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自分が損をしても相手に儲けさせたくない…日本人を縛る「スパイト行動」とはなにか

ライフ・マネー 投稿日:2023.04.01 11:00FLASH編集部

自分が損をしても相手に儲けさせたくない…日本人を縛る「スパイト行動」とはなにか

 

 昔から日本には、「となりに蔵が建ちゃ、わしゃ腹が立つ」という言葉があるように、他人の成功をうらやんだり、ねたんだりする傾向があるのは事実でしょう。そしてその嫉妬の論理が、どうやらお金に対する歪んだ見方や考え方につながっているような気がしてなりません。

 

 働く日本人の約9割は給与所得者ですから、成績によって多少の差はつくものの、極端な格差は生まれません。役員にでもなれば違ってくるでしょうが、そうなれる確率は極めて少ないものです。したがって普通に勤め人をやっているだけでは、それほど極端な差は付かないといっていいでしょう。

 

 

 となると、勤め人でお金持ちになるのは、親から莫大な遺産を相続するか、自分で投資をすることで資産形成を果たすか、多くの場合そのどちらかになります。特に、前者のような恵まれた人はそれほど多くありませんから、やはり投資か、あるいは副業で収益を上げることで大きな資産を作ることになるはずです。

 

 仕事で差が付くのであれば、ある程度あきらめがつくかもしれません。もちろん人事評価にだって不満や妬みは付きものですが、これは人が決めることなのでどうしようもありませんし、仲間と一杯飲みながらぼやいていれば気分も晴れてきます。

 

 ところが投資で儲かったとか、副業で利益を上げたという話を聞くと、そういう人に対しては、「うまくやりやがって!」とか、「仕事をまじめにせずに他で儲けるのはけしからん」と言う人が必ず出てくるのです。

 

■自分が損をしてでも相手に儲けさせたくない

 

 脳科学者の中野信子さんと漫画家のヤマザキマリさんの共著である『生贄探し――暴走する脳』(講談社+α新書)に、とても面白いことが書いてあります。

 

 この中で中野さんは、「日本人は他国よりも顕著に『スパイト行動』をしてしまう傾向がある」と述べています。「スパイト行動」というのは “意地悪をすること” という意味です。もっと突っ込んでいえば「自分が損をしてでも相手に儲けが行かないように嫌がらせをする」という意味だそうです。

 

 たとえば、2020年に支給された特別定額給付金については、当初、コロナ禍で収入が大きく減少した世帯に対する救済策として30万円が給付される予定でした。

 

 ところが、それに対して異論が続出し、結局すべての世帯に一律1人10万円となりました。不思議なことに人間の脳というのは、自分ではない誰かが30万円得をしたら、自分が30万円損をしたと思ってしまう傾向があるといわれています。

 

 この「人がよい思いをするのは許せない」という心理が、まさに「スパイト行動」で、おそらく一部の収入減少世帯のみに対する給付金についても、反対意見が多かったのはそういうことだったのかもしれません。

 

 でも、非正規で働く人やシングルマザーの方々は大変だったでしょうが、多くの会社員世帯にとって、コロナ禍ですぐに月給が下がることはありませんでしたし、年金受給者にとってもほとんど影響はありませんでした。ですから本来ならば、必要とされているところへ優先的に給付金を支給すべきです。

 

 にもかかわらず、全部の世帯に一律に支給した結果、何が起こったかというと、そのお金の多くは消費や生活費には回らず、貯蓄に回ってしまったのです。結果として2020年は、前年度に比べて、個人金融資産のうち、現金・預金は57兆円も増加しています。

 

 なぜ、日本人はこのように「自分が損をしてでも相手に利益を与えたくない」と思うのでしょうか。

 

 やはりよくいわれるように、日本人の間には強い同調圧力が存在していることが影響しているのかもしれません。「人は人、自分は自分」という考えを持つ人が少ないということですね。

 

 結果としてお金に関しても、人と比べて判断する、あるいは人と比べて自分が損か得かということに異常に強く反応するということなのだろうと思います。もっと拡大していえば、「幸福感」というものも、人との比較においてしか感じられなくなっているのではないかと思われるのです。

 

 評論家の中には、「みんなで平等に貧しくなろう」と言う人もいますし、ある政治家は「最小不幸社会」ということを主張していました。

 

 言わんとすることはわからないでもありません。要は格差社会をなくそうということでしょうが、それはまったく人間の気持ちを理解していません。格差が縮小したとしても「嫉妬の気持ち」がなくなることはないからです。

 

 どんな社会になっても、その中で必ず羨望と嫉妬は存在します。それよりもむしろ大切なことは、「人と自分は違うし、違って当然なのだ」という意識を持つことです。

 

 そのためには、単に格差をなくすことだけでなく、個人の意思や生き方を尊重し、過度に人と比べたりしないことの大切さをきちんと教えていくことで、同調圧力を弱めていくことが重要なのではないでしょうか。

 

 

 以上、大江英樹氏の新刊『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方』(光文社新書)をもとに再構成しました。お金に振り回されないように生きるには、いったいどうしたらいいのか。

 

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( SmartFLASH )

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