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354のインタビューでわかった!「低偏差値」中小企業の特徴は「他社依存」「戦略の欠如」「非効率」

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記事投稿日:2025.08.23 11:00 最終更新日:2025.08.23 11:00
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
354のインタビューでわかった!「低偏差値」中小企業の特徴は「他社依存」「戦略の欠如」「非効率」

 

 

 中小企業を取り巻く事業環境が深刻化しているなかで、中小企業経営者は、どう生き抜くべきか。そのヒントは、これまでの私の中堅・中小企業の調査を探っていくと見えるかもしれないと思いました。

 

 なぜなら、これまで私が実施してきたインタビュー調査記録のなかには、「日本の宝」であると思われるような中堅・中小企業がたくさんあるからです。

 

 私が大学院生になった1998年以降に実施してきたインタビュー調査などのファイルを整理すると、354点ありました(2024年11月1日現在)。中小企業1社だけを対象にして行われたインタビューもあれば、複数の中小企業経営者を対象にして行われたインタビュー調査もあります。

 

 中小企業は数が多く、企業業績も成長度合いも、小さくないばらつきがあります。そのため、中小企業全体を分析の対象として大きな数の標本を取って分析すると、正規分布になる可能性が高くなります。そこで、仮想になりますが、偏差値に置き換えて議論を進めていきます。

 

 中小企業の平均値は、50になります。中小企業のボリュームゾーンは、平均値の周辺で、一般的には偏差値48から52となります。個人的には、このボリュームゾーンに位置づけられる中小企業の生産性が1割でも上がれば、日本の経済は随分変わると考えています。

 

 偏差値40以下の中小企業には、いわゆる、「ゾンビ企業」がたくさん含まれていると考えられます。ゾンビ企業とは、一般的には、経営が破綻しているにもかかわらず、金融機関や政府機関などの支援によって存続している企業であるとされています。このような企業は、どこかのタイミングで破綻し、消滅していくことも少なくありません。

 

 偏差値が低い企業群の特徴は、「他社依存」「戦略の欠如・経営者の無知」「非効率」などです。

 

 

■他社依存

 

 偏差値が低い企業のなかには、特定大企業の取引に依存して、他の事業展開をしていなかったという事例が複数確認されています。そのなかには、自社に営業部門を持たないという企業もありました。

 

 その背景には、かつて系列関係にあった親企業が、特に競合他社との取引を禁止していた時期があったためでしょう。しかし、その後、時代が変わっても、自社で顧客開拓ができない企業が一定数、存在していました。具体的なインタビュー記述としては、

 

「他社への展開をせず、特定大企業の取引に依存している状態が続いた」

 

「特定大企業の取引で赤字を出していたのに、その下請企業の社長の口癖は、『寄らば大樹の陰』や『ビジネスは一本で良いから大木を見つけろ。がっちり捕まえとけ。口を開けていたら上から実が降ってくる』だった」

 

 などが確認できます。他社に依存するということは、自社の立場や取引交渉力が弱いということでもあります。その他社の言いなりになってしまいかねないことを理解しておかなければなりません。

 

■戦略の欠如・経営者の無知

 

 企業経営者としての戦略を持たず、発注企業の意向に流されるまま赤字の業務を受注したり、経営者の無知が、結果的に企業業績の悪化をもたらしてしまうことも確認されています。

 

 戦略の欠如については、具体的には、

 

「安い価格で製作を受注してしまうと、自分たちの給料を削ることだけだという自覚がない。『自分が我慢すれば済む』というような感覚では、全従業員に迷惑をかけてしまうという認識を持つべきだ」

 

 と、そのような経営者に対して厳しい言葉を投げかける企業経営者の記述が確認されます。また、

 

「大学卒業後、家業の後継者として取引企業に修業に行った。1年後に『潰れそうだから帰ってこい』と言われて実家に戻って、社内を見回すと、『できない』言い訳をする社内体質だった」

 

 という記述も確認されます。さらに、従業員が自社のことを「井の中の蛙状態」と表現している記述も確認できました。これらは、いずれも、経営者に経営についての基礎知識、すなわち、経営リテラシーが欠如していることに起因すると言えるでしょう。

 

 一方で、経営者の無知は、「知らなかった」では済まされない事態を確認しています。具体的には、

 

「この業界の経営者の多くは、経営者としての仕事ができていない。半年や一年先のことを考えていない。一生懸命やっているのはわかるけれど、結局やっているのはルーティンだけ。今日と明日くらいの時間軸しか持っていない」

 

 との厳しい発言が確認されます。

 

■非効率

 

 企業の事業効率が悪いことも、企業業績の足を引っ張っていることが少なくありません。特に、クリエーターや職人などの「専門家経営者」に多く聞かれる発言があります。

 

 クリエーターは作品の作り込みには注力するのだけれど、作業時間を気にせずに自身の納得のいくまで業務に集中するために、結果として、人時生産性を下げてしまっているということが少なくないのです。この状況が結果として、事業効率を低下させてしまっているのです。なかには、

 

「がむしゃらに作って良い作品になって、周りからも高い評価を得たけれど、制作費のことを考えて進めていなかったので、結果的に数千万円の赤字になってしまった」

 

 という企業経営者の発言もありました。その一方で、そのような業界の体質に依存しないよう、コスト管理や作業の合理化、収益構造の工夫、スタッフのスキルアップ研修などを実施して、収益構造の強化に日々取り組んでいる同業他社の存在が印象的でした。

 

 また、既存の業務のこれまでの進め方に固執することや経営者の(根拠のない)強いこだわりが、事業効率を下げてしまう原因となっていることも少なくありません。古くからの自社の慣習や社内だけでしか通用しない「常識」が経営効率を下げていることは、意外に少なくないのです。

 

 さらに、規律のない職場でだらだら長時間仕事をすることも、作業効率を下げることに直結します。工程管理や作業管理、時間を区切って効率的に業務を実施する意識・制度改革が必要だと言えるでしょう。

 

■企業の低偏差値を生み出すのは経営者の問題

 

 このほか、偏差値が低い企業群の特徴には「競争力の欠如」「業務の喪失」「組織の機能不全」などがありますが、いずれにせよ、低偏差値の企業は、経営者に問題があるといえます。

 

 他社依存を放置しているのも経営者ですし、戦略の欠如や無知も経営者の責任です。競争力の欠如や業務の喪失、業務が非効率の状態を改善していないのも経営者の責任です。組織の心理的安全性を担保していない状態を放置しているのも経営者の責任です。また、古くからの慣習や組織の常識、商習慣に固執して、変われないという企業もありました。

 

 変わらないことや、変われないことに対して、警笛を鳴らしている企業経営経験者は少なくありません。

 

 例えば、「無印」のブランドで事業展開する良品計画の松井忠三は、『覚悟さえ決めれば、たいていのことはできる』(2015年)のなかで、2期連続赤字となった時のことを「安心すると競争に負ける。油断するとかなり深い傷を負う。慢心すると致命傷を負う。こう気づいた私は、何よりも謙虚、臆病、危機感を大事にするようになりました」(p.157)と振り返っています。また、「『現状維持』は実は一番危険な選択です」(p.202)とも記しています。

 

 そして、7873億円の赤字からV字回復を遂げた日立製作所の経営を支えた川村隆は、『ザ・ラストマン』(2021年)のなかで、「流れない水は腐るように、企業は現状維持を目指した途端に腐りはじめます。成長をめざしてようやく現状維持を保てるぐらいです」(pp.105-106)と記しているのです。

 

 大企業の経営経験者であったとしても、このような認識を持っているのです。これらの指摘は、中小企業経営者にとっての教訓や戒めともなるはずです。

 

 

 以上、水野由香里氏の新刊『優良企業とゾンビ企業 中小企業の分かれ道』(光文社新書)をもとに再構成しました。500社以上をインタビュー調査してきた経営学者が中小企業を偏差値という軸で選り分け、優良企業に変貌するための条件を分析します。

 

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