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大江麻理子が野口聡一に明かした「頑張りすぎだった時代」自分と闘い続けて体調も不安定に

大江麻理子氏と野口聡一氏(写真:吉澤健太)
長年、テレビ東京で『WBS(ワールドビジネスサテライト)』を担当してきた大江麻理子と、宇宙飛行士・野口聡一が、「自分の弱さを知る」をテーマに対談!
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野口聡一(以下、野口) ニューヨークへの赴任からWBSのメインキャスターに就任というのは、テレビ東京としてもきちんとエースを育てようという方針があってのことだと感じていました。
大江麻理子(以下、大江) 2013年ニューヨークに1年間赴任して、WBSでメインキャスターになったのが2014年。野口さんにお会いして一緒にお仕事をさせていただいてからの5年間くらいで一気に状況が変わったという感じです。
野口 そうですか。そんな激動の日々には、なかなかストレスもあったのかなと思いますが、そこからは夢を叶えられて……。
大江 いえ。夢が叶ったと悦に入るような状況にはなく、もうずっと、毎日が自分との闘いです。目の前にあることは、「できないこと」しかなくて、「今日もこれができなかった」「明日はこれができるようになろう」というように、毎日毎日、ひたすら自分にダメ出しをし続けました。
野口 そうなんですか。外から見る分には、まったくそうは見えていませんでした。
大江 そうやって走り続ける日々が3年ぐらい続いた時、体にちょっとした変化が訪れるようになったんです。まったく肌荒れが治らなくなってしまって、顔中に湿疹ができ、真っ赤にただれました。おそらく自律神経が乱れてしまったのかなと思います。
野口 その頃は月曜日から金曜日まで、週5日間出演されていましたね。
大江 はい。しかも当時は夜11時からの生放送でしたので、1日のピークをそこに持っていかなければならないわけですが、私は取材をするのが好きだったので、週に何度も取材に出掛けていたんです。当然、取材先の都合に合わせる必要がありますから、朝から出掛けたりすることも多かったんです。
朝は早い、夜は遅いという生活を3年ぐらい続けて、しかも、毎日毎日、自分にダメ出しを続けていたら、体調が不安定になってきました。特に、肌荒れがひどい。そしてそれを「大江、肌荒れひどい」とSNSやネット記事に容赦なく書かれてしまう。「まあそうだよね」と自分でも認めざるを得ないくらいの状態の中、そんな声に触れることでさらに精神的に参ってしまいました。
野口 その状態になった時、ダメだ、もうこれ以上続けられないとは考えなかったのでしょうか。
大江 私はそういう時に負けたくないと思ってしまうんです。ここでギブアップしたくない、ちゃんと爪痕を残してからじゃないと退かないぞとその時は思っていました。そのせいで体にかなりの負担をかけていたのかもしれません。
それでも、このままだと「ああ、やっぱり大江には務まらなかったね」となって終わることになってしまう。それだけは嫌で、なんとか「ちゃんとできたね、この人」というところまで頑張ろうと思っていました。
野口 結構、猛烈なビジネスパーソンタイプですね。
大江 負けん気が強いのかもしれません。といっても、誰かと争うということはなくて、常に自分との闘いなんですが。
野口 自分がギブアップしたくないということですね。
大江 そうなんです。自分が納得できるところ、ちゃんとできたなと思えるところまでやりたいと思っていました。そうしないと、せっかく私をこの席に座らせてくれた人たちにも申し訳ないという思いもありました。この人に任せてよかったなと思ってもらえるように、とずっと考えていましたね。そうなると、メインキャスター3年目ぐらいの私のスキルでは申し訳ないと思っていました。
野口 なるほど。それでは、その状態からどうやって脱出できたんですか。
大江 本当に日々の積み重ねしかありませんでした。毎日、コツコツと勉強です。そして5年くらい経った頃でしょうか、日々のニュースの積み重ねで、点と点が線になっていく感じというのがわかってきたんです。
ああ、このニュース、そういえば以前こういうことがあったのと関係しているなというように、出来事の経緯がだんだんわかってくるようになりました。すると、そのニュースの取り上げ方について、自分からいろいろな提案ができるようになってきます。
このトピックを取り上げるのなら、何年前にあったこの出来事が出発点だから、こちらをまずしっかり説明して、それでVTRを作りましょうということが言えるようになってきました。そうするとだいぶ気が楽になってきたというか、ちゃんと番組づくりに貢献ができているという感覚になってきたという感じです。
野口 WBSのメインキャスターにはこのレベルが求められるというのを把握されていたから、5年目くらいでそこに達した時に楽になれたということなのでしょうか。
大江 ここまでいけばOKというのは、多分ないんですね。それは今もそうです。毎日毎日のオンエアで評価されますから、今も毎日が面接試験、採用試験のような気分でいます。
野口 それはなかなかしんどいですね。典型的な、心が折れてしまうパターンになっています。
大江 あ、折れてしまうパターンだったんですか。
野口 これまで、本当によく頑張ってこられたと思います。
大江 それは周りの人がいい人たちで、ずっと助けてくれたからでしょうね。環境に恵まれたことが大きかったと思います。
野口 会社員で燃え尽きを経験したような方の話を聞くと、他人と比べながら自分のレベルを上げようと頑張った場合、いわゆるやっかみ、妬み、嫉みが生まれるようになるんです。
けれども、相手が自分の時は、ある程度レベルが上がるとまたハードルを高くしてしまい、逃げ水を追いかけるような感じできりがない。真面目な人ほど、終わりがないエンドレスルージングバトルになりがちなので、そこからよくぞ生還されたという気がします。
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以上、野口聡一氏、大江麻理子氏の共著『自分の弱さを知る 宇宙で見えたこと、地上で見えたこと』(光文社新書)をもとに再構成しました。宇宙飛行士・キャスターとして何を感じ、どう生きてきたのか。ストレス、人間関係から組織のあり方まで語り合います。
■『自分の弱さを知る』詳細はこちら