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巨大すぎる目、捨て身の技…「深海魚」にサバイバル術を学べ!
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.03.14 11:00 最終更新日:2021.03.14 11:00
2021年1月、海洋研究開発機構は、静岡県沖の駿河湾で新種の深海魚「ヨコヅナイワシ」を発見したと発表した。
新種の発見でおおいに盛り上がっている「深海魚」界隈。
あまりに独特な“奇魚・変魚”が多いことで知られるが、深海魚たちはなぜこのような超個性的な姿に進化を遂げてきたのだろうか。
その謎を、「お魚王子」こと岸壁幼魚採集家の鈴木香里武氏とともに解き明かす。
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「1mをはるかに超える大型の深海魚ですが、これほど大きな魚がこれまで発見されなかったのです。深海がいかに未知の世界であるのか、そのひとつの証左といえるでしょう」(鈴木香里武氏、以下同)
そして深海にはなぜか、個性的な生物が多い。
「深海は非常に過酷な環境です。水圧が高く、低水温。光がほとんど届かず、エサとなるプランクトンも少ない。そこで生き延びるためには、特殊な能力が必要です。
目を発達させわずかな光をとらえる、とにかく口を大きくしてなんでも飲み込むーー。各々が一芸に秀でた特殊な形に進化してきたのです。そのユニークな姿は、“生きざま”を表わしています」
己の強みを最大限に引き出し生き残った深海魚たち。厳しい競争にさらされる現代人にも、参考になる部分があるのではないか。
「社会を生き抜く知恵を、深海魚は教えてくれます」
以下、個性豊かな深海魚たちの生態を鈴木さんに解説してもらった。
■ミツクリザメ
●ネズミザメ目・ミツクリザメ科
●体長:6m
英名は「Goblin Shark」、つまり「ゴブリンザメ」。不気味な見た目から名づけられました。アゴはふだん収納されていますが、エサを捕食するときに高速で、大きく飛び出します。
その動きがあまりに速いので「パチンコ式摂餌」ともいわれます。泳ぎが得意ではないぶん、このような特殊能力を身につけたのです。ガメラと戦った「深海怪獣ジグラ」のモデルにもなりました。
■リュウグウノツカイ
●アカマンボウ目・リュウグウノツカイ科
●体長:5m
硬骨魚類としては最長の体長を誇りますが、泳ぐ力は非常に弱く、浜辺に打ち揚げられることもしばしば。
襲われても逃げる俊敏さがないため、身につけた技が「自切」。いまだ詳細は明らかになっていないのですが、尾の先から体の3分の1程度までを切り離すようです。優雅な姿からは想像できない、ハードな芸を持つ“激レアさん”です。
■フクロウナギ
●フウセンウナギ目・フクロウナギ科
●体長:1m
体の大半が口、という極端な姿。大きな口は捕食以外にも、威嚇のためという説もあります。尻尾の先端には発光器があり、これでエサを引き寄せている可能性も。
ボウエンギョなどとは反対に、目は頭の先に小さいのがついているだけで、こちらは視力に頼らない方向を選んだわけです。
■ボウエンギョ
●ヒメ目・ボウエンギョ科
●体長20cm
その名のとおり双眼鏡のように目が飛び出した姿で、人気が高い深海魚です。深海には発光生物が多いのですが、エサとなるプランクトンが放つわずかな光を逃さないようにするため、このような姿になったと考えられます。ただ、発見されることはごくまれで、その生態は謎に包まれています。
■フリソデウオ
●アカマンボウ目・フリソデウオ科
●体長:1m
写真は幼魚ですが、成魚も優雅な姿です。大きな美しいヒレはクラゲへの擬態と考えられています。
赤い点々の模様は、同じようなところに生息するクダクラゲにそっくりで、「私には毒があるのよ」(ユキフリソデウオ自身に毒はない)とアピールし、身を守っているわけです。
■ラブカ
●カグラザメ目・ラブカ科
●体長:2m
三つ又に割れた鋭い歯と、大きなヒダ状のエラが特徴。古代から姿が変わらず「生きた化石」といわれています。
深海は気候変動の影響を受けにくく、環境があまり変わらないため、これが進化の完成形なのかもしれません。映画『シン・ゴジラ』に出てくる“第1形態”のモデルとも。
■ニュウドウカジカ
●カサゴ目・ウラナイカジカ科
●体長;60cm
2013年に英国で「世界一醜い生物」と認定された、かわいそうな魚です。しかし、海の中ではいたって普通のビジュアル。
深海の高い水圧に耐え得る大量の水分を含んだゼラチン質の体が、陸に揚がると皮がはがれて垂れ下がり、こんな姿になるのです。それにしても「醜い」とはひどい。かわいいじゃないですか。
■クロデメニギス
●ニギス目・デメニギス科
●体長:15cm
2009年に近種のデメニギスの泳ぐ映像が公開されたときは衝撃を受けました。頭部がヘリコプターのコックピットのように透明で、その中に大きな目が埋まっていたからです。
わずかな光をとらえるために進化したわけですが、その姿は我々人間の想像の域を超えています。
■イトヒキイワシ
●ヒメ目・チョウチンハダカ科
●体長:15cm
海底に潜むでもなく、海中を泳ぐわけでもなく、「三脚」を構えて海底から少しだけ上のエサを待つ。まさにギリギリのニッチ(隙間)を狙った戦略なんですね。
上に伸ばした胸ビレをセンサーのように使いプランクトンを察知する技もあり、エネルギー効率の面からも、非常に合理的だと思います。
■オオグチボヤ
●マメボヤ目・オオグチボヤ科
●体長:25cm
詳しい生態は謎ですが、深海は栄養が少ないため、多くの海水を取り入れて少しでも栄養を取り込もうとしていると考えられています。
2000年に富山湾の深海で群生しているのが見つかりました。ぬいぐるみが販売されるほどの人気者ですが、口を閉じた“微笑み”の姿もかわいいです。
鈴木香里武(すずき・かりぶ)
1992年3月3日生まれ(うお座) 東京都出身 岸壁幼魚採集家。学習院大学大学院人文科学研究科心理学専攻博士前期課程修了。近著は『海でギリギリあきらめない生きざま。海のいきもの図鑑』(KADOKAWA)、『魚たちからの応援(エール)図鑑』(主婦の友社より3月10日刊)
写真・アフロ
(週刊FLASH 2021年3月16日号)