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社会人の学び直しを支える「アンラーニング」旧来の知識やスキルを捨て去る「3つの業務」とは

ライフ・マネー 投稿日:2023.03.31 11:00FLASH編集部

社会人の学び直しを支える「アンラーニング」旧来の知識やスキルを捨て去る「3つの業務」とは

 

 リスキリング(社会人の学び直し)を支えている具体的な学び行動に「アンラーニング」とよばれるものがあります。「アンラーニング」とは、新しい仕事のやり方やスキルを獲得するため、古いやり方を捨てる行動です。日本語では「学習棄却」とも呼ばれますし、より柔らかい言い方では、「学びほぐし」とも呼ばれています。

 

 知識やスキルを蓄積していくだけではなく、凝り固まった古いものを「捨てていく」「ときほぐしていく」というダイナミックな過程を強調するのが「アンラーニング」のコンセプトです。

 

 

 アンラーニングが進む上での大きな要素が、筆者が「限界認知」と呼んでいる経験です。

 

 限界認知とは、「これまでの仕事のやり方を続けても、成果や影響力発揮につながらない」という自身の仕事の限界を感じることです。これまでの仕事のやり方を続けても「会社や組織全体に影響を与えられない」「メンバーがついてこない」「プライベートと両立できない」と感じる経験が、就業者のアンラーニングを促進します。

 

「このままではいけない」「変えなくてはならない」というある種の切迫感が、個人のアンラーニングを促進しているのです。

 

 では、どんな具体的業務が、こうした「限界認知」の機会を与えているのでしょうか。それさえわかれば、アンラーニングを組織的に促進する実践的な示唆が得られるはずです。

 

 具体的な業務経験との関係を分析してみると、限界認知とプラスの関係があったのは、大きく以下の3つの業務経験でした。これらの経験が、「このままのやり方ではまずいかもしれない」というある意味での危機感を与えていたということです。

 

 1つ目に「修羅場」の経験です。顧客との大きなトラブルや、事業・プロジェクトの撤退、大きな損失計上など、長い就業人生においてはストレスフルでネガティブな出来事があるものです。

 

 そうした乗り越えなくてはならない修羅場の経験は、既存のやり方への限界を感じさせていました。やはり、大きな「壁」にぶつかった時、人は今の仕事を見直す契機を得るということでしょう。

 

 修羅場のような一皮むける経験の重要性は、これまでのリーダーシップ研究の中でもしばしば指摘されてきましたが、役職者やリーダーに限らず、従業員のアンラーニングにも役立っているようです。

 

 2つ目に「越境的業務」です。他組織との共同プロジェクト、副業・兼業、海外での勤務など、自分のホームの環境ではないアウェイの環境で働いた経験は、限界認知を促していました。

 

 近年、社会人の学びの領域では、「越境学習」が注目されています。越境学習とは、ホームとなる本業と、アウェイとなる他の組織での仕事を行き来することによる学びです。

 

 いつもの仲間と進める仕事は、阿吽(あうん)の呼吸のように言葉が通じやすく、進めやすい環境にあります。一方で、アウェイの環境で行う仕事では、いつもの話や感覚が通じずに、ある種の葛藤を経験することになります。そうしたいつもと違う環境に身を置くことは、やはり限界の認識につながります。

 

 今、多くの人にとって身近になってきた越境経験の1つが「副業」でしょう。2018年、厚労省が「許可なくほかの会社等の業務に従事しないこと」としていたモデル就業規則を改定したこともあり、副業は新しい働き方の選択肢として一気に注目を集めました。改定をきっかけに、企業の間では自社の従業員に副業を解禁する流れが続いています。

 

 また、ボランティア活動をしたい人とNPO・NGOをつなぐサービスも活性化してきました。副業もボランティアも、いつもの業務とは異なる場に身を置く越境的な経験です。こうした普段と異なる場が、アンラーニングともやはり紐づいています。

 

 3つ目は、「新規企画・新規提案の業務」です。新規のプロジェクトの立ち上げや、新しいアイデアや事業を提案する作業においては、これまでのやり方の延長線上では通用しないことがほとんどです。

 

 既存ビジネスの閉塞感から、従業員に広くアイデアを公募したり、社内コンペなどを行う企業も多くなってきました。そうした、目の前にはない新しい種をまく仕事は、健全な「壁」となって限界認知につながっているようです。

 

 実は筆者もかつて、市場調査会社で働いている際、リサーチ業務と同時に新規事業開発の業務を担当していました。売れるかどうかわからない新しいサービスの企画とデリバリーにおいては、しばしば既存のサービスを「否定」しながら顧客に提案する必要もありますし、その一方で、新しい業務フローを円滑に回すために社内で慎重に味方を増やしながら進めていくことが欠かせませんでした。

 

「この新しいやり方では快く思ってくれないだろうな」と感じられる社内関係者へのコミュニケーションには実に気を使ったものですが、通常の仕事とは違う、大きな経験となったことは確かです。

 

「過去の仕事のやり方や知識にしがみついてしまう」ことが問題になる時、その理由としてしばしば「過去の成功体験に縛られている」ことが指摘されてきました。

 

 ですが、アンラーニングを妨げているのは「過去の成功」ではなくむしろ、今もなお浸り続けている現在の「中途半端な成功体験」であることです。今の仕事のやり方に「限界」を感じることのない、安定的な仕事の中で、中途半端な評価を受け続けることが、「変わらなさ」「捨てられなさ」へとつながっています。

 

 であるならば、形骸化した目標管理のあり方から、幅広い業務経験の不足まで、従業員の「今」の就業環境を再設計することが、アンラーニングの促進へとつながるはずです。「過去への郷愁」を捨て去らせることよりも、人材マネジメントの「現在」に目を当てることが、学びの設計者の考えるべきことです。

 

 

 以上、小林祐児氏の新刊『リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社新書)をもとに再構成しました。日本企業がリスキリングを通じて生まれ変わる方法を提言します。

 

●『リスキリングは経営課題』詳細はこちら

( SmartFLASH )

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