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自分を犠牲にしてまで誰かを守る 遺伝子から見る「利他的行動」の仕組み

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2023.05.30 11:00 最終更新日:2023.05.30 11:00

自分を犠牲にしてまで誰かを守る 遺伝子から見る「利他的行動」の仕組み

ウィリアム・ドナルド・ハミルトン(写真:Science Photo Library/アフロ)

 

 哺乳類や鳥類、さらには昆虫などの中には、人間社会ほど多様ではないが、同じ種の中に特別な役割や行動を持つ複数の集団があることは少なくない。

 

 このような動物の社会性を探究する研究者も数多くいる。もしかしたら、「社会性」という複雑なことを人間以外の動物(とくに昆虫など)が示せるはずがないという先入観があるからこそ、そんな社会性を見せる動物たちに惹かれるのかもしれない。

 

 

 イギリスの進化学者であるウィリアム・ドナルド・ハミルトン(1936‐2000)も、そんな動物の社会性に惹かれた1人だ。幼少期に昆虫に魅入られ、昆虫採集に励み、『種の起源』などに触発されて、自然選択や集団遺伝学の世界に入っていったそうである。

 

 彼は、社会性に関する「緑髭効果」というちょっと変わった名前の仮説を考案したことで知られる。どんな仮説か、紹介しよう。

 

 まず社会性に関わる行動について考えてほしい。どんなものがあるだろうか。その1つとして、人間だけでなく多くの動物でも行われる、親が子供を保護したり、配偶者や血縁者を守ったりといった「利他的行動」が挙げられるだろう。

 

 自己の損失の有無にかかわらず、他者の利益のためにする行動。では、なぜ生物はこうした行動をするのだろうか。

 

 その仮説として、ハミルトンはまず、家族のような血縁性の高い集団では、同じ遺伝子を持つ個体が多いため、集団内のある個体が他者に有利となる行動をしても、最終的に遺伝子にとっては利益になるから、という「血縁選択説」を考えた。

 

 ただ、家族集団以外にも同じ遺伝子を持つ個体はいるはずだ。そこで彼はもう一歩踏み込んで、外から見てそうと分かる個体がいれば、利他的行動の対象になりうるかもしれないと考えた。

 

 例えば、「同じ遺伝子を持つものは緑色の髭をしている」ということが分かっていれば、そのような個体に利他的行動をとっても、遺伝子にとっては有益になるだろう、と。

 

 この仮説が、のちに『利己的な遺伝子(原題:The Selfish Gene)』の著者リチャード・ドーキンス(1941‐)によって、緑髭効果と名づけられたのだ(日本語訳では「緑ひげ利他主義効果」と訳されている)。

 

 彼は本の中で、「色白の肌とか、緑ひげとか、その他の目立つ特徴とかいった、外からみえる『レッテル』と、その目立つレッテルの持主にとくに親切にする傾向とを同時に発現させる遺伝子が同時に生じることは、理論的には可能である」(和訳:日髙敏隆ほか、2006年)と記している。

 

 ハミルトンは、緑髭効果を示すためのシグナル(レッテル)と行動(親切にする傾向)が強くリンクするためには、スーパージーンのような構造が必要だろうと考えていた。

 

 スーパージーンは最近になって、世界中の遺伝学者や進化生物学者の間で話題となっている言葉で、1つの遺伝子ではとても成し遂げられないような、複雑な現象を引き起こすことができるものと考えられる。

 

 しかし、ハミルトンがこの仮説を提唱した1964年の時点で、そのような例は全く知られていなかった。緑髭効果の実例が初めて示されたのはヒアリで、ハミルトンが亡くなる直前の1998年のことである。

 

 

 以上、藤原晴彦氏の新刊『超遺伝子(スーパージーン)』(光文社新書)をもとに再構成しました。生き物の複雑で不思議な現象に関わっているスーパージーンの実態を解説します。

 

●『超遺伝子(スーパージーン)』の詳細はこちら

( SmartFLASH )

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