2015年施行の改正相続法により、相続税の課税対象者は一気に増加。基礎控除が4割程度も少なくなったためだ。
改正前、1年間に亡くなった人のうち相続税の対象になる人の割合は4%程度だったが、改正後は8%以上と倍増した。
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一方、非課税の場合も、遺産を整理し、兄弟間で分割するなどの手続きは生じる。
経済評論家の森永卓郎氏は、父親の「生前整理」を怠ったために、“相続地獄”に陥ったという。相続税の申告や遺産分割に備えてやっておくべきことを語ってもらった。
■親兄弟でコミュニケーションを取る
「いちばん大事なことは、親が元気なうちから仲よくしておくこと。兄弟も含めてです。肉親同士の仲が悪ければ、『争続』になることは目に見えていますから。
家族間のコミュニケーションは、いまや誰もが使っているLINEでグループを作るなど、SNSを利用するのもおすすめです。
遺産の話自体、親が亡くなることを前提にしたものなので、多かれ少なかれ配慮が必要です。親しき中にも礼儀ありと肝に銘じて、徐々に壁を取り払っていってください。
そのうえで、どういう財産があるのか、聞き取り調査をしていくのです。何銀行のどこ支店に口座があるのか、生命保険の有無、株取引はやっているか、不動産は持っているか。
『財産リスト』を作成できれば、相続はそれほど大変な作業ではないはずです」
■親がどこに住んでいたかを明らかにする
森永氏は父親の戸籍謄本の収集にかなりの時間と労力がかかった。相続の手続きでもっとも苦労するのが、この戸籍謄本集めだといわれる。
親が元気なうちに、生まれて以降、どこに住んできたかの履歴を聞いておこう。
「昔の人の場合、とにかく頻繁に戸籍を移していることが多い。戦時中に疎開先で移したということもあります。
父のように、空襲を経験していれば焼失している可能性もあります。とにかく、親と意思疎通ができるうちに調査を始めてください」
■同居の際はルールを決め、介護の記録をつける
また、親と同居、介護するときにはルールを決め、記録するべきだという。
「生活費は誰が負担するかなどのルールを決めること。そしていくらお金を使ったかは必ず記録しておくこと。相続のときに『これだけかかった』と請求できますから。
人件費も考慮して、いつどんな介護をしたか、簡単なメモでいいので残しておくべきです」
■コレクションはオークションに出す選択肢も
「うちの場合、親父のマンションに残っていたものは弟が遺品整理業者に依頼して全部処分してもらいました。
父は海外特派員もやっていて、なかにはお宝があった可能性もあるんですけどね。もしそういうものがあれば、今の時代はネットオークションなどで現金化も可能です。
あらかじめ、どんなものを持っているか聞いておいたほうがいいでしょう。ちなみに私の『B宝館』に展示している珍品のコレクションは数百万円の値がつくのですが、引き取り代に同じくらいかかるため、タダと鑑定されました(笑)」
相続でも「備えあれば憂いなし」なのだ。
もりながたくろう
1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。TBS『がっちりマンデー!!』、読売テレビ・日本テレビ系『情報ライブ ミヤネ屋』など出演番組多数。最新刊は『相続地獄 残った家族が困らない終活入門』(光文社新書)
(週刊FLASH 2021年2月23日号)