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六角精児、売れない役者時代を思い出す「30年越しの洋食店」

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2019.09.02 06:00 最終更新日:2019.09.02 06:32

六角精児、売れない役者時代を思い出す「30年越しの洋食店」

 

「六角さん、いつも大盛りだもんね。それじゃ足りないでしょ?」

 

「もう大盛り食べられる年じゃなくなったんだよ」

 

 会話の端々から、気のおけない間柄なのが伝わってくる。
 俳優・六角精児(57)が東京・笹塚の洋食店「ロビン」に初めて入ったのは、30年近く前。6年間在籍した大学を中退し、ぶらぶらしていたころだ。

 

 

「代々木の予備校に通う浪人生のころ、南新宿にあった同じ名前の店に入ったことがあったんです。ここは “違うロビン” だったんですが、そのまま通うようになりました。

 

 もとの値段がそんなに高くないし、プラス150円で量が1.5倍になる大盛りにできるんですよ。リーズナブルに美味しいものが食べられるので、とても助かりました。

 

 店名を冠した、この『ロビン(塩味のスパゲティ)』も好きでね。エビがたくさん入っているところも、僕の心をくすぐるんですよ。ほら、子供のころから、エビって高級なイメージだったから」

 

 六角にとっては、洋食の味=ロビンの味だ。メニューはほぼ制覇したが、オムライス、カレーピラフ、ミックスフライ定食(現在はメニューにない)を、よく食べた。いまでもロビンに来ると、その日暮らしだった日々を思い出すという。

 

「今もそんなに仕事があるわけじゃないけど、もっと仕事がなかった。その日暮らしの不安と気楽さが、ないまぜになったような思いが甦ってきます。僕はただの劇団員で、年に何回か公演があって、舞台にちょっと出ていたぐらい。

 

 非常に生活は苦しかったんですが、パチンコ屋にはよく通っていたし、ギャンブルもやってました。3カ月先の舞台まで何もない、何か新しい兆しがあるわけでもない。パチンコに勝ってはここに食べに来て、負けてはここに食べに来て。パチンコの休憩のときも食べに来ましたね」

 

学習院大学在学中の21歳ごろ

 

 高校時代、演劇部に入部したのがきっかけで演劇を始め、当時の部長だった劇作家・演出家の横内謙介らとともに、劇団「扉座」で役者を続けてきた。

 

「仕事がなくて、このまま食えなくて、死んじゃうかも」と思ったこともあったが、役者以外の仕事をしようとは考えなかったという。

 

「ほかの選択肢がなかったんですよ。20代後半に、『芝居って大変だ』って思ったことが一度あったんです。『自分は才能がないんじゃないか』と思ったときもあった。

 

 でも気がついたら、大学も途中でやめているし、なにか資格があるわけでもない。アルバイトもしてみたけど、ぜんぜん有能じゃなくて、『また来てくれ』とか、言われたことがないんですよ。

 

 そんな、人の役に立たない僕でも、少しは人に必要とされているのは舞台だけなんじゃないかと思ったときに、『これはとりあえず芝居にかじりつくしかないな』って思ったんです」

 

 役者しかできないと思っていたから、役者を続けるしかなかった。

 

「才能があったり、運に恵まれたりして、この世界で食べていける人はいるけど、僕の場合、長く続けてきたからなんとか芽が出てきただけで、けっして才能があったからじゃないです」

 

 そんな六角の当たり役となったのが、『相棒』シリーズ(テレビ朝日系)の鑑識課員・米沢守だ。

 

「僕をキャスティングした人、その15年ぐらい前に僕の芝居を小劇場で観ていてくれたんです。そのときに一生懸命やってたから『相棒』に繋がったわけで、急にじゃないんですよね」

 

 ここ数年、実力ある脇役たちが、「バイプレイヤー」と呼ばれて注目を集めている。六角もその1人だ。

 

「本来の脇役は、ワンシーン、ワンカットだけ出たりして、見えないくらいのところにいたりする人だと思うんです。でもいま、バイプレイヤーって呼ばれている人たちは、ストーリーにしっかり絡んでいて、メインに近い “人気者” という感じになっている。

 

 自分もそこに入れていただけるのは、ありがたいことだとは思うんだけど、バイプレイヤーって人気者じゃなくてもいいと思うんですよ、脇役なんだから。

 

 バイプレイヤーっていう言い方も、なんか今風のおしゃれな感じがして、僕はむしろイヤだ。役者だよ、役者でいいんですよ。僕はやっぱり役者って呼ばれるのがいちばん嬉しいです」

 

 多くの舞台や映画、テレビで活躍してきた六角は、6月で57歳になった。そんな彼が『怪人と探偵』で、初めてミュージカルに出演。明智小五郎とともに怪人二十面相を追う、警視庁・中村警部を演じる。

 

「いくつになっても挑戦だ!……とは、僕はぜんぜん思わないけど(笑)。57歳になって、新しい機会を与えられること自体が、ありがたいと思います。せっかくなので、挑戦してみようと思っています」

 

 長く「役者」を続けてきた六角だからこそ手に入れることができた、新しいチャンスである。

 


ろっかくせいじ
1962年6月24日生まれ 兵庫県出身 劇団「善人会議」(現・扉座)所属。同劇団の舞台に立つほか、映画、テレビなど出演多数。主演映画『くらやみ祭の小川さん』(浅野晋康監督)が10月公開予定

 

※初のミュージカル出演作は江戸川乱歩原案、白井晃演出の『怪人と探偵』。9月14日から29日まで神奈川芸術劇場、10月3日から6日まで兵庫県立芸術文化センターにて公演

 

【SHOP DATA:ロビン】
・住所:東京都渋谷区笹塚1-29-7 Fファーストビル2F
・営業時間:11時30分15時/17時19時30分 ※土曜は11時30分15時
・休日:水曜

 

(週刊FLASH 2019年9月3日号)

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