
東京・板橋区の「居酒屋 金ちゃん」は、お笑いコンビ・鬼越トマホークの金ちゃんの実家だ(写真・木村哲夫)
十数年前のこと。記者はある中華料理店に思い切って飛び込んでみた。その店は以前から気になっていたのだが、店内がよく見えず、入りにくかったのだ。
いざ入店してみると、あるバンドのポスターが何枚も貼られていた。そこは、SUPER BEAVERのボーカル・渋谷龍太の父が営む「昇龍」だった。
ほどなくしてバンドのファンの聖地になったが、記者は店主の人柄と味にひかれ、足しげく通っていた。ところが、その店主が2025年6月に急逝、店も閉まることに。「推しは推せるうちに推せ」ではないが、店は行けるうちに行っておいたほうがいい。そんな教訓を残してくれた。
そこで今回、芸能人の実家――親やきょうだい、親族らが営む飲食店をリスト化し、グルメレビューサイト「食べログ」の評価順に50店を並べた。
なお、店舗につけられた点数は、あくまで書き込んだユーザーの評価であり、点数が味を保証しているわけではない。
1位に輝いたのは、KEIKO(globe)の実家が営むふぐ料亭「山田屋」。その点数は驚異の4.18! 明治38年創業の老舗であり、東京西麻布店(2024年から休業)は『ミシュランガイド東京』で9年連続三つ星を獲得した名店だ。現在は大分県に2店舗、東京に1店舗を構えている。記者も大分・臼杵(うすき)の本店を訪れたことがあるが、高級感あふれる外観にも、次々と出てくるコース料理にも圧倒された。
以下、目立ったところをピックアップしていこう。
3位は俳優・近藤正臣の実家「御料理めなみ」。創業80年以上のおばんざい店で、近藤の幼少期は店で余った料理が食卓に並んだという。後を継ぐため、近藤は高校卒業後に大阪の高級料亭で修業したが、3カ月で断念。俳優の道に進んだ。
4位の森田哲矢(さらば青春の光)の実家は大阪府堺市で蕎麦店を経営している。テレビ番組で紹介されたこともあるが、高評価の対象となっているのは、その味のようだ。大阪なのにうどんではなく蕎麦で勝負していることを考えると、よほど腕に自信があるのだろう。毎週木曜日と土曜日は蕎麦打ち教室を開催している。
7位の大家志津香の実家「いけす料理 磯太郎」は福岡県福津市にある。新鮮な魚介類が自慢で、店内のいけすを眺めるのも楽しい。娘が元AKB48ということもあり、現役時代は福岡でコンサートがあると、人気メンバーが多数、来店したという。「大島優子がしこたま飲んでいった」という話を聞いたことがある。
16位はプロフィギュアスケーター・安藤美姫の実家。愛知県名古屋市内のテレビ塔近くの喫茶店だ。祖父がオーナーだという。名古屋で喫茶店といえば、モーニング。ミキティがオリンピックに出場できたのも実家のモーニングを食べてきたおかげかもしれない。
■海老3尾の天重が破格! 筧美和子の実家は人気天ぷら店
22位の「天ぷら 筧」は女優・筧美和子の実家。東急線池尻大橋駅からほど近い場所で営んでいる。落ち着いた雰囲気の店内は、娘が初めて主演した、2025年公開の映画『オオムタアツシの青春』のポスターが貼られているが、“ここが筧美和子の実家です”という説明はとくにない。天ぷらと刺身の定食は、記者の訪問時はランチなら1100円。海老が3尾のった海老天重も1210円とリーズナブルだった。
24位は、辻希美の母が2017年にオープンしたハンバーガー店。地元民に愛されているようで、カラフルな店内は子どもも入りやすい。キッズルームを完備している点がすばらしいが、もしかしたら子だくさんな辻ちゃんのアドバイスなのかもしれない。辻も自身のYouTubeでこの店の宣伝をしている。
26位は居酒屋「古賀久」。店名は、こがけんの曽祖父である創業者・古賀久太郎に由来する。大正8年から続いており、すでに100年を経過している老舗ながら、手ごろな価格で楽しめるメニューが約100品用意されていて、ローストチキン、おでんが店の看板だ。
一方の「鳥居本」は、ランチもディナーも今回、取り上げたなかではもっとも高額。28位の、田畑智子の姉が若女将を務める京都市内の料亭だ。創業は享保年間。懐石料理に興味がある読者、もしくは田畑の大ファンならば一度は訪れたい、あこがれの地だ。
佐賀県出身の優木まおみの生家は、29位の中華料理店「光楽園」。店内に入ると、娘が掲載された雑誌などを集めたコーナーがある。名物は皿うどんだ。
36位は、有村架純の母が兵庫県伊丹市で切り盛りする「日本酒バル 酌」。オープンは、酒豪で知られる娘が『NHK紅白歌合戦』の司会を初めて務めた2016年。落ち着いた大人の雰囲気をめざしており、14席のみで、無断撮影禁止だという。母の創作料理と、全国各地へ足を運び、こだわって仕入れた日本酒が自慢だ。
元AKB48の内田眞由美は現在、東京・新大久保で焼き肉店「IWA」を経営しているが、そのルーツは実家にある。39位タイの「焼肉牛皇北野庵」など、東京・八王子市内に2店舗を構えており、ファミリー向けの大衆店として親しまれている。
同じく39位タイは、2025年の『THE SECOND』(フジテレビ系)で優勝したツートライブ・周平魂の実家の居酒屋「かまん坐」。京町家を改装したおしゃれな店に入ると、本人にそっくりな兄が出迎えてくれる。
賞レースといえば令和ロマン。くるまの父は定年後、東京・高円寺に瀟洒なお好み焼き店を開いた。42位の「アンジュ」だ。オタフクソース社の研修を修了したというお好み焼きの前には、くるまの好物という「のりっぺ」(韓国のりと三角チーズ)を頼んでおきたい。
大学野球部の同期で結成し、「野球がうますぎる彼女」の動画シリーズでバズった「ナチョス。」。彼氏役のサブローが話題になったのは、2025年正月のこと。『ぐるナイ年越しおもしろ荘!』(日本テレビ系)で、実家が「維新號」だと話したのだ。同店は明治から続く老舗で、サブローの父は総料理長を経て、肉まんなどを製造・販売する四谷維新號の社長という立場。番組で「巨人のOB会を毎年、やっていたみたい」というエピソードを話すと、スタジオはわいた。ちなみに、相方のにしむらの父も料理人で、東京・狛江市で中華料理店「狛食」を営んでいる(食べログ3.25)。
44位タイの井上和香の実家は東京・幡ヶ谷の居酒屋。女優だった母も店に立ち、常連の話し相手になっていたが、2014年に亡くなった。
同じく44位の「キリギリス」は、峯岸みなみの両親が店に立つ。以前は喫茶店だったというが、両親が旅行先で出合ったクラフトビールの味に感動して、ビアパブに鞍替えしたそうだ。
今回の集計で、最下位となったのは山田孝之と渡辺正行の実家の3.01。山田はダイニングバーを自身がおしゃれにプロデュースし、渡辺の焼き鳥店は親族が経営している人気店だ。
下位の店は、いずれも味や雰囲気に問題があるわけではない。知名度に頼らず、地元の常連に愛されているがゆえに、食べログの書き込みが少なく、点数が低めに出てしまう傾向があるのだ。
では、評価が高い店はどうかというと、それはそれで味に定評があるのは間違いがない。ぜひ読者の舌で確かめてほしい。
■「3.06点? ぜんぜん気にしません」鬼越トマホーク・金ちゃんの実家を直撃
東京・板橋区の「居酒屋 金ちゃん」は、お笑いコンビ・鬼越トマホークの金ちゃんの実家として有名だ。自称「売れない演歌歌手」である父・KIN-CHANさん、厨房に立つ母のCHIYOKOさんが対応してくれた。
店内はKIN-CHANさんの歌手時代や、愛息の写真が所狭しと飾られている。
「僕は岩手県の出身で、遠い親戚に千昌夫さんがいるんです。僕も歌手を夢見て上京しましたが、昭和59年にこの店を始めました」と語る父。自分も自由に生きてきたので、息子がお笑いを始めるのにも反対しなかったと笑う。
店は常連やファンで埋まる。この日も、電車で通って食事だけしているという年配の女性や、新潟県から来たファンが。
気になるお味は、タレにこだわったチヂミ風の「金ちゃんお好み焼き」が絶品。なすグラタンや、マーボー豆腐もまた酒のツマミにちょうどいい。それなのに食べログの点数は3.06……。低すぎませんか、CHIYOKOさん?
「ネットはぜんぜん気にしません。ウチには良ちゃん(息子の相方)という宣伝マンがいますんで。『まずい、まずい』とあちこちで言うもんだから、 “試してみよう” とお客さんが来てくれるのよ(笑)。この間なんて、香港からわざわざ寄ってくださったんですよ」
「居酒屋 金ちゃん」の価値は、点数でははかれないのだ。
取材/文・堀越日出夫