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定期的に炎上する「性的表現」どうして揉めるのかを検証する3つの「悪さフレーム」

ライフ・マネー 記事投稿日:2025.12.20 18:00 最終更新日:2025.12.20 18:00

定期的に炎上する「性的表現」どうして揉めるのかを検証する3つの「悪さフレーム」

 

 

 性的な広告は「悪い」ものであると批判されることが多い。例えば、巨大な胸や太ももを露わにしたキャラクターの画像が駅構内で掲示されると、しばしばSNS炎上が巻き起こる。あるいは、性的だとみなされたCMの商品の不買運動が呼びかけられたりする。

 

 だが、そもそも、性的な広告の何が悪いのだろうか。「いやいや、何を言っているんだ。性的だから悪いのだ」とすぐさま反論が来るかもしれない。

 

 ここで「性的なもの」を整理しよう。

 

(1)性行為に関わるもの

 

(2)人間の裸体や性器に関わるもの

 

(3)性的興奮を催させるもの

 

 これら3つのいずれかあるいはすべて。これが性的なものだ。だから、性的な広告とは、性行為に関わる広告、人間の裸体や性器に関わる広告、性的興奮を催させる広告である。

 

 さて、これの何が悪いのだろうか。よくよく考えてみよう。なぜ考える必要があるのか。それは、性的な広告の悪さが明確化されていないからこそ、性的な広告をめぐる議論がいつまで経っても水掛け論になっているからだ。

 

「この広告は性的だ! だから悪いのだ!」という批判に対して「女性の下着広告だって性的じゃないか!」と返されると問題が生じる。「いや、それは性的ではなくて……」というのは、誰もが納得する応答ではない。「性的だから性的な広告は悪いのだ」は、批判の理由としてよくないのである。

 

 性的な広告の悪さを批判したい人が必要としているのは、「性的だから悪い」という単純な説明ではなく、「性的であり、かつ〇〇だ。ゆえに、悪い」と言えるような、きちんとした理由づけであるはずだ。

 

 そこで私は、性的な広告の悪さを整理できる「悪さフレーム」を提案する。これは、性的な広告の悪さの理由を3つのポイントから整理するフレーム=枠組みであり、「思考のツール」だ。この悪さフレームを使うことで、どのような「悪さ」を理由に、性的とされるいろいろな広告が糾弾されているのかを理解できるようになる。

 

 そうなると、私たちは「性的だから悪い」という単純な説明の次のステージに進むことができる。

 

 先に少し言っておくならば、性的な広告の悪さが一枚岩ではなく、複数の意味での悪さがあるということが分かるし、さらに、複数の悪さのうちのどれが指摘されているのか、その都度整理できるようになる。人々が性的な広告の何を悪いと言いたいのかが分かるし、さらには、すれ違いがどうして起こるのかが見えてくる。

 

 では、フレームづくりを始めよう。

 

■性的なものの3つの悪さ

 

 悪さフレームを作っていくにあたって、私はポルノグラフィ研究を手がかりにする。

 

 理由はシンプルである。性的なイメージについての議論として、ポルノグラフィをめぐる研究にはかなりの蓄積があり、ポルノグラフィが性的なものの典型であるならば、その典型例を扱ってきたポルノグラフィ研究は、私たちが性的な広告を考えたいと思うときには頼もしい先達となってくれるからだ(もちろん、別に性的な広告がすべてポルノグラフィだ、と言いたいわけではない。性的な広告は必ずしもポルノグラフィとは言えないことも多い)。

 

 これまで行われてきたポルノグラフィ研究を、私は大きく次の3つのアプローチに分類する。いずれもポルノグラフィはなぜ悪いのか、という問いに、〇〇だから、と応えようとする試みだ。

 

 第一に、ポルノグラフィが悪いのは、その作り手の態度を反映しているから悪いのだ、と答える「態度」説がある。例えば、ポルノグラフィではない例を考えると、どう見ても人種差別的な映画があったら、その作り手がそういう信条を生きているのだろう、と判断できるし、その作品は、「人種差別的な価値観を反映しているから悪い」と言える。

 

 第二に、ポルノグラフィが悪いのは、そのポルノグラフィを使って悪いことがなされているからだ、とする「行為」説がある。例えば、ポルノグラフィを見たくない人に無理やり見せる、という悪いことがなされていたら、いかにも悪そうである。

 

 第三に、ポルノグラフィが悪いのは、そのポルノグラフィが人や社会に悪い効果をもたらすからだ、という「影響」説がある。これがいちばん分かりやすいだろう。ポルノグラフィを観たら、そのセックスの仕方を実際に男性が女性に対して行って、男性だけが満足する、といった(よくある)物悲しくもひどい話だ。

 

 まず「態度」は、ある一つのポルノグラフィだけを観て分かることだろう。つまり、一つのポルノグラフィというモノそれ自体だけを見れば分かる。

 

 けれど「行為」は、モノだけでは分からないだろう。どんなところでどうやって、誰が誰に対してポルノグラフィを使うか、といろいろな要素が入ってくるのが分かると思う。

 

 最後に「影響」は、態度や行為が最終的にどんな結果を引き起こすかに関わっていて、モノだけ見ても、行為まで見てもまだ分からない。社会の実際を確認する必要がある。

 

 この3つの悪さフレームで考えれば、「言われてみれば、性的な表現って定期的に炎上してるけど、なぜあんなに揉めるんだろうか?」と、不思議に思っているあなたに、きっと役立つことだろう。

 

 

 以上、難波優輝氏の近刊『性的であるとはどのようなことか』(光文社新書)をもとに再構成しました。人はなぜ「何が性的か」ですれ違うのか? 美学者が問う、前代未聞の「性/生」の哲学。

 

●『性的であるとはどのようなことか』詳細はこちら

出典元: SmartFLASH

著者: 『FLASH』編集部

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