
「俺、ひとりになった感覚がないもん」と萩本欽一(写真・木村哲夫)

「『こういう人をお嫁さんにしたい』って決心したんだ」と萩本欽一(写真・木村哲夫)
■「もっと大事なことがあるんじゃない? 自分の未来にまっすぐ生きていきな」
ある日の夜、突然、スミちゃんが家に来た。「ちょっと酔っ払っちゃって、帰るのが面倒臭いから、今日はここに泊まることにした」っつうの。布団は1組しかねえから、俺は洋服脱がないで、柱に寄っかかって寝ようとしたら、「女の人とつき合ったことないんだね。こんなとこで寝なくていいんだよ」「いえ、そうもいきません」って返したら、スミちゃんはもうなにも言わずに寝て、次の日、出て行ったこともあった。
俺が劇場をやめて、麻雀にハマってプラプラしてたときは、「もっと大事なことがあるんじゃない? 自分の未来にまっすぐ生きていきな」って言われた。俺も、そうだな、と思って、「劇団浅草新喜劇」を立ち上げたんだ。
俺が22歳のときかな、大晦日に、スミちゃんが、段ボール箱を抱えてやってきた。いつも、突然なんだよ。で、お雑煮を作ってくれた。テーブル代わりの段ボール越しに、そのとき初めてスミちゃんを真正面から見た。初めてよ。美人とは思わなかったなぁ。でも、あまりにも嬉しくて言葉にならないね。ずーっと貧乏してきて、こんな幸せな一日があるんだ、って。「こういう人をお嫁さんにしたい」ってね、決心したんだ。
劇団を始めたら、運がやってきたね。テレビ局のディレクターが「出ないか」って。もうこれで売れた、と思った。でも先輩がね、「貧乏な格好して局に行くな。あと、電車で行くなよ」って言うのよ。そんなもんかと思って、赤坂に行くときは、1駅前の赤坂見附で降りて、タクシーを捕まえてた。でもさ、そもそもお金ないから、スミちゃんに電話で無心したら、「窓の下にいな」って。するとね、劇場の4階から、百円玉をくるんだ千円札が落ちてくるんだよ。お札だけだとヒラヒラしちゃうからね。スミちゃんはそんなとき、顔も出さなかったね。
スミちゃんに、「なんで応援してくれるの?」って聞いても、「うーん」って。いちいち説明しない人だった。それがあるとき突然、いなくなったんだ。知り合いに聞いたら、「欽ちゃんが有名になったから、これ以上は迷惑になるから」って劇場をやめちゃったんだって。で、俺も売れてくると、女のコがチラチラ目に入るようになってきた。相手は決まっていなかったけど、そろそろ誰かと結婚かなと考えたときに、俺は、スミちゃんに会わなきゃいけないと思った。
探して、見つけて、会うことになった。どっかのお店だったと思う。「あなたに『ありがとうございました』と言わずに結婚するのは卑怯だと思う」と伝え、「ずいぶん世話になった」と、お金を渡そうとしたの。1000万円から2000万円の間くらいかな。そしたらね、スミちゃんは、「そんなもん、よしな。世話した覚えはない」って言うの。そして、「かわいいコと結婚しなよ」って。
俺さ、素敵だなって思ってた別の女の人に、試しに「俺、結婚するんだ」って言ってみたことがあるの。その人とつき合ってたわけじゃないんだけど、すごく、がっかりされたんだよね。そのときに思った。そうだよね、ふつうは、そうなる。でも、スミちゃんは違った。「結婚しな」って言った。もう一回、気持ちが戻っちゃった。今度は、俺がスミちゃんのアパートに行った。
「あなたに、なんにもいらないって言われると、つらくて結婚できない。あなたが欲しいもののために、努力したい」って、伝えた。そう言っても、なかなか答えが返ってこない。そして、ふと、「田舎かなんかで、子供と一緒に生きていけたらいいかな」って言われたとき、すぐに、スミちゃんに抱きついた。子供ができるかどうかは、神様が決めると思った。そんな気がした。
それで、さよなら。スミちゃんとは終わったと思った。1年近くたったある日、突然、スミちゃんから電話があったんだ。
「子供が生まれた。籍を入れてほしいとか、そういう迷惑なことは言わない。ただ、名前だけつけてあげて」って。1分考えさせてと答えて目をつぶったら、田んぼの風景のなかに、風車をまわしている子供がいたの。それで、欽一の「一」とわらべで、「一童」って決めた。「ありがとう。頑張ってね、本当にさよなら」と言って、電話は切れた。
スミちゃんはね、俺がテレビに出ている有名人だから、自分の存在が迷惑になると思ってる。たしかに、やっとテレビに出られるようになって、まだやりたいこともあるけど、それでスミちゃんとの関係を潰すのは違うと思ったの。「芸能界なんてどうでもいい。スミちゃん、あんたは俺の嫁さんだよ」って言ったらさ、ものすごく喜んでくれるんじゃないかと考えたらさ、ワクワクしてきちゃった。
![Smart FLASH[光文社週刊誌]](https://smart-flash.jp/wp-content/themes/original/img/common/logo.png)







