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【家系図作り】5年かけて自作した男性は「戦国時代のいわれも判明して尊い気持ちに」…新制度で敷居が低くなって静かなブーム
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2025.01.11 06:00 最終更新日:2025.01.11 06:00
年末年始に帰省し、親族とご先祖様を話題にした読者も多いだろう。家系図は、特別な名家だけのものではない。戸籍交付の新制度や国会図書館のデジタル資料を駆使すれば、誰もが手軽に自分のルーツを調べることができるのだ。
「自分は、どこからきたのだろうという疑問がずっとありました。そんなときにたまたまネットで、家系図作成サービスを知ったのです」
都内在住の50代の会社員・山田さん(仮名)は、約4年前に行政書士に作成を依頼した家系図を、今も大切にしているという。
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「これまで親や祖父母から口伝えにぼんやりと聞いてきたことが、 “見える化” したんです。ある先祖に子供ができず、妹の嫁ぎ先から養子をもらって家を継いでいたこともわかりました。当時の家を守るという苦労が、家系図から伝わってきます」(山田さん)
漠然としていた祖先の存在が、家系図になったことで具体的な存在として立ち上がってきたのだ。
「僕は明治維新前後に興味があって、家系図を眺めると、祖父母や曽祖父母はバルチック艦隊と戦った秋山真之と同じ時代を生きたんだな、なんて思いを馳せることができるんです。過去の先祖について、いろいろなことを想像して楽しんでいます」(同前)
山田さんが頼んだのは、自分からたどることができるすべての戸籍謄本をもとにした「全系統」の家系図。巻物になった家系図もついて、約25万円だった。
「自分で家系図を作る方法も調べましたが、当時はかなり煩雑な印象でした。とても仕事の片手間ではできないと思い、プロにまかせようと決めました。自分ではここまでできなかったと思いますし、満足しています」(同前)
だが2024年に相続登記が義務化されたことで、家系図を作成するための条件も、激変しているのだ。
「2024年3月1日から『戸籍広域交付制度』が始まり、戸籍を取得しやすくなりました。戸籍が身近になったことで、家系図や先祖に興味を持つ方が増えているのです」
と話すのは、家系図を作成する専門会社「家樹」代表の田代隆浩氏だ。
「これまで、戸籍を請求するには、本籍地の役所の窓口に出向くか、郵送で頼むしかありませんでした。それがすごく大変だったのですが、勤務先や自宅のある市区町村の窓口でも請求できるようになりました」
この制度を受けて、家系図を作ることが、いま静かなブームへと成長しているのだ。実際、「家樹」への家系図作成の依頼は、2024年は前年比で約1.3倍の年間500件ほどに。各地でおこなうセミナー「はじめての家系図講座」は常に盛況だという。では、そんなプロのノウハウを聞いてみよう。
「依頼をいただいた場合、当社では戸籍調査を基本とし、国立国会図書館をはじめとする都内での文献調査や、本家のある現地に赴いての聞き取り調査、全国にある文書館や資料館に保管されている記録に当たる古文書調査もオプションでおこなっております。現地調査は3日ほど時間をかけておこなうことが多く、お客様のご希望があれば、調査に同行いただくこともできます」(田代氏)
依頼者は先祖と縁のある場所に赴くことで、ルーツを感じる喜びがあるし、調査がスムーズに進むメリットもある。また、一枚の古い写真からも、さまざまなことが調べられるという。
「写真の人物の勲章や軍服から時代を特定したり、背景やプリントの色から撮影時期を分析したりします。あるお客様が、東京のとある橋付近で撮ったと伝え聞いていたお写真をお持ちになったのですが、背景を分析すると隅田川にかかる蔵前橋だとわかり、行き詰まりかけていた調査の糸口となったことがありました」(田代氏)
■明治19年の戸籍までたどることができた
新制度によってハードルはグッと下がったとはいえ、家系図作成には専門知識と調査技術が求められるのもたしか。だが、自力で詳細な家系図を作り上げたのが、東北地方在住の30代の会社員、斉藤さん(仮名)だ。
「6年前に祖父が亡くなったときに、祖母が相続のために請求した除籍謄本を見たことが、家系図を作ろうと思ったきっかけです。最初にしたことは戸籍をたどること。戸籍は自分のものだけでなく、直系尊属(父母や祖父母など)のものも請求できるので、その除籍謄本をもとに、古い戸籍をたどっていき、5、6代前の明治19年の戸籍まで取ることができました」
斉藤さんが家系図作成を始めたのは「戸籍広域交付制度」が始まる前だったが、住んでいる県内で戸籍を取ることができたので、約1年ですんだという。仮に本籍地が遠く離れている人も、今は本人、配偶者、直系尊属、直系卑属(子や孫)の戸籍なら近所の役所で取得できる。斉藤さんの場合、料金は父方、母方の祖父母、曽祖父母と順を追って取っていった結果、数万円かかったそうだ。
本番はここからだった。XやYouTubeなどで先駆者の情報を参考にしながら、斉藤さんが駆使したのは国会図書館のデジタルコレクション。国会図書館で収集、保存しているデジタル資料を検索、閲覧できるサービスで、自宅のパソコンやスマホでも利用できる。
「県内にある300年ほど続く古い酒蔵と父方がつながっていることがわかったので、デジタルコレクションで郷土史やお酒関係の書籍を調べたところ、私が取り寄せた戸籍よりも上の世代の先祖の名前や亡くなった年齢が書いてあり、そこから逆算して生まれた年を割り出しました」
また、実家の墓の隣の親戚のものとされる墓石を見ると、戸籍に出てきた夫婦の名前が刻んであった。さらに珍しいことには、妻が嫁ぐ前の家の情報も書かれていたという。
「墓石に書いてあったその方の生まれた村に行き、名字を頼りに実家のお墓を探し当てました。その墓石には家のいわれが刻まれており、戦国時代に、ある県から来たことがわかりました。そこで再度、デジタルコレクションでその県の郷土史を調べていったら、また運よくつながったのです」
斉藤さんは、デジタルコレクションをどう使ったのか。
「たとえば『タナカタロウ』と入力すると、その名前が載っている書籍の一覧が出てくるんです。そのなかから祖先と関係のありそうな郷土史を選び、『タナカタロウ』という名前で再び検索をかけると、何ページに載っているという情報が出てきます。郷土史のその部分だけ読めばいいので、難しくはありません」
こうしてコツコツと調べていった家系図を、斉藤さんは手書きで記していった。ここまで調べるのに5年ほどかかったという。
「この家系図に出てくる人が一人でも欠けていたら、僕は生まれていないわけですよね。そう思うと大事に生きていかなければという思いが生まれ、尊い気持ちになりました。
自分で調べたのは、費用を抑えるという面もありますが、人から知らされるよりも、自分で新しいページをめくっていったほうが、わくわくして楽しいと思ったんですよね。自分のことですし、自分でやってよかったと思っています」
■他人事だった歴史が一気に自分事になる
斉藤さんは、今後 “敷居が高い” と感じてまだ挑戦していない、高祖父の実家に手紙を送るなどして、さらに遡りたいと思っているという。
「家系図作成に興味がある人も、老後になってからやってみようと考えている人がいるかもしれません。しかし、戸籍が廃棄されたり、いま以上にプライバシーの意識が高まったり、世代交代で本家が移転したりすると、永久に遡ることができなくなるかもしれません。だからこそ、いまやっておくことに意義があるのだと思います」
これから自分で家系図を作ろうか迷っている人に、前出の「家樹」田代氏はこうアドバイスする。
「ご先祖を深く調べるには、知識や技術に加えて莫大な作業量と時間がかかります。それを楽しめるかどうかが、ひとつの判断基準です。片手間でやれるほど甘くはないので、そうした作業が苦手だったり、仕事が忙しかったりする方は業者に依頼したほうがいいと思います。ただ、たしかに自分のルーツを紐解いていくのは、非常に楽しい作業ですよ」
と、実体験を語ってくれた。
「私の場合は、曽祖父が台湾人だと判明したことを機に調べ始めました。スタッフの力も借りて作業を進めていくと、先祖が岩倉使節団のメンバーの一人だった山口尚芳(ますか)の執事をしていたことがわかりました。岩倉使節団の陰で自分の先祖が動いていたと思うと、他人事だった歴史が一気に自分事になる。これが家系図の魅力だと思うんです。調べてみないと、何が出てくるかわかりませんからね」
先祖が生きた時代に思いを馳せ、ファミリーヒストリーを探ってみる。その成果は、まだ見ぬ子孫からも感謝されるはずだ。
写真・PIXTA