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【食堂のおばちゃんの人生相談】72歳・無職のお悩み

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.06.07 11:00 最終更新日:2021.06.07 11:00

「食堂のおばちゃん」として働きながら執筆活動をし、小説『月下上海』で松本清張賞を受賞した作家・山口恵以子。テレビでも活躍する山口先生が、世の迷える男性たちのお悩みに答える!

 

【お悩み/東方晴比古さん(72)無職】

 

 我が国の政治家は国会議員から田舎の議員まで世襲議員によって占められている。二世・三世は当たり前で、半ば “生業(なりわい)” と化している。このままでは将来選挙なんて不要になるのではと憂えています。

 

 

【山口先生のお答え】

 

 おお、天下国家を憂えていらっしゃる、壮大なお悩みの登場ですね。まことに頼もしい限りです。

 

 そうなんですよねえ。有名な政治家の方で二世・三世じゃない人を探すのは意外に難しいですもんね。どうしてなんでしょう?

 

 多分、お金が掛かるのが一つ。その土地の地縁・血縁のしがらみなど、新参者の参入を阻む因習が存在するのが一つ。後は票の読み方とか、経験者でないと分からないスキルが多いのが一つ。

 

 そんなこんなで、新参者が入り込めない世界が出来上がっているんじゃないでしょうか?

 

 あのう、これって伝統芸能の世界に近いと思いません? そう、今や政治も伝統芸能の一つになったんですよ。そう思うと分かりやすいでしょう?

 

 伝統芸能と言われてまず頭に浮かぶのは、歌舞伎でしょうか。

 

 歌舞伎の大名題は全部世襲です。市川團十郎とか、尾上菊五郎とか、中村勘三郎とかですね。つまり、その家に生まれないと、大きな名前は継げないんです。出世できないってことです。端役の家に生まれたら永遠に下積みのまま終わります。

 

 ただ、何事にも例外はあって、江戸末期に活躍した市川小團次なんて役者は、芝居小屋の火縄(マッチ)売りから役者になり、早変わりや宙乗りで評判を取り、河竹黙阿弥と組んだ狂言でも活躍して大名題に上り詰めた名優です。

 

 そして、近年の歌舞伎界は役者不足を補うため、国立劇場に研修所を設けて一般家庭出身者を募集し、役者の養成を行っています。今や研修所出身の役者も歌舞伎界の一翼を担うまでに層が厚くなりました。大人気の市川笑也、市川春猿も研修所出身です。

 

 そうそう、歌舞伎には “芸養子” 制度というのもあるんですよ。才能はあるけど家柄のない役者の卵を、名門役者が養子にするわけ。

 

 坂東玉三郎は守田勘弥、片岡愛之助は片岡秀太郎の養子です。

 

 と言うわけで、これからは政治も伝統芸能と割り切って、大先輩である歌舞伎の世界を見習ったら良いんじゃないでしょうか?

 

 つまり、“世襲枠” “雑草枠” “養子枠” を作って、それぞれの割合を決めておく。五対四対一とか、三対五対二とか、政党によって割合が違ってきたりして。

 

 でも、本当にこのままじゃ行き詰まりそうですね。抜本的な改革って無いんでしょうか?

 

やまぐちえいこ
1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。就職した宝飾会社が倒産し、派遣の仕事をしながら松竹シナリオ研究所基礎科修了。丸の内新聞事業協同組合(東京都千代田区)の社員食堂に12年間勤務し、2014年に退職。2013年6月に『月下上海』が松本清張賞を受賞。『食堂メッシタ』『食堂のおばちゃん』シリーズ、そして最新刊『夜の塩』(徳間書店)が発売中

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