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樺沢紫苑『読む!エナジードリンク』自暴自棄をもたらす「0−100思考」「低い自尊感情」「少ない失敗体験」

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.02.07 06:00 最終更新日:2022.02.07 06:00

樺沢紫苑『読む!エナジードリンク』自暴自棄をもたらす「0−100思考」「低い自尊感情」「少ない失敗体験」

自暴自棄になりやすい人とは?

 

 1月15日、大学入学共通テスト会場である東京大学の前で、高校2年生の少年が、刃物を振り回し受験生ら3人を刺傷するショッキングな事件が発生しました。

 

「医者になれないのなら人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと考えた」と供述していることから、成績が下がり、東大医学部に入れそうにないことを悲観し、自暴自棄になったとみられます。

 

 

 昨年12月17日に起きた、25人の犠牲者を出した大阪の心療内科クリニック放火事件。このクリニックに通院歴のあった容疑者は、自身の体にガソリンをかけていることから、自らの死を覚悟した自暴自棄による犯行とみられます。

 

 どちらの事件も、自暴自棄になった果ての身勝手な犯行で、憤りを感じた人も多いでしょうが、なかでも、東大前の事件のほうは成績優秀だった高校生が起こした事件。自分の子供も「ひょっとして……」と考えると、けっして人ごととはいえません。

 

 自暴自棄になりやすい人には、何か特徴、共通点があるのでしょうか? あります。事件にまで発展することは珍しいとしても、メンタル的に追い詰められて自暴自棄になる人は多くいます。今回は、自暴自棄になりやすい人の3つの特徴について心理学の観点からお伝えします。

 

■(1)0−100思考

 

 0−100(ゼロヒャク)思考の危険性については、繰り返しお伝えしています。0−100思考は、物事を0か100か、成功か失敗か、白か黒か、イエスかノーかでしか考えられない極端な思考のことです。この思考の持ち主は「100点以外は、0点と同じ」と考えます。

 

「東大医学部に入る」か、入れなければ「切腹」という考え。きわめて極端な考えに思うでしょうが、0−100思考としては当然の発想です。

 

 普通の思考であれば、東大医学部に入れなければ、別の大学の医学部や第二志望に振り替えるという発想になるでしょうが、「次善策」「中間」「グレーゾーン」を受け入れられないのが、0−100思考の特徴です。

 

 人間は追い込まれたときに、もともとの思考パターンや性格が、極端な形になって現われます。つまり、キレやすい人はよけいにキレやすくなり、0−100思考の人は、よけいに極端な思考に陥るのです。

 

 0−100思考から抜け出す方法として、私のおすすめは「プランBを実行する」ことです。

 

 ハリウッド映画を見ていると、主人公がピンチに陥ったときに、相棒に「プランBはないのか?」と聞くシーンがよくあります。プランBとは、「次の手段」「次善策」のこと。最初のプランがうまくいかなかった場合、次の手段「プランB」に移行すればいいのです。

 

 しかし0−100思考の人は、最初の計画が「成功か失敗か」としか考えられません。そして、「失敗」するとどうなるのか? 頭が真っ白になる、パニックになる、思考停止、行動停止になる、あるいは、うつ病などのメンタル疾患に陥るのです。

 

 世の中、100%の成功も、100%の失敗もない。だいたい60~70点くらいの「ボチボチの成功」があるだけ。

 

「100点以外は0点」の思考で生きていると、人生の99%は失敗だらけ。何もいいことはないし、メンタル疾患に陥るか、自暴自棄になって人生を棒に振るのです。

 

■(2)自尊感情が低い

 

「自尊感情」という言葉があります。自尊感情とは、「自ら生きる価値を認識し、自分の生かされた命を大切にする感情。自分自身を尊重し、大切にする感情」です。

 

 つまり、自尊感情が高ければ、「死にたい」「自分を傷つけたい」「自分なんかどうなってもいい」という考えは生まれない。自尊感情が低い人は、何かあったときに自分を責め、傷つけ、さらに自尊感情を低め、それが極まると「死にたい」という気持ちに至ります。自暴自棄になりやすい人は、自尊感情が低いのです。

 

 自尊感情は、自己重要感、自己効力感などと並ぶ「自己肯定感」の構成要素のひとつです。つまり、自尊感情の低い人は、自己肯定感も低い。

 

 多くの人は、「自信満々で超ポジティブな人」を自己肯定感が高いと考えるようですが、それは間違いです。「欠点だらけ、失敗ばかりする自分。それも自分。それでいい」と、超ダメな自分でも、それを肯定できる人が「自己肯定感の高い人」です。

 

 大きな失敗をしたときに、「ダメな自分を認められない」としたら、どうなるのでしょう。人間の脳の扁桃体の仕組みを考えると、「闘う」か「逃げる」しかありません。

 

 この場合の「闘う」とは、他人を攻撃する、責める、他人の悪口を言う、あるいは、自分を責める、自分自身を攻撃する(自傷行為など)。

 

 同じく「逃げる」とは、現実からの逃避、学校や会社を辞める、人生からの退出(自殺)です。他人を攻撃し、自殺する。究極的に追い込まれて「闘う」と「逃げる」を同時におこなうと、自暴自棄になるのです。

 

 では、自尊感情を高めるにはどうすればいいのか? 何か失敗したり、落ち込んだりしたときに、ダメな自分を責めるのではなく、「それでいい」と自分を認めるのです。

 

 独り言でもいいので、「それでいい」「それも自分」と自分を肯定する言葉を口にしてみる。それだけで気分はポジティブになり、それを続けていくと、自然に自己肯定ができるようになります。

 

 しかし、ほとんどの人は、真逆のことをしています。「私はモテないんで」「私はダメな人間なんで」「生まれつき頭が悪いので」と、自分の欠点や短所を卑下して、自分を責める人のなんと多いことか。

 

 自分を責める言葉を一回言うだけで、あなたの自己肯定感はマイナス1点となります。「それでいい」と自分を認めると、自己肯定感はプラス1点。毎日、自分を卑下している人の自己肯定感は、マイナス1万点くらいでしょうか。

 

 自尊感情が低いと自覚している人は、自分の口癖を変えるだけで、自尊感情や自己肯定感を比較的、容易に高めることができます。

 

( 週刊FLASH 2022年2月15日号 )

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