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子どもはいつ「自分は男」「自分は女」と認識するのか…性差を感じて「勉強ができないふりをしていた」女性も
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2024.12.01 11:00 最終更新日:2024.12.01 11:00
子どもは、いつごろから、自分を「女の子」「男の子」とみなすようになるのでしょうか。これは、自分という意識の発達と密接にかかわってきます。
子どもは、2歳ごろから鏡に映った姿を自分だと認識したり、写真に写った自分を選んだり、自分の名前を呼んだりするようになります。
これと時期を同じくするか、やや遅れて、子どもは自分の性別を認識するようになります。早い子であれば2歳くらい、3歳になればほとんどの子どもが、自分が女の子であるか、男の子であるかを認識するようになります。
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ただ、3歳くらいだと、性別に関する認識がまだ不十分であることが知られています。女の子のような姿をした男の子を見ると女の子だと思ったり、その逆だったりします。6歳くらいまでに、髪型や服装などが変わってもその人の性別は変わらないことを理解するようになります。
このくらいの時期には、「女の子」と「男の子」が別々のグループであることを意識し始め、同性の仲間集団に適応しようとし始めます。女の子は女の子と遊ぶようになり、男の子は男の子と遊びがちになります。
一方、同性の仲間内での自分の位置づけを認識し始めるのは小学生になってからです。一般的に、子どもは小学生になると自分と他人を比較するようになります。性別に関しても同様で、同性の友達と自分を「女らしさ」「男らしさ」などの面でも比較するようになるのです。
とはいえ、昨今では、性別を「女性」と「男性」の2つに区別できるのか、また、自分の性別が本当に固定されたものなのか、という点が疑問視されています。興味深いことに、最近の研究では子どもが自分の性別に戸惑ったり、不満を持ったりすることも示唆されています。
たとえば、ある研究では、アメリカの小学校1年生、3年生、5年生に対して、自分の性別がしっくりくるかどうかを尋ねました。多くの子どもは自分のジェンダーを自然に受け入れていましたが、2割弱の子どもがどちらのジェンダーにも近いと思わないと回答したことが示されています。
また、女児のほうが自分の性別に不満を持つ傾向が高いことが示唆されています。これは、社会において男性のほうが得をする側面が多いことが影響しているのかもしれません。
■子どもの性自認と行動
重要な点として挙げておきたいのは、こういう子どもの性認識や性自認が子どもの行動に影響を及ぼすということです。
古い研究ですが、自分の性別を認識できた子どもとできなかった子どもに分類して、その子どもがどのようなおもちゃで遊ぶかを観察した研究があります。
その結果、自分の性別を認識できなかった子どもは、性別にかかわらず、女の子向けのおもちゃでも男の子向けのおもちゃでも遊ぶのに対して、自分の性別を認識できた子どもは、女の子は女の子向けおもちゃで、男の子は男の子向けおもちゃで遊んだのです。
この結果は、性別の認識が発達することで、性別に一致するような行動を取りがちになる可能性を示しています。親や家族が子どもに「女の子らしさ」や「男の子らしさ」を求めると、このような傾向は強まるかもしれません。
つまり、子どもは2~3歳ごろに自分を「女の子」や「男の子」とみなすようになるわけですが、その時に、周りの大人の期待や働きかけによって、「女の子らしい」行動や選択、「男の子らしい」行動や選択をしてしまうようになるのです。こういう経験の積み重ねによって、子ども自身がジェンダーステレオタイプを持つようになってしまいます。
これが、子どもがジェンダーステレオタイプを内面化するということであり、これによって子どもの心の性差がつくられる可能性があります。
■「賢さ」のジェンダーステレオタイプ
ここで、頭の良さや賢さに関するジェンダーステレオタイプについて考えてみましょう。
たとえば皆さんが天才と聞いて思い浮かべるのは、男性が多いのではないでしょうか。もし皆さんが男性を思い浮かべたとしても、これは、科学や哲学の世界は男性社会であり、女性が活躍するのは難しい雰囲気があったためです。
また、メディアが発する情報の中にも、「IQ200の天才」「クイズの天才」等々、天才として出てくる人物は男性であることが多いのです。この場合も、必ずしも男性のほうが賢いというわけではありません。
ただ、親や教師、私たちの大人の無意識的な一言が、YouTubeやSNSで見かけるつぶやきの1つ1つが、子どもに伝わってしまっている可能性があります。
今でも、「女の子に勉強は不要で、大学なんか行かなくていい」「女の子は愛想よくしないと結婚相手がいない」などと考える家庭は、決して珍しくはありません。
こうした親や大人の価値観は子どもに伝わります。そして、子どもが自分に当てはめてしまい、将来の選択に影響を与える可能性があります。
筆者は、4~7歳の子どもを対象に「賢い」「優しい」という性質を自分と同じ性別に当てはめるか、自分以外の性別に当てはめるかを調べました。
具体的には、話の中の登場人物の性別を当ててもらいます。「賢いストーリー」では、職場にものすごく賢い人がいるという話を聞かせて、その人が女性であるか男性であるかを、表示された画像から選んでもらいます。
また、「優しいストーリー」では、「職場にものすごく優しい人がいる」という話を聞かせて、その人が女性であるか男性であるかを判断してもらいます。
もちろん、これらのストーリーの中に、その人の性別にかかわる情報は含まれていません。「賢い」もしくは「優しい」というイメージを、子どもが女性に結びつけるか、男性に結びつけるかを調べています。
その結果、「優しいストーリー」では、女児は女性を選びがちであったのに対して、男児は女性と男性を同じくらい選ぶ傾向にありました。つまり、女児は優しさを自分の性別と結びつけ、「優しい=女性」という認識を持っていたのです。これは4歳から7歳まで同様に見られました。主たる養育者が母親であることや、保育士・教師に女性が多いことと無縁ではないでしょう。
一方、「賢いストーリー」では、年齢によって違いが見られました。4~6歳では、女児も男児も自分の性別を賢いと思っていたのに対して、7歳になると女児も男児も男性を選ぶようになりました。つまり、「男性=賢い」という認識を示すようになったのです。
7歳というと、小学校に入学するくらいの年齢ですから、勉強やその成績が意識され始める時期です。賢さや頭の良さについても、関心が出てくるのでしょう。その年頃になると、女児は「賢い」という性質を、自分たちに当てはめなくなってしまうのです。これが進展すると、自分には勉強が向かないと思うようになったり、勉強嫌いになったりすることが懸念されます。
実際の学力では、ほとんど差がないか、むしろ女児のほうが成績がいいという結果が出ます。この研究について色々な方々と話すと、「わざと勉強ができないふりをしていた」と話す女性の多いことに驚きました。このような状況は変えていく必要があります。
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以上、森口佑介氏の新刊『つくられる子どもの性差 「女脳」「男脳」は存在しない』(光文社新書)をもとに再構成しました。「女脳」「男脳」の考え方は科学的根拠に乏しく、大人の思い込みこそが後天的に子どもの性差をつくることを明らかにします。
●『つくられる子どもの性差』詳細はこちら
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