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スマホを見ながら食事はするな「猫背」で物が噛めなくなる
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.02.25 16:00 最終更新日:2021.02.25 16:00
死ぬまで「噛んで」食べるというと、歯にばかり目が行きがちですが、実は噛んで食べるためには、舌がとても大きな役割を果たしています。舌がなければ、歯があってもものを食べることはできないのです。
ものを食べるときに舌がどのように働いているかを、順を追って見ていきましょう。
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まず、食べ物は舌が受け取ります。箸やスプーンなどから受け取ることもありますし、ソフトクリームを食べるときのように、舌が自ら食べ物を舐め取ることもあります。
次に舌は、口に入ったものを調べます。形や大きさ、柔らかさ、味などを感知して、飲み込んではいけないものを選り分け、口の外へと送り出します。魚の骨やスイカの種を吐き出せるのは、舌の敏感さと器用さゆえなのです。そして、柔らかいものであれば、舌はこれを押しつぶして飲み込める大きさにします。
一方、舌が食べ物を感知すると、唾液の分泌が促されます。噛むときは、舌が食べ物を前後左右に移動させて噛める位置へ送り、唾液と混ぜて食べ物の塊「食塊」を作ります。
もしも舌がうまく動かないと、食べ物を歯と歯の間に移動させることができないため、1回噛んだらそれで終わり。唾液と混ぜることもできないため、食べ物はいつまでたってもバラバラな大きなカケラのままで、飲み込める状態、すなわち食塊になりません。
食塊ができると、舌が上顎に向かって押し上がり、食塊を喉の入り口へ送ります。このとき、舌の動きと連動して「喉頭蓋」という蓋が気道を塞ぎ、代わりに食道の入り口が開きます。そして、食塊が食道へと送り込まれるのです。
このように、「噛んで食べる」ことの全工程に舌は関わっているのですが、歯に注意を払う人は大勢いても、舌に注意を払う人はあまりいません。しかし舌は、歯と違って取り替えることができません。歯は失っても入れ歯にすればまた噛むことができますが、舌はそうはいかないのです。
舌は筋肉でできていますから、体と同様に、使わなかったり年を取ったりすれば衰えていきます。「むせる」「食べこぼす」「滑舌が悪くなった」「以前よりも食事に時間がかかるようになった」などは、舌の機能低下が主な原因なのです。
続いて、別な質問を。
あなたは、どんな姿勢で食べていますか? 私がお昼時によく見かけるのは、スマホ片手に背中を丸めて食べている人たちです。要するに猫背で食べているのですが、死ぬまで噛んで食べるには、これはNG。いちばん誤嚥しやすい姿勢なのです。
ではなぜ、猫背だと誤嚥しやすいのでしょうか?
「食べ物は胃腸に向かって下りていくから、口から腸までがまっすぐな状態、すなわち背筋を伸ばした姿勢が、最も食べ物の移動がスムーズ。猫背だと食道や胃腸が圧迫されて、食べ物が移動しにくい」
こう思った人は、半分正解です。その通りなのですが、それだけでなく、猫背と誤嚥にはもう少し複雑な仕組みが絡んでいます。
ものを飲み込むとき、私たちは普通、ほとんどそれを意識しません。厄介なもの、たとえばめちゃくちゃ硬いせんべいとか、やたらに大きな錠剤とかを飲み込むとき以外、特に意識しなくても飲み込めます。
しかしそこには、非常に精妙かつ複雑な仕組みが備わっています。食べ物が気管に入らないようにするには、舌の下にある「舌骨」が適切に動いて、食塊を押し込む一連の動きを引き出す必要がありますが、これが難しいのです。
というのも、舌骨は関節によってつながることなく、まるでブランコのように、複数の筋肉によって宙吊りになっているから。姿勢の影響で頸(くび)の筋肉が緊張すると、舌骨の動きにも影響が出るのです。
そこで、猫背です。猫背でスマホを見ると、骨盤が後ろに傾き、背中が丸くなって、頸が前に伸びます。前に伸びた頸を支えるには、頸がまっすぐ背骨の上にあるときよりも大きな筋力が必要であり、本来は舌骨を動かすために使われる筋肉を、頸を支えるためにも使わざるを得なくなります。
すると舌骨がバランスを崩し、気道を塞ぐタイミングが遅れたり、食道が十分に開かなくなったりしてしまうのです。
若くて筋力が十分にあるうちは、猫背でスマホを見ながらでも、むせずにラーメンをすすることができるでしょう。しかし、50代、60代の人が同じことをしたら、むせる人が続出するに違いありません。
もちろん、高齢になればもっと危険です。しかも、ずっと猫背で食べていた人が、高齢になってから急に背筋を伸ばして食べようとしても、ムリなのです。生活習慣を変えられないということもありますが、ずっと猫背でいると、骨がその形に固まってしまうことがあるからです。
だからこそ、まだ柔軟に姿勢を直せるうちに、背筋を伸ばして食事をする習慣をつけていただきたい。それが、死ぬまで噛んで食べることにつながるのです。
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以上、五島朋幸氏の新刊『死ぬまで噛んで食べる 誤嚥性肺炎を防ぐ12の鉄則』(光文社新書)をもとに再構成しました。訪問歯科のカリスマが、口腔ケアの誤りと、「今日からできること」を教えます。
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