ライフ・マネー
なぜ男は女性が余っている「結婚相談所」に参戦しないのか
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2017.10.01 11:00 最終更新日:2017.10.01 11:39
独身男女の集う婚活パーティや結婚相談所というと、あなたはどのような世界をイメージされるでしょうか。
そういった場所は「結婚したいのだけれどもできない」中年男性で溢れかえっており、少数の美人女性をめぐって冴えない男たちが激しい争いを繰り広げている……というイメージを持たれているかもしれません。しかし、それは必ずしも事実ではありません。
結婚相談所を経営する男性にお会いした際、「男性の登録者が少なくて困っているところが多い」という話を聞きました。婚活に意欲を燃やしている女性が多数登録している反面、男性は結婚に対する意欲が低く、なかなか婚活市場に参戦してこないそうです。
全国の結婚相談所1503社が加盟する日本結婚相談所連盟(IBJ)のデータを見ると、結婚相談所に登録している会員数(2017年6月当時)は、女性3万4152人に対して男性2万3489人。女性の方が1万人以上多い状態です。
男性は30~40代が中心で、全体の7割は大学または大学院を卒業している会社員もしくは公務員。そして彼らの大半は、国税庁発表の平均年収(平成27年分民間給与実態統計調査)の420万円を上回る収入(年収500万~1000万円)を得ています。
まさに安定した収入と生活基盤を持っている「未婚×正規」の男性が集まっている世界だと言えます。
この数字だけを見れば、婚活市場では男性の方が圧倒的に有利な立場であり、好みの女性を選び放題のように思えるかもしれません。
しかし、こういった「濡れ手で粟」状態になっている婚活市場を目の前にしても、多くの男性は石のように動きません。
そういった動かざる男性たちは「未婚×非正規」の貧困世代の男性たちのように、決して恋愛や結婚という選択肢自体を喪失しているわけではなく、女性と付き合いたいという願望がないわけではありません。
「まず結婚ありき」で高い目的意識を持ってパートナー探しをする女性とは異なり、多くの男性は、まず恋人を見つけて、それからその女性と結婚したいかどうかを考える傾向にあります。「まず結婚ありき」ではなく「まず恋人ありき」なのです。
そう考えると、これだけの買い手市場にありながら男性が結婚に対して消極的になる背景には、結婚願望の有無や出会いの機会の有無ではなく、「まず恋人ありき」という価値観に依拠していながら、「恋人がいない」「恋人を作れない」という問題が隠れています。
それでは、なぜ彼らは恋人を作らない(もしくは作れない)のでしょうか? 大きな原因のひとつは「女性とどう付き合えばよいか分からない」というものです。
単純にこれまで女性との交際経験がないため、異性とのコミュニケーション・スキルが身についておらず、恋愛のやり方そのものが分からない。
そういう男性は、ソープで高いお金を払って女性と一緒にお風呂に入りたいわけでも、キャバクラで飲めないお酒を無理に飲みながら女性と盛り上がりたいわけでもありません。
ただ純粋に、自分が傷つかない・相手を傷つけないことが保証された空間の中で、安心して女性とコミュニケーションをとる訓練をしたいだけです。
こうした欲求は、ある意味では当たり前のものです。性教育の世界でも昔から言われてきたことですが、今の社会には、恋愛やセックスを公的に学習する場、及び練習する場がありません。
すべては「ぶっつけ本番」になり、その結果として多くの男性が傷つくことを恐れて性愛の世界に踏み出せず、自分の殻に閉じこもってしまう状況が続いています。
男性が恋人を作らない(作れない)背景には、もう一つ、より深刻な問題が潜んでいます。それは「女性と付き合う意味そのものが分からない」という問題です。
男性にとって、結婚は妻子を養うための経済的負担の増加や、趣味に使える自由時間の減少につながる要因になります。そのため、結婚せずに経済的・時間的な自由を謳歌する高学歴・高収入の男性たちは昔から存在しました。
一方、近年はそういった「独身貴族」だけではなく、個人の損得計算を超えた部分で、社会的に恋愛や結婚の魅力やメリットが低減しています。
「なぜ結婚しないのか?」と尋ねられる時代は終わり、「なぜ結婚するのか?」と不思議がられる時代に突入している、と言ってもいいのかもしれません。
恋愛や結婚を含めて、時間をかけて他者との関係性を作ることは、今の社会では費用対効果が低いという現実があります。
特に結婚は、異性愛者同士で、一対一でないとできず、夫婦別姓も選択不可能。女性のみに再婚禁止期間もある。一度結婚すれば、配偶者以外の相手との恋愛やセックスは禁止。子どもが生まれても社会的な支援は乏しく、育児負担と教育費が重くのしかかる。別れる際にも相当な精神的・時間的・金銭的負担(慰謝料)がかかる。
見方によっては、単なる罰ゲーム以外の何物でもないように思えるかもしれません。
※
以上、坂爪真吾氏他の近刊『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(光文社新書)より引用しました。タブー視され、孤立するそれぞれの「性」の問題。その一つひとつを検証しながら、私たちが今後どう在りたいかを議論していく、実践的で新しい「大人の性教育」を考える一冊です。