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イヌとオオカミは同種なのか別種なのか…知られざる「進化」の秘密を解き明かそう
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2024.05.01 11:00 最終更新日:2024.05.01 11:00
イヌはオオカミから進化した。これは、オオカミという種から分かれ、新たな種としてイヌは出現したともいえる。イヌはオオカミと同じ種(Canis lupus familiaris)に属する亜種であるとされる場合が多いが、別種(Canis familaris)にすべきだという意見も少なくない。
少なくとも1万5000年より前には、ハイイロオオカミから分かれてイヌは進化したと推定されているようだ。
イヌは、最初から人間によって選抜され、オオカミから進化したわけではない。オオカミが、人間のゴミを漁るように適応していくことで、イヌに分化したと考えられている。2000年前より以前に人間が意図的に犬を交配させて繁殖したという証拠はないようだ。したがって、自然の行動の変化により、イヌはオオカミから分岐したといえる。
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そして、イヌとオオカミは、様々な点で異なっている。現在、イヌは人間によって様々な形態に改変されているが、それでもオオカミとは区別できる。
行動も異なり、たとえばオオカミは群れで狩りをするのに対して、犬はほとんど単独で行動し、狩りをすることはめったにない。生活場所や食べ物も異なっており、消化能力も異なる進化をしている。遺伝的な違いに関しても、イヌとオオカミはゲノム配列から明瞭に区別できる。
このように区別できるにもかかわらず、オオカミとイヌが同じ種とされているのは、交配すると子どもができるからだ。しかし、交配して、その子どもがイヌかオオカミと再度交配するという過程が繰り返されて、イヌとオオカミがしだいに区別できなくなるほどゲノムが混じり合うことはない。イヌとオオカミという2つの集団の間で、遺伝子の交流が妨げられることで、2つの集団の違いが維持されているのである。
このように、集団間で遺伝子の交流を妨げるような性質を「生殖隔離」と呼ぶ。この生殖隔離機構が進化した結果、独立した遺伝的性質をもつ集団が進化し、地球上に様々な種類の生物が進化してきたのだ。
数万年前に、オオカミの一部が人間の生活圏にアプローチをするようになり、徐々に現在のイヌへと進化していった。それがどこであったかは、まだはっきりとしないが、イヌの系統の1つはユーラシア大陸東部に、もう1つはユーラシア大陸西部で進化し、それぞれ現在のアジアのイヌと近東地域やアフリカのイヌになったと考えられている。
その後の進化的歴史は複雑で、イヌの異なる系統間で交配が生じた可能性や、イヌとオオカミ間の交雑が現代のイヌの系統に繋がっている可能性などがあり、また完全に解明されていない。
ただ、いずれにしても現代のイヌはオオカミから誕生し、その後はオオカミとの交雑を経験しながらも、イヌ独自の性質を進化させてきたといえる。
一方で、過去の交雑により、イヌあるいはオオカミの性質の一部がそれぞれに浸透してもいる。たとえば、毛の色に関わるアレル(遺伝子)が、オオカミからイヌへ、またはイヌからオオカミへ浸透し、温度や降雪環境への適応に関係したことが知られている。
現在でも、野外の自然状態で、イヌとオオカミの交雑は稀に生じているようだ。最近では、人間による環境変化や、一部地域でのオオカミ個体数の拡大で、野生のオオカミとイヌとの交雑の可能性が高まっていることが危惧されている。
しかし、交雑による遺伝子浸透(イヌから野生のオオカミへの遺伝子の流入)の可能性はあるものの、現在のところ、その影響でオオカミを特徴づける性質に何か変化が起きているという事実はない。
飼い犬とハイイロオオカミの行動学的、生理学的な違いは充分に大きいために、交配は起こりにくく、雑種が野生で繁殖するまで生き残ることはほとんどないだろうと考えられている。
イヌとオオカミが同種か別種かという問題は進化学上それほど重要ではない。イヌとオオカミが独自の性質を進化させて維持していること、また交雑により雑種は生じるが、その頻度は少なく、それによって集団の独自性が弱められるような効果はないということが重要である。つまり、もともとは1つの集団だったものが、そこから独自の集団として分岐しているところが重要な点なのだ。
イヌはヒトとともに生活するようになって、行動や性格、食べ物などがオオカミとは異なるように進化し、生息場所も変化した。その結果、イヌとオオカミが出会って自然に交雑する機会は減少していったと考えられる。
生息場所の違いや行動の違いで交配する機会が減少し、遺伝子の交流が阻害される生殖隔離は「交配前生殖隔離」と呼んでいる。つまり交配を妨げるメカニズムが進化する場合だ。
一方、同じイヌ科のオオカミとキツネの場合は、交尾ができたとしても雑種ができる可能性は低い。染色体の数が違うなど遺伝的に大きく異なっている可能性があるからだ。
このように、仮に交尾が可能でも「精子と卵が受精できない」「受精できても雑種は生存できないか、生存率が低下する」「雑種は生存できたとしても繁殖能力が低い」というような理由で集団間の遺伝子の交流が阻害されることを「交配後生殖隔離」と呼ぶ。
つまり、子どもができない、あるいは子どもの生存・繁殖(適応度)が低下するような進化である。
種分化(speciation)あるいは種形成とは、「集団間の遺伝的あるいは表現型の違いを維持できるような、集団間のアレルの交流を妨げる生殖隔離の進化」とされている。
つまり、オオカミとイヌでいえば、「その姿形や生態の違いを維持できるように、交雑を妨げたり、交雑で生まれた個体の生存率が低下したりするように進化すること」が種分化ということになる。生殖隔離機構が進化することで、多様な性質をもった集団が生じ、維持されるのだ。
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以上、河田雅圭氏の新刊『ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか? 進化の仕組みを基礎から学ぶ』(光文社新書)をもとに再構成しました。複雑だけども面白い生物の進化の仕組みを解説します。
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