNSG美術館にて『小林幸子 ふるさと凱旋衣裳展〜ラスボスのキセキ〜』開催中(8月24日まで)。6月27日に公開された劇場アニメ『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』のエンディング主題歌『僕たちの日々』を担当
写真・福田ヨシツグ
取材&文・工藤 晋
アクセサリー・グロッセ