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思い出のランドセルをリメイク「キーワードはオンリーワン」

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2017.06.08 11:00 最終更新日:2017.06.08 11:00

思い出のランドセルをリメイク「キーワードはオンリーワン」

『写真:AFLO』

 

 東京で70人もの職人を抱える鞄製作所の社長。鞄作り一筋の男は、新しい施策を次々打ち出すアイデアマンでもある!

 伊藤勝典さん(53)は伊藤鞄製作所の二代目社長である。1983年、19歳のときに伊藤鞄製作所に入り、「日本で三本の指に入る鞄職人」といわれた父親から技術を学んだ。

 

 そして1997年、33歳のときに、現在は会長である初代から社長を引き継いだ。しかし2人で鞄を一日がかりで作っても生活するのがやっとの状態が続き、収入を上げるために問屋から仕事を受注し、外注に回すシステムを作った。

 

 こうして、40代の前半まで会社は外注業務を成長させながら、会社の業績も順調に伸びていった。ところが、5年、10年先を見ると外注先の職人の高齢化や、工場自体の問題があり、とても続けられそうにはなかった。
 

 

「43歳のとき、これではいけないと思い、社内に生産拠点を作って、職人を育てることに方向転換をしました。もともと父も私も職人です。今思えばこの決断が私にとっては決定的な転機となりました。本来の鞄製作所に戻ったわけですから。

 

 長いこと製作をしていなかったので、なくなってしまった道具もあり、道具を揃えることからのスタートでした。職人の募集をしても、匠ブームの前ということもあって応募者は素人の若い子ばかりで、どうしようかと思いました」(伊藤さん)

 

 若い子の教育では、昔の「見て覚えろ式」では若者はどうしていいのかわからず、かえって仕事に対する興味を失ってしまうことがわかった。

 

 そこで、教え込む形のカリキュラムを組み、普通なら3年かかる技術の習得を1年間で終わらせるようにした。すると若い子たちが意欲的に学ぶようになり、技術を習得するとそれぞれが自慢するようになった。

 

 やる気さえあれば誰でも3年くらいで一流の職人になれる。こうして、職人集団を抱えて「メイドインジャパン」を謳う鞄製作所に生まれ変わり、今も成長を続けている。

 

「働きづめで来たので、以前から50歳で社長を辞めようと思っていました。ところが次世代の成長が間に合わず、48歳のときでしたが、これでは無理だと55歳まで5年間延長する旨をみんなに話しました。

 

 あと2年ですが、去年体調を崩してしまい、1年分の計画が滞ったままになってしまいました。今は、東京オリンピックの2020年に一線を退く形で準備を進めています。実質あと3年です」(同)

 

 ここ数年、業界自体はインバウンドでメイドインジャパンがもてはやされた。しかし、今はブームも去った観がある。それを見越して取り組んできたのが、修理事業とリメイク事業だ。

 

 自社製品を修理したり、思い出の詰まったランドセルをミニランドセルや財布、キーホルダーなどにリメイクする部門を昨年の11月に、正式に立ち上げた。客にとっては二つとない貴重品であり、オンリーワン商品という考え方で取り組んでいる。

 

「これからは大量に作って売り上げが上がった、利益が出たという時代ではないと思います。自分たちが作ったものをお客さんが本当に喜んでくれた声を聞くことによって、自分たちも幸せになれるという流れを作っていかないと、この業界は成り立ちません。

 

 その仕組みをランドセル・リメイクと修理部門で作り上げていきたい。この事業が今後の私たちの商売の柱になると考えています」(同)

 

 伊藤さんは一昨年、伊藤鞄製作所のオリジナルブランドを立ち上げた。レディース商品の「アンメ」、メンズ商品の「アンメートルプロダクションズ」だ。

 

 これが、ファッションブランドのヨウジヤマモトとコラボできることになり、イタリアのフィレンツェでおこなわれた展示会にも出品した。評判も売れ行きも上々で、今後もオンリーワン商品に近い形で展開していく予定だ。

 

 また3年前には本社の裏に、ショールームと作業場用の白亜の瀟洒な新館を建てた。1階のショールーム横には近所の人がランチを食べに来たり、休憩や打ち合わせができる広くて洒落たレストラン&コーヒーショップもある。

 

「今年からある程度の決定や、計画を組むことなどを下の人たちにやらせるようにしています。みんな責任感を持って取り組んでいる。

 

 これまでなら私が口を出したり、自分でやったりしていたのでしょうが、体調を崩したことがかえって世代交代にプラスになりました」(同上)

 

 手は打ってきた。とはいえ70人の職人と30人の従業員を抱える社長の責任は重い。広報担当の一人娘を含め、次世代の成長は欠かせない。そのなかから社長になる覚悟を持つ人材が現われるか。

 

「オリンピックは観戦三昧、社長交代後は車で全国ツアーが最大の楽しみ」と伊藤さん。

 

 それが実現するかどうかはここ1、2年にかかっている。

 

(週刊FLASH 2017年6月13日号)

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