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人間を超え始めたAIとの関係性…課題は人のクリエイティブへの「高潔な気持ち」
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.11.25 11:00 最終更新日:2022.11.25 12:06
AIが躍進する中で、AIのブラックボックスという問題に人類は直面している。AIが膨大な情報を処理する中で、それが下した判断の理由をもはや誰も説明することができないという問題である。AIの判断を人間に理解できる形に変換すること自体が、AI研究の中で熱い分野になっているほどである(XAI:Explainable Artificial Intelligenceという)。
これは単一の脳細胞は単純明快なのに(もちろんまだまだ精緻に調べることは沢山残ってもいるが)、それが数千億集まって脳になると「なぜ意識が生じるのか」がわからないという、脳のブラックボックス問題と相似形を示している。
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結局人間には「意識に近似するとブラックボックスが生じてしまう」という問題から逃げることができないのかもしれない。
AIによる画像認識の現状について少し話そう。
2次元の写真画像と人間による教師データ、例えばへちまの画像に「へちまだよ」という正解の言語情報でタグづけた組み合わせを100万以上与える。このAIに新規の画像を見せた時に、それが正しく何の画像かを答えられる割合は9割程度になる。今はそのレベルまで来ている。9割を低いと見るかどうかは、意見が分かれるだろうが、人間だって10割にはならないのだから、十分な高さだと見る意見もある。
この時「では、そのAIは2次元画像を3次元的に見ているのか?」という問いを立ててみよう。実はAI研究者にも、その答えはわからない。ただ少なくとも、3次元構造が把握できていないと正解できない “物体認識” をAIは既に実現している。しかし、現状人間には「AIがどのように3次元的な情報の分析をしているのか?」はわからない。
それなら、XAI研究のトピックとして、AIが3次元構造を2次元画像からどのように復元しているのか?を人間にわかるような形で調べて、提示するという作業をしてみよう! こうなった時、我々知覚心理学者は驚きを覚える。それはまさに「人間の脳における3次元知覚の研究の歴史」を繰り返しているからだ。人間の脳が、AIに置き換えられただけではないか!
もちろん人間とAIには違う部分がある。人間は制約条件で解を絞ることが心理学の歴史の中で明らかにされてきた。例えば、光は上から当たるものだと思い込むことで、あり得る判断の解を絞る。物体は凸面であると思い込む(凹面の顔などない!)ことで、不要な誤解を減らす、のように。
90年代には、AIにもその路線の考え方があったのだが、Residual Neural Networkの登場以降の深層学習においては、制約条件はむしろ邪魔になっている(中国人若手研究者であるカイミン・フェによって発案されたResidual Neural Networkは、脳の神経細胞の一つピラミダル・セルの情報伝達の特性に着想を得たといわれている。情報を完全体としてやりとりせず、前後の細胞との差分のみを伝送するという方法で、深層学習におけるトータルの計算量を劇的に節約できるという発見だった)。
今のトレンドは、とにかく学習のデータ数を増やすというアプローチである。制約条件を設定すると、間違った最適解、小さな間違ったエアポケットのようなものに自分から突っ込みがちになるのだ。とにかくより多くのデータを食わせた方が、間違った分岐に入らずに正しく判断できるようになると、今のAI研究者は考えている。
例えば、過去の将棋のAIでは名人たちの棋譜を初期の学習データとして優先的に学習させた。しかし、今は全ての可能性を同列に学習するところから始めた(制約条件を設定しない)AIの方が、名盤とされるものに強く重みをつけた(つまり制約条件を持たされた)AIよりも、最終的にずっと強くなることがわかっている。
制約条件のせいで生じる間違ったエアポケットとは、人間の視覚でいえば「錯視」にあたる。思考、思想でいえば「思い込み」や「偏見」である。差別をなくすためには、より多くのデータを求める態度を人間の中に作ることが必要だ。それを僕たちは「学び」と呼んできた。AIが人間を超えてしまう瞬間が訪れるとすれば、この点においてこそと思う。
■AIは人間を超えるか?
私:このプロレスラー弱いな。なぜ?
AI:トマトを折るパフォーマンスしかしない。
爆笑は無理でも、クスッとはなるだろう。今、AIはかなり “笑い” ができる。
世界各地で、笑いを学習させ面白く答えさせるアプリ・SNSアカウントが存在する。膨大な数の大喜利のお題とその回答、そして人間がつけたその評価値を学習させる。すると初めてのお題に対しても、彼らは的確に答えられるようになる。ちなみに、劇場の漫才師の声と、笑い声と拍手の音情報を学習させれば、笑いの評価値抜きでも、AIは笑いを覚えていけるはずだ。
2021年12月のネイチャー誌上で、AIが数学の順列に関する “人間が知らなかった定理” を発見したことが報告された。今後AIが数学を全て解く日が来る可能性はあるだろうか?
万が一そんな日が来ても、数学という学問が消える可能性はないだろう。なぜならAIの解法を人間に理解させる方法がきっと見つからないから。
2022年5月。毎夜日付けが変わる3分間、NYタイムズスクエアはAIが創り出したアートワークに支配されていた(Critically Extantというイベント)。絵を描くAI(DALL・E2などが有名)は、人間の絵師から仕事を奪い始めている。
車運転時の倫理判断も、4000万件の人間の判断を学習させることでAIにもそれを身につけさせうる(2018年のネイチャー誌の論文より)。
「人間らしさ」と呼ばれてきたものは、結局のところ「機械的な何か」でしかない可能性がある。マーク・トウェインの「人間機械論」は証明されかかっている。この言葉に愛を感じられない人には、「機械人間論」とか「機械は崇高だった」と言い換えても良い。
『マトリックス』は、AIとの戦争に負けた人間の哀れな世界を描いている。『火の鳥』では国政を司るAI同士の言い争いから、核戦争が起こる未来を予言している。手塚治虫は、人間はAIを神格化し率先して奴隷になるという未来を予言した。AIと戦争するほど人間は高潔な態度をとれないだろうと。
人のクリエイティブだけが人にささる場面がまだあるはずで、その高潔な気持ちをいつまで保てるかは今後の人類の課題になるだろう――。
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以上、妹尾武治氏の新刊『僕という心理実験~うまくいかないのは、あなたのせいじゃない』(光文社)をもとに再構成しました。幸運と不運、成功と失敗、すべては事前に決まっているという「心理学的決定論」とは?
●『僕という心理実験』詳細はこちら
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