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「子どもを産んだら損をする」日本の税制…少子化が止まらない理由は、子育て世代に吹き続けた「15年の逆風」にあった

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記事投稿日:2025.06.21 11:00 最終更新日:2025.06.21 11:00
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
「子どもを産んだら損をする」日本の税制…少子化が止まらない理由は、子育て世代に吹き続けた「15年の逆風」にあった

 

 

 旧民主党政権のときの平成22年(2010年)に導入された、「子ども手当」(現在の児童手当)の存在が、大きく「所得税制」をゆがめてきました。

 

 近年の「所得税制」は複雑化の一途ですが、税制は「簡素」であるべきとされています。そして「公平」で、経済活動に「中立」であるべきとされています(税制の3原則)。

 

 何より日本国憲法は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を「生存権」として、すべての国民に保障しています。また、合理的な理由がない限り、差別規定を設けてはならないことも、憲法は「法の下の平等」として保障しています。

 

 これらの憲法の考え方を「所得税制」に反映させる考え方が、「生活費控除の原則」です。1年の所得は、毎年だれでも変わるでしょう。しかし、生活にかかる費用は、所得にかかわらず国民全員に必ず発生します。「そこには課税をしてはならない」という考えが、この原則の内容です。

 

「扶養控除」も、「生存権」保障を「税制」で実現するための「生活費控除の原則」のあらわれでした。「最低生活費」は、所得者だけでなく、家族がいる場合、扶養する子どもなどの分もかかるからです。これに課税をしないことが「生存権」保障の実現になるのです。

 

 

 それにもかかわらず、現在の「扶養控除」の制度には、子どもを育てる親であっても、子どもが高校生になるまで、「扶養控除が、全くない」という問題があります。

 

 平成22年(2010年)改正までは、0歳から15歳の子を扶養する親には、「年少扶養控除」がありました。子ども1人あたり「38万円」が所得から「控除」される「所得控除」でした。

 

 しかし、「子ども手当の給付をスタートしたから、もういらないのでは?」となり、この「年少扶養控除」は、平成22年(2010年)改正で廃止されました。

 

「子ども手当」は、2010年(平成22年)4月から実施されました。「子ども手当」は、従来の「児童手当」の対象や金額を拡大したものです。その対象者に「所得制限」をつけずに、0歳から15歳としました。

 

 ところが、2012年(平成24年)3月には、「子ども手当」が廃止されます。結局、「所得制限」がつけられて、「児童手当」に戻されたのです。全員への「子ども手当」の給付は、財源不足をもたらすことが、わかったからです。

 

「子ども手当」廃止後の「新・児童手当」には、「所得制限」がつけられました。その結果、「所得制限」がつけられた親は、「児童手当」(旧・子ども手当)を1円ももらえなくなったのに、子ども1人あたり「38万円」の「年少扶養控除」は戻らないままにされました。

 

 つまり、この一連の「子ども手当」騒動が、子どもを育てる「最低生活費」が、「所得税額の計算」の際に何も「控除」されず、手当ての支給もない子育て世帯をつくってしまったのです。なんとも、皮肉な話です。

 

「児童手当」(旧・子ども手当)の「所得制限」が撤廃されたのは、つい最近の2024年(令和6年)10月分(支給は同年12月)からです。しかし、「年少扶養控除」は、ずっと廃止されたままです(いまもありません)。「年少扶養控除」が廃止された平成22年(2010年)改正から、じつに15年になります。

 

 平成22年(2010年)の改正では、高校生年代の「扶養控除」の額も引き下げられていました。それまでは、高校生年代から大学生年代(16歳〜22歳)の子を扶養する親族に、子1人あたり「63万円」の「特定扶養控除」が認められていました。しかし、平成22年(2010年)改正で、高校生年代(16歳〜18歳)の「扶養控除」の額は、「38万円」に引き下げられたのです。

 

「特定扶養控除」は、教育費などの支出がかさむ世代(高校生年代から大学生年代)の「税負担の軽減」をするため、扶養控除の基本額である「38万円」に、「25万円」を上乗せしてきたものでした。合計して「63万円」です。このうち「上乗せ部分」(25万円)が、高校生年代について廃止され、「38万円」になったのです。理由は、公立高校の授業料無償化の実施でした。

 

■逆風にさらされ続けてきた子育て世代

 

 ここで、「控除」の廃止や減額、「所得制限」の導入の歴史を、整理してみましょう。

 

 子育てをする「現役世代」は、まず、平成22年(2010年)改正で、「年少扶養控除」(0歳〜15歳)と、高校生年代(16歳〜18歳)の「特定扶養控除」による上乗せ部分を奪われました。

 

 その後、平成29年(2017年)改正では、「配偶者控除」に「所得制限」がつけられました。

 

 さらに、平成30年(2018年)改正で、「基礎控除」にも「所得制限」がつきました。もっとも、「基礎控除」については、「所得制限」のラインが高めなので、「基礎控除」が制限された子育て世帯の数は、少ないものと思われます。

 

 この15年の間に、これらの逆風にさらされ、子育てをしてきた世代がいます。

 

 このような「税制改正」の影響を受けてきた現役世代は、いったいどのように感じてきたのでしょうか?

 

「もう1人子どもを産んだら、損をしてしまいそう」「子どもを育てるために、所得を増やす必要があるのに、所得制限かよ」「子どもがいるのに、単身の所得者と同じ課税をされるのか」「『年少扶養控除』があった時代がうらやましい」などと思ってきたかもしれません。

 

 これは「世代間の公平」ということを考えたときにも、問題といえるでしょう。

 

 過去には、「年少扶養控除」も「配偶者控除」も「基礎控除」も、所得にかかわらず全額認められてきた時代があったからです。それが国の財源を使う「給付」を拡大しようとしたがために、「生活費控除」に「制限」がつけられてしまったのです。

 

 こうしてみると、旧世代に比べ、「平成20年代以降に子育てをしてきた現役世代」は、所得税法のルール改正で、税制上かなり冷遇されてきた実情が浮かび上がります。この点が指摘されることは、不思議なことに、ほとんどありません。

 

 しかし、問題ではないでしょうか? 「なんで、うちは子育てをしているのに、手当をもらえず、『年少扶養控除』もないのだろう?」「なぜ、高校の授業料無償化の支援を受けられなかったのに、『特定扶養控除』がなかったのだろう?」という、疑問が消えなかったことでしょう。

 

 この根本には、平成22年(2010年)改正で舵を取られた「控除から手当へ」という政策転換がありました。「手当」には財源が必要になるので、「増税」が必要になります。その「増税」を「子育て世代」からも行い続けてきたわけです。いったいどのような発想から生まれた政策なのか、疑問がふくらみます。

 

少子化対策というトレンド

 

「少子化対策」や「子育て支援」が、最近の政策のトレンドです。その言葉だけに着目すると、入ってくる内容は、聞こえもよいでしょう。

 

 しかし、現実に子育てを「平成時代後半」からしてきた「現役世代」は、「自分で稼いだ『所得』は、自分の子育てに使いたい」と思ってきたはずです。それらを国に「所得税」として徴収され、それが他の子育て世代に分配されている。そういう印象を持ち、やるせない想いを胸に秘めてきたのではないかと思われます。

 

 この流れは、平成22年(2010年)の「年少扶養控除」の廃止から始まっていました。そして、そのスタートには、すぐに財源不足から「児童手当」に戻されることになった、「子ども手当」の創設にありました。

 

 いま思えば、「聞こえがよい」だけの、不適切な政策だったと思います。特に、「税制」との関係でみたら、結果的には、0歳から15歳の子の親に認められていた「年少扶養控除」を廃止しただけの改正になってしまったのですから。

 

「少子化、少子化。それが問題だ」と、令和時代の日本は、このことばかりが嘆かれています。しかし、そもそも少子化を招くような「税制」を、この15年、日本の「所得税法」が採用してきたことは、ほとんど報じられていません。

 

 

 以上、木山泰嗣氏の新刊『ゼロからわかる日本の所得税制 103万円の壁だけでない問題点』(光文社新書)をもとに再構成しました。「所得税」の仕組みから問題点まで詳細に解説します。

 

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