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元公安警察が明かす「尾行」の真実…わざとバレる「強制追尾」とは?
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.10.08 16:00 最終更新日:2021.10.08 16:00
公安警察がスパイを尾行する場合、基本、チームで行う。しかし時には、1人で追わなくてはいけない場面もある。困るのは、2人の対象者を1人で追う場面だ。
たとえば「スパイの外交官A」と「Aに接触するスパイでないB」の2人を追っていたとする。その2人が接触の後に別々の方向に歩きだしてしまったら、どちらを尾行すべきか?
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答えはBである。
理由は、外交官は国際法で逮捕できないからだ。そのためスパイに接触した関係者を捜査して逮捕するしかない。日本では、スパイ行為そのものを罰する法律がないので、窃盗罪や横領罪などでスパイ行為を取り締まらなければならないのだ。
尾行を続けて関係者であるBが罪を犯した証拠を固めて、スパイ活動の実態を世に知らしめることのほうが、日本では重要なのである。
対象者を尾行するチームには、「強制尾行チーム(わざとバレバレの尾行をする)」と秘匿チーム(絶対にバレずに尾行する)」の2種類がある。強制尾行チームは対象者につきまとい、本来意図する行動をさせないという作戦をとっている。
尾行を中断せざるを得ない時、その原因には「失尾(対象に気づかれたり逃げられて見失うこと)」と「脱尾(高度な判断により、あえて尾行をやめること)」の2つがある。
失尾の場合、1人のスパイを監視するためにかなりの時間と経費をかけて続けてきた秘匿捜査のオペレーションが水泡に帰すようなこともある。この時のショックは大きい。
脱尾は、現場の判断でオペレーションを継続させることを最優先とする。その時の気分は、頂上を目前に悪天候のために登頂を断念、下山して再挑戦を期する登山家と同じであろう。
また「秘匿追尾」から「強制追尾」に切り換えることで、捜査を打ち切りにしてしまうこともある。
たとえば、重要な機密が持ち出されて、スパイの手に渡るのを何としても阻止しなければならない時、あるいは、情報漏れの量が大きすぎて、一刻も早く “蛇口” を閉めねばならない段階に来た時――こういう場合は関係者を逮捕することよりも、流出を食い止めることのほうを優先し、捜査員が表舞台に姿を現す。
こんなことを言うと不謹慎に聞こえるかもしれないが、普段は細心の注意で秘匿捜査にあたっている捜査員たちにとって、強制追尾は意外と楽しい仕事らしい。
堂々とスパイに付いていけばいいのだ。トイレに行くなら横に並んで用を足す。電車に乗るなら並んで吊り革に掴まる。パーティー会場に入るなら、入り口まで付いていって、「じゃあここで待ってるから」と手を振ってやる。
相手はイライラして食ってかかってくるという。顔に唾がかかるぐらい詰め寄られて罵られたこともあるそうだ。そういう時は、「お前とたまたま行く方向が一緒なんだ」と言い返してやる。
ソトイチ(外事一課。ロシア担当)の捜査員の3割ほどはロシア語が堪能だが、相手も日本語がペラペラなので、罵り合いはたいてい日本語になるそうだ。
あげく掴み合いの喧嘩に発展することもある。そうなると、誰かが110番通報して警察官がやってくる。警察沙汰になると困るのはスパイのほうだ。外交特権があるとはいえ、警察沙汰を起こすこと自体が彼らにとっては失態なのだ。だからスパイは歯ぎしりして強制追尾に耐えるしかない。
強制追尾を延々と続けた結果、数か月後にスパイが任期半ばで帰国していった例もある。これ以上日本にいても任務を果たすことができないと判断されて任を解かれたのだろう。
ところで尾行といえば、よくドラマでタクシーの運転手さんに「前の車を追ってくれ!」などと言うシーンがある。あれは、実際にあることだ。私もやったことがある。
こういう時に困ってしまうのが、やたら「張り切ってしまう運転手さん」。対象者の車を見失わないよう、ぴったりくっついて運転したりする。
気持ちは有難いのだが、対象者にバレては尾行の意味がなくなる。対象者の車の動きだけではなく、車との距離や周囲の交通状況の把握、二台を追う場合どちらを優先すべきかの判断など、尾行というのは常に神経を集中させないとできないものなのだ。
ある時「長年タクシーの運転手をやってて、ずっとこの日が来るのを待っていました。お代は要りませんのでどこまでも追いかけていきますよ」と言われたことがあった。初老の男性運転手さんだったが、この時ばかりは少年のような顔つきになった。
ただ、その言葉に従うと無茶な運転をされそうなので、尾行の注意事項を説明しながら、対象者の車を追ってもらった。もちろん、料金はきちんと払った。
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以上、勝丸円覚氏の新刊『警視庁公安部外事課』(光文社)をもとに再構成しました。元公安が明かす、外国人によるスパイ・テロ・犯罪行為を水面下で阻止する組織の実態とは?
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