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新しい火星探査の時代が始まった!ドローンを飛ばし気球で観測も
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.01.04 11:00 最終更新日:2022.01.04 11:00
2021年は火星探査にとって特別な年でした。新しい火星探査時代が幕開けしたのです。そこで、過熱する火星探査の現状をお伝えしようと思います。
■火星探査の多国籍・国際化
これまでアメリカや欧州主導で行われることが多かった火星探査に風穴が開きました。2021年2月から、アラブ首長国連邦のホープを皮切りに、NASA(アメリカ航空宇宙局)のパーシビアランス、そして中国の祝融号と3機の探査機が続々と火星に到着したのです。火星にいろいろな国が到達できるようになり、今後の探査活動がますます充実していくことが期待されます。
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また、2020年代後半には地下氷マッピングミッション(International Mars Ice Mapper計画)がアメリカ、カナダ、イタリア、そして日本の協働で検討されています。さらに、2030年代には日本独自の着陸探査を計画中です。
この「火星探査の多国籍・国際化」の始まった年として、2021年は火星探査史に刻まれることでしょう。
■ドローン初飛行!
NASAのパーシビアランスは地球外天体で初めてとなる「あるモノ」を火星に持っていきました。それは、ドローンです。インジェニュイティ(創意工夫の意味)と名付けられたこのドローンは、2枚羽の竹とんぼをサイコロに刺して足を生やしたような簡素な作りですが、これがなかなかすごいのです。
これまでに10回以上の飛行に成功し、ランダーやローバーでは乗り越えられないような起伏のある場所へ行ったり、上空からの俯瞰的な写真を撮ったりと、その小さい機体からは考えられないような “離れワザ” を繰り出しています。今後の探査ではドローンが大きな役割を果たしていくかもしれません。
■気球から火星を眺める
ドローン以外にも、様々な技術検討がなされています。フランス映画の『素晴らしい風船旅行』(1960年)には、気球から見下ろした街並みや山の美しい映像がふんだんに使われています。
火星の気球観測で、人が乗り込むことは想定されていませんが、カメラを用いることで、『素晴らしい風船旅行』と同じように火星版の素晴らしい風船旅行が見られる日が来るかもしれません。
実は地球外の天体で気球を使うという計画は比較的古くから研究されていて、すでに1985年には、ソ連が2機の気球(バルーン)を金星の上空約50kmに上げることに成功しています。
火星での気球の運用も、今のところは実現していませんが、検討自体は1980年代から行われています。例えば、フランスとロシアの研究チームはヘリウムを充填した気球で火星を観測する計画を提案し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)やNASAは、スーパープレッシャーバルーンと呼ばれる、高圧のガスを充填した気球を火星上空に上げるための研究を行っています。
スーパープレッシャーバルーンは、バルーン内部にガスを密閉する構造になっており、ガスの損失がありません。そのため、ガスを抜いて高度を調節するタイプの気球と比べ、滞空時間を格段に長くすることができ、うまくいけば数カ月にわたって火星の上空を飛行することが可能であると考えられています。
また、こうしたガスを充填させるタイプの気球に加え、周囲から取り込んだ大気を熱で温めて上昇させる、いわゆる熱気球型のバルーンを使用する計画も提案されています。
地球の熱気球は、バーナーの熱でバルーン内部の空気を温めますが、火星ではバーナーの代わりに太陽の熱を使うことが検討されています。気球の観測が実現すれば、広い範囲を周回衛星のカメラよりも高い解像度で撮影することができるようになると期待が集まっています。
さらに近年では、ヴァーチャルリアリティ(VR)の発展に伴って、離れた場所にあるものを目の前で見ることができるようになってきました。望遠鏡や顕微鏡が新たな世界を展開した17世紀、鉄道や電信が地球を小さくした(小さく感じさせた)19世紀のように、最新の技術が人々の距離感を変化させるという現象は、21世紀の現在においても起きています。
このような手法を気球から送られてきた映像に応用できれば、間接的に火星を旅行することができるようになるかもしれません。もちろん、ヴァーチャルな体験を旅行とみなせるかについては、さらなる考察や議論が必要です。しかし、ヘリコプターや気球から眺めた火星の映像が眼前に広がったとしたら、さぞ面白い体験になるはずです。
■火星サンプルリターンミッション始動!
一方、火星に探査機が行くだけの時代が終わろうとしています。火星の地質サンプルを持ち帰るミッションがスタートしているのです。
2021年に火星に着陸したパーシビアランスはジェゼロ・クレーターの調査を行っていますが、調査と同時に岩石の採取も行っています。用意したチューブにサンプルを詰めて所定の場所へ集積もしているのです。
パーシビアランスの役割はここで終わりで、地球に持ち帰る役目は、今後ESA(欧州宇宙機関)とNASAが送り込む探査機たちにバトンタッチします。現在の計画では、最速で2031年にサンプルを地球に持ち帰る予定です。
われらが日本も負けてはいません。JAXAは、2029年度に火星の衛星フォボスからサンプルを持ち帰る計画を立てています。火星の近くを周回するフォボスには火星から舞い上がったチリが降り積もっていると考えられており、フォボスから回収した試料にも火星の砂が入っていることでしょう。人類が火星の岩石を手にする日も近いのです。
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以上、『火星の歩き方』(光文社新書/臼井寛裕、野口里奈、庄司大悟著)をもとに再構成しました。火星の見どころスポットを紹介した決定版ガイドブック。
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