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値上がり続く「漢方薬」日本の耕作放棄地で生薬を栽培してみては?中国では観光地としても大成功

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2023.07.29 11:00 最終更新日:2023.07.29 11:00

値上がり続く「漢方薬」日本の耕作放棄地で生薬を栽培してみては?中国では観光地としても大成功

中国の漢方薬店(写真:アフロ)

 

 日本の医療機関で処方されている漢方は、保険が利く「医療用漢方製剤」と呼ばれるものです。皆さんが最もよく目にするのは、番号が大きく明示された銀色の小袋に入ったものでしょう。日本で医療用漢方を製造している企業はいくつかありますが、日本で初めて漢方薬をエキス製剤化した小太郎漢方製薬や大手漢方薬メーカーのツムラなどが代表的です。

 

 

 医療用漢方製剤が日本の医療に登場してからおよそ40年がたち、現在、厚生労働省の認可を受けている保険適用の医療用漢方製剤は、148処方となりました。医学部では和漢薬の知識が必修化されており、臨床医の7割が、漢方処方を日常的に行なっています。

 

 一方、薬局で販売されているのは「一般用漢方製剤」で、誰でも服用することが可能ですが、保険は適用外です。

 

 医療用も一般用も、日本の漢方製剤の強みは上質な「エキス剤」と呼ばれるものだと思います。エキス剤とは、配合される薬物を混ぜて煎じ、その煎じた液を濃縮して、粉末や錠剤に加工したものです。同じ漢方薬名であれば、製法や効能は基本的に同じですが、一般的には医療用のほうが成分量が多くなっているようです。

 

 これは、医師の診断のもとで処方される医療用よりも、一般の人が自己判断で服用する一般用では、安全性を高めるため、効き目をマイルドにしているためと考えてよいでしょう。

 

 医療用はほぼエキス剤ですが、一般用漢方製剤の場合はシロップや丸剤、錠剤、煎剤、ゼリー状など、ニーズに合わせて様々なタイプのものが販売されています。

 

 気を付けてほしいのが、漢方という言葉を悪用する詐欺です。以前、相談に来ていた前立腺がんの男性は、私のところに来る前に、ひと月に35万円かかる「がんが消える漢方薬」を買ったことがあると話していました。

 

 私はその非常識な値段にも驚きましたが、「2カ月分まとめて買えば45万、3カ月だと50万円」という値づけにもあきれました。原価計算がめちゃくちゃです。一度にできるだけたくさんお金を取って、そのまま逃げようという意図なのでしょう。

 

 昔からある詐欺ですが、本当に悪質だと思います。そもそも、日本で市販が認可されている漢方薬には、すべて日本政府が販売を認可した生薬が使われているはずです。薬価もおおまかには決まっているので、法外な値段がつくはずがありません。

 

■インフレで漢方薬も値上がり傾向

 

 漢方薬の材料となる生薬の生産は、日本国内ではほとんど行なわれておらず、主に中国から輸入されています。そのため、昨今の中国国内の需要の急増やインフレの影響で、漢方薬も値上がりを続けています。

 

 たとえば、不眠の改善によく使われる「酸棗仁(さんそうにん)」という生薬は、つい数年前までは、500グラム入り1パックの卸値が3000円しない程度だったのが、今は何と1万5000円ほどまで値上がりしました。その他の生薬も同じように値上がりを続けており、もともと高価だった西洋人参の場合は、今では1パック1万円を超えるまでになっています。

 

 ところが、それでも日本はまだましな状況で、中国や韓国ではもっと値上がりが加速しています。先日立ち寄った韓国でも、生薬のナツメが売られているのを見ましたが、さほど質のよくない皺くちゃのものが、1パック1万9000ウォン(約1900円)と、日本の倍近い値段で売られていました。中国も同じような状況です。

 

 日本では、その半額で、もっと質のよいナツメがまだ一般的に販売されているので、いかに日本の製薬会社が頑張っているかを痛感した出来事でした。

 

 中国のインフレはまだしばらく続くうえ、国内の需要もさらに増え続けると見られているため、漢方薬の値上がり傾向は今後も続くことが予想されます。こうした事態を考えると、私は日本国内でも生薬の栽培、生産をしたほうがよいのではと考えています。

 

 今、国内では休耕畑や耕作放棄地がたくさんあると聞いたことがあります。国がそういう土地を借り上げて、日本人の健康推進事業の一環として、生薬を栽培したらよいと思うのです。漢方は農産物よりも栽培が簡単だといわれています。毎年種をまいたり、収穫したりといった手間もないといいます。

 

 中国では生薬を栽培している農家がたくさんありますが、生薬の販売だけでなく、観光地としても大きな利益を上げています。というのも、生薬には美しい花を咲かせる種類のものが多く、花見の時期になると人がたくさん集まってくるためです。

 

 種が薬として用いられる桃をたくさん植えている農家などは、「桃源郷」と称する宿泊施設を作り、桃祭りを開催したりして、観光地として大成功しています。

 

 これから中国の通貨である元は相対的に高くなります。それでも中国から輸入をし続けていれば、どんどん漢方薬は値上がりしていくでしょう。それであれば、日本国内で栽培、製造して、そのついでに観光地としても利益を上げていくことは良案ではないかとひっそりと考えています。

 

 私だったら体質改善の薬膳レストランやカフェも併設するでしょう。最終的には中国に良質で安心・安全な生薬を輸出できるようになったら、よりよいのではないかと、常に夢想しています。

 

 

 以上、漢方専門医である邱紅梅氏の新刊『生理痛は病気です』(光文社新書)を元に再構成しました。

 

●『生理痛は病気です』詳細はこちら

( SmartFLASH )

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