「あの人の名前、なんだっけ?」
加齢によるちょっとした物忘れが増え、「認知症かも……」と怯える読者は多いはず。
「実際、働き盛りの世代で認知症を発症する方はたくさんいますよ。2009年の厚労省の調査によると、65歳未満で認知症を発症している方は、全国に3万7000人以上いると推計されています」
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と語るのは、認知症に詳しい、えびな脳神経クリニック理事長の尾﨑聡医師だ。
「とくに注意したいのが、認知症のグレーゾーンである軽度認知障害(MCI)です。日常生活に支障をきたすほどではないため見過ごされがちですが、MCIになった方のうち、年間10~15%の方が、本格的な認知症に移行しているといわれています。しかし逆にいえば、早期にMCIに気がつき、予防対策をおこなえば、認知症の発症を遅らせたり、認知機能を改善したりすることが期待できます」
そこで本誌は、尾﨑医師監修のもと、20問のチェックシートを作成。チェックをつけた項目の合計点数が30点を下回るようだと、MCIの危険性があるので要注意だ。
「認知症と聞くと、いわゆる“物忘れ”だけだと考えがちですが、実際にはほかにも多くの症状があります。精神的に落ち込んでしまい、何もやる気が起きなくなったり、逆に、突発的な怒りや性欲が抑えられず、周囲の人と問題を起こしたりすることもあります。さらに、運動機能も脳と密接な関係があります。とくに、歩行速度と認知症の関係は知られるようになりました。歩く速度が遅いと、MCIになっている可能性が高いのです」
とはいえ、今回のチェックシートの点数が低かったからといって、絶望するなかれ。認知症の予防対策は、数多く存在するという。
「認知症の約7割を占めるアルツハイマー型認知症は、アミロイドβというタンパク質が脳に蓄積することで発症します。アミロイドβが蓄積する原因は喫煙、飲酒、睡眠不足。また、糖尿病などの生活習慣病や運動不足、栄養不足などさまざまです」
逆にこうした“悪習慣”を断てば、進行を止めることができる可能性が高いのだ。
「ウォーキングは、脳の健康にいいのでおすすめですが、さらに最新の研究によると、“デュアルタスク”が効果的であることがわかっています。これは、運動と脳トレを同時におこなうもので、たとえば散歩しながら、一人でしりとりをしてみるとか、家族と一緒にウォーキングしながらおしゃべりするなど、体と脳を同時に使うのです。難度は高いですが、2カ国語を話すバイリンガルは、1カ国語しか話さない人に比べて、認知症になるのが4年遅れるという研究報告があります。外国語を学ぶのもいいでしょう」
食生活にも気をつけたい。
「ふだんの食生活では、オメガ3脂肪酸が多く含まれるさんま、あじ、いわし、さばなどの青魚や、緑黄色野菜、豆類などが不足しがちです。これらをすべて摂取できる具だくさんのさばカレーが、いいかもしれません」
今回のチェックシートで「俺は大丈夫」と安心した読者も、認知症予防を気にかけてほしい。
■認知症チェックシート
●外出する際、車や家の鍵を5分以内に探して見つけ出すことができる(1点)
車や家の鍵の場所を忘れるのは“あるある”だが、探すのに時間がかかる場合は要注意
●買ったことを忘れてしまい、同じ商品を買うことはほとんどない(1点)
シャンプーやティッシュなど、同じ商品が家に次々と溜まるようなことがあれば危険だ
●今日の日付や、曜日を5分以内に思い出すことができる(2点)
本格的な認知症かどうかチェックする際も、受診中の日付や曜日を確認することがある
●夏はTシャツ、冬はコートなど季節や気温に合わせた服装ができる(1点)
体温を調節する自律神経がうまく働かず、暑さ寒さを感じられていない可能性がある
●今までできていた料理は今もスムーズにできる(1点)
料理は、具材を切ってから炒めるといった手順や、細かな味付けをおこなうなど、意外と複雑
●部屋は整頓されており、物が溢れ、足の踏み場がない状態ではない(1点)
認知症により捨てるものの分別ができなくなるなど、さまざまな理由で部屋が汚なくなりやすい
●通勤電車や通勤する道順を週に1度以上間違えることはない(1点)
ほぼ毎日おこなっているはずの通勤がうまくできなくなったとすれば、注意が必要な状態だ
●入浴、歯磨き、髭剃りを3日間以上サボることはない(2点)
服装と同じく、身だしなみやルーティンがうまくできないとなると、認知症の危険性が高い
●会社の同僚や知人の名前を10人以上挙げることができる(2点)
年を重ねると記憶力が低下するのは当然だが、あまりに思い出せないようであれば不安だ
●徒歩10分程度で着いた場所まで15分かかるようになっていない(3点)
歩行速度が落ちている可能性がある。歩行速度は認知症と密接な関連があるため要注意
●ペットボトルの蓋は、固くても手であけることができる(3点)
認知症は運動機能にも影響を及ぼす。逆に、指の先を動かすのは認知症予防によい
●片足で30秒以上立つことができる(3点)
平衡感覚を保てるかどうかは、脳の機能を測るうえで大事な点だ。目をつむると難易度アップ
●階段を一段抜かしで登ることができる(3点)
こちらも運動機能、歩行能力を調べるうえで役に立つ。足が軽快に動くことが大切だ
●月に1度以上、運転する車をぶつけたり、壁に擦ることはない(1点)
空間把握能力や、運動機能が低下すると、当然車の運転でも事故が起こりやすくなる
●飲食店などの接客についてイライラしても本部にクレームの電話をすることはない(2点)
イライラする感情をうまく抑えることができない場合、認知症が進行している可能性あり
●セクハラやパワハラで会社から注意を受けたことがない(3点)
セクハラやパワハラで注意されたことがある場合、感情を抑制できていないかもしれない
●知らない店や、新しい旅行先に行ってみたいと思う(3点)
新しい刺激を受けることに消極的になり、何をするのも億劫になるのは、認知症が原因かも
●性欲があり、異性への興味を持っている(3点)
性欲が消え、異性に一切の興味がないのも黄色信号だ。認知症を進行させる危険性もある
●酒の場で喧嘩をするなどトラブルを起こしていない(3点)
理性のたがが外れやすいお酒の場で、自分をコントロールできないと感じたら危険な状態だ
●コンビニやスーパーで何を買いに来たのか忘れてしまうことはほとんどない(1点)
誰しも経験のあることだが、あまりに頻度が高い場合は、やはり病気を疑ったほうがよい
文/取材・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)