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青森山田高校「幸運のユニホーム」を作った男が語る人生の転機
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2017.06.15 16:00 最終更新日:2017.06.15 16:00
サッカーと洋服。どちらも好きだった少年は、長じて選手のユニホーム作りというかたちで、自らの望みをかなえた。「ボンボネーラ」代表取締役の植田眞意人さん(42)である。
兄弟揃ってサッカー人生を歩いてきた。2歳上の兄はサッカー日本代表やJリーグFC東京のサポーターのリーダー的存在である。サポートするチームの試合では、国内に限らず海外でも必ずスタジアムで応援をリードする。サッカーの世界では知らない人がいないほどの有名人だ。植田さん自身は小学4年生のころからサッカーを始め、選手を目指した。
「兄貴によく国立競技場に連れていかれた。Jリーグができる前で読売クラブ、日産という時代。客がいなくて、観客席を走り回って遊び場にしていた。サインボールを選手が持ってきてくれたり、シーズンの終わりには読売クラブの選手が、小学生の僕とかにユニホームをくれたりした。そのときに、いつかこういうユニホームを作ってみたいと思った記憶がある」
中学時代はサッカーの練習に励んだが、高校生になるころにはサッカー選手になることを諦めた。それで、洋服が好きだったのでファッションの道に進もうと考えていた。専門学校という選択肢もあったが、大学は法学部に通った。それでも卒業したら洋服屋か古着屋でも始めようと思っていた。
1995年に兄がサポーターグッズを売る「ボンボネーラ(おもちゃ箱)」という名のショップを作った。そこで服のたたみ方でも覚えようとアルバイトとして入った。ところがそのうちに、自分でも洋服を作るようになり、それが今の仕事を始める第一歩となった。
「兄の会社はサッカーファンの間では名が知れ渡るようになっていた。ところが2002年に日韓ワールドカップが開催され、サポーターグッズより、ユニホームをはじめとするオフィシャルな物が売れるようになった。
そこで方向転換しようと、ファッションアパレルを始めた。最初は調子がよかったが、次第にサッカーの要素がなくなると、かつてのサッカーファンが去ってしまった。それで、再度方向転換をした」
2006年に植田さんは兄から会社を引き継ぐ。そして、選手に着てもらうユニホーム作りを最終目標にして、スポーツギア系の商品を作るブランド「ボネーラ」を立ち上げた。“新しい時代の創造”を意味する造語で「子供のころから日本を代表するサッカーメーカーといえば、ミズノやアシックスしかなかったので、次の位置につけたいという思いもあった」。
アパレル系からの方向転換が植田さんと会社の転機となった。仕事はチームのユニホーム、トレーニングウエア、バッグ、シューズなどスポーツウエア全般のデザインと製造販売である。
現在、Jリーグでは「ギラヴァンツ北九州」にユニホームを提供している。ギラヴァンツ北九州は昨年までJ2所属で、J1入りも期待されたが、今季はJ3に落ちてしまった。しかし、悔しいこともあれば嬉しいこともある。
「第95回全国高校サッカー選手権で優勝した青森山田高校のユニホームは、うちが作ったもの。1年前から関わっているが、ユニホームが変わってからいろいろな大会でベスト4以上という成績を残し、幸運のユニホームと呼ばれていた。カモフラージュ系のデザインで、よく見ると青森県の象徴であるリンゴがいっぱい描かれている。
そのことがテレビのニュースなどで取り上げられて、話題になった。それもあってオーダーが殺到した。デザインからすべてオリジナルで製作する。いろいろなカテゴリーのチームを合わせると、作った数は500チームを超える」
全国のサッカーチームの数は高校で約4500、小・中学校や女子、さらに大学や同好会などを加えるとチーム数はきわめて多く、商機は限りなくある。フットサルが1チーム5人でおこなうため最低ロットは5枚である。そのオーダーシステムと、独創的なデザインが売りだ。昔に比べてオリジナル性が望まれる時代だからこそ、大手より「ボネーラ」ができることも多い。
「競技場で大勢のサポーターがチームのユニホームを着ている。僕らが作ったものでスタンドが埋まる。そこに快感を覚えるというか、それがおもしろい。ユニホームは毎年変わるし、大きなビジネスにもなる。今は『ケツメイシ』のツアーグッズの一部も手がけているが、やはり僕らが作ったものをみんなが着てくれているのは嬉しい」
サッカー人口は年々増え、サッカー関係の仕事も増えている。それだけにライバルも多くなった。
「基本はサッカー馬鹿。サッカーに関わる仕事をしてきてよかったし、これからも続けていきたい」
子供のころから土日はサッカー観戦で過ごしてきた。それは今でも変わらない。
好きだからだけでなく、仕事のうえでも競技場に足を運び、自分の目で見て初めて気づくことがある。それを営業やデザインに反映させる。
現場主義を信条とする植田さんの土日のサッカー観戦はまだまだ続く。
(週刊FLASH 2017年6月20日号)