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社会人にも役立つ「探究の鍵」ティンバーゲン4つの問いで「研究テーマ」を作ってみる
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2024.04.30 11:00 最終更新日:2024.04.30 11:00
探究学習では、「テーマを完全に自由に決めてよいし、解き方も自由に選んでよい」と言われる場合もあります。このような場合は、自由で楽なように見えて、かえって何をすればいいのかが思い浮かばないという苦労があります。
問題設定が自由であることを「オープンエンド」といいます。オープンエンドな問題に取り組むことは、自分の思考力を養う修業になるのですが、厳しすぎるかもしれません。
テーマの内容をある程度を狭める方が、思考を進めやすくなります。狭め方は、
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A.目標を指定する
B.手段を指定する
の2通りです。
目標を指定するならば、たとえば次のように出題します。
●3階の高さから地面に落としても割れないように、卵を包装せよ。手段は何でもよい。
●猫の体毛の本数を調べよ。
●折り紙でリアルなバナナを作る折り方を考案せよ。
●散逸してしまった森|鷗|外の『小倉日記』の内容を推定してできるだけ復元せよ(松本清張の『或る「小倉日記」伝』は、その活動の話)。
ここまで具体的な目標を設定されると、何かしらの取っ掛かりのアイデアが浮かびやすくなります。アイデアが出れば、手もすぐに動かせますので、探究活動の立ち上げが迅速になるという利点があります。
「この問題を君は解けるかな?」という挑戦の形であることは、やる気を生み出します。人間は挑戦を受けると対抗心に火が点き、アイデアが出やすくなります。
また、成果を評価する際には、目標を達成できたか否かという明確な評価尺度があるので便利です。
手段を指定するタイプでは、
●凧を使って、何か実験をしてみよ。
●スマートフォンで、何か映画を撮れ。
●雑草の生えている空地で、何かを試み、何かを発見せよ。
●ユーチューバーになって、何かをやってみよ。
といった出題が考えられます。
目標自由なら、活動内容は人それぞれバラバラになります。思いもよらぬ優れた目標が発見されるかもしれません。活動の意外性や多様性を求めるなら、目標自由の方が向いています。
半面、目標も成果もバラバラですから、成績をつける際にはそれらにどう優劣をつけるかを悩むことになります。
■ティンバーゲンの4つの問い
目標も手段もどちらも自由に選んでよいという場合もあるでしょう。社会人ともなると、「何でもいいからすごい研究をしろ」とか、「何でもいいから売れる商品を企画しろ」などと、目標設定も手段選択も自分に丸投げされます。
自由な探究ならば、宇宙の彼方のことや、大昔のことなど、ロマンにあふれる題材を選んでもよいわけです。しかし浮世離れした事柄を調べることは荷が重すぎます。
自分の手の届く範囲の物事を選んで、しっかり調べる方が、深い探究がしやすいといえます。とはいえ、身の回りを見渡しても、見慣れたものばかりであり、取るに足りない物事のようにしか見えません。
その思い込みを破ることが、探究の鍵となります。
たとえば、雨という現象はごくありふれたものであり、今さら驚く人はいないでしょう。しかし、1カ月後にどこにどれだけ雨が降るかを正確に予測することは、最新の科学であっても非常に難しいのです。当たり前の現象であっても、探究の余地はまだ多く残されています。平凡な物事も、見方を変えれば、探究すべき大問題だと判明するかもしれません。
見方の変え方として、動物行動学の分野には有名な『ティンバーゲンの4つの問い』という考え方があります。
動物は様々な特徴を持っています。ニワトリは夜明けにコケコッコーと鳴き、カブトムシは角を持っています。こうした既知であって今さら謎がなさそうな事柄であっても、4つの問いを立てる余地があるというのです。
(1)その特徴は、何の利点があるか?
(2)その特徴は、どのようなメカニズムで実現されているか?
(3)幼い個体がその特徴を得るまでに、どのような成長・発達過程を通るか?
(4)その特徴は、どのような進化の末にできあがったか?
ニワトリの鳴き声にこの問いを当てはめてみましょう。「ニワトリが夜明けに鳴く理由は何か」「どうやって夜明けに目覚め、大声を出すのか」「若いニワトリは鳴くのか」「大昔の祖先は鳴いていたか」……といった具合に、たちまち研究テーマが4つできあがります。
4つの問いは、対象が同じなので互いに似ているように見えますが、その中身はガラリと違う、それぞれ独立した謎なのです。
たとえば、毛髪を顕微鏡で観察してみると、簡単には切れない丈夫で精巧な構造でできていることに気付きます。ところが毛髪自体の構造と、毛髪を作るメカニズムの構造は、関連すれども別の話です。大人になるとひげが生えてくるという変化も、これはこれで別の謎として探究することができます。
物事の一面だけを調べて、全て分かった気分になってはいけません。1つの題材の中に、探究テーマはいくつも潜んでいます。ティンバーゲンの問いは、動物行動学の研究向けではありますが、一般の物事にも当てはめられる視点です。
(1)目的・利点・誘因
(2)実現を支える機構
(3)実現を支える機構の作り方
(4)変革の歴史、将来予測
この4つの論点は、どんな題材にも問えるものです。
たとえば、牛乳の紙パック、商店街の組合、野球の牽制球、関ヶ原の戦い、少子高齢化社会、消防指令部、絵画の印象派、将棋の「四間飛車」戦法。こうした探究テーマになりそうにない物事であっても、改めて切り口を変えて考えるところから、良いアイデアが生まれるかもしれません。
※
以上、中田亨氏の新刊『中高生のための「探究学習」入門』(光文社新書)をもとに再構成しました。自分で学びを作る「探究」の心得と面白さを伝えます。
●『中高生のための「探究学習」入門』詳細はこちら
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