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【中国の埋めがたい経済格差】集団で踊り、日本の土地も金も買い占めるおばさんパワー「大媽部隊」とは

ライフ・マネー 記事投稿日:2026.04.18 06:00 最終更新日:2026.04.18 06:00

【中国の埋めがたい経済格差】集団で踊り、日本の土地も金も買い占めるおばさんパワー「大媽部隊」とは

踊るおばちゃん「大媽」(写真・共同通信)

 

 ニューヨークのブルックリン、パリのルーブル美術館前、モスクワの赤の広場――世界の著名な観光地で、中高年の中国人女性たちが大音量の音楽に合わせて集団で踊る光景が頻繁に目撃されるようになった。彼女たちは「大媽(ダーマー)部隊」と呼ばれ、その統制の取れた動きは軍隊を彷彿とさせる。

 

「大媽」という言葉は本来「伯父の妻」を意味する親族関係の呼称だったが、現在では中高年女性を指す一般的な用語として定着している。ただし、この言葉には軽蔑的なニュアンスも含まれており、現代中国社会の複雑な世代間感情を反映している。

 

 この現象が単なる文化的な風景を超えた社会問題として注目されたのは、彼女たちの驚異的な経済的影響力が明らかになってからである。

 

 2018年、「大媽部隊」は国際金融市場を震撼させる出来事を引き起こした。わずか1週間で約300トンものゴールドを購入し、国際金市場の価格を一気に押し上げたのである。この購買力の集中は個人投資家集団としては異例の規模で、国際的な金融関係者を驚愕させた。

 

 さらに同年、多くの「大媽」が日本を訪れ、東京を含む日本各地の不動産を大量に購入・転売した。その取引の半分以上を「大媽部隊」が占めたといわれており、日本の不動産市場に実質的な影響を与えた。

 

「大媽」という言葉は英語では「dama」と表記され、オックスフォード英語辞典への登録候補となるほど世界的な用語になっている。

 

 しかし、この国際的な経済力の誇示は同時に深刻な文化摩擦も生み出している。ニューヨークでは、スピーカーを持ち込み大音量で音楽を流しながら踊っていた「大媽部隊」が騒音問題となり、警察に摘発され法廷に出頭させられる事件が発生した。パリでも同様の問題が発生し、観光地における文化的表現の自由と現地住民の生活環境の保護との間で複雑な議論が繰り広げられている。

 

「大媽部隊」の背景には、中国の改革開放政策による急激な経済成長がある。1980年代以降の経済発展により、中高年女性たちは若い頃に経験できなかった物質的豊かさを手にした。彼女たちの多くは文化大革命時代を経験し、個人の自由な表現が制限されていた時代を知る世代である。その反動として、現在の経済的余裕と海外旅行の自由を最大限に活用し、抑圧されていた自己表現欲求を解放している側面がある。

 

 この現象は単なる個人的な趣味の延長を超えて、中国社会の内部矛盾と世代間格差が国境を越えて表出した現象として理解すべきである。若い世代の中国人の多くは、「大媽部隊」の行動を恥ずかしく感じており、国際的なイメージの悪化を懸念している。一方で、当事者である中高年女性たちは、自分たちの文化的権利を主張し、西洋的な価値観への屈服を拒否する姿勢を示している。

 

■文化大革命が生んだ「失われた世代」

 

「大媽世代」に対するマスコミや若者からの厳しい批判を理解するには、彼女たちが経験した特殊な歴史的背景を知る必要がある。

 

 一般的に「大媽」は主に都市部に居住する60歳から70歳前後の女性を指し、その数は約8000万人と推測されている。現在60歳だとすると1960年代に生まれ、毛沢東時代の社会主義体制下で幼少期を過ごし、1980年代の改革開放時代に社会人生活を営んだ世代である。

 

 この世代の最も特徴的な側面は、その教育レベルの極端な低さだ。調査結果によると、男女あわせて大卒はわずか13.37%、高卒が18.77%に対し、中卒が41.9%、小学校卒業が25.96%を占めている。

 

 この極端な教育格差は、文化大革命(1966~1976年)の直接的な影響である。文革時代、毛沢東は「教育機関で学ぶ知識よりも、農村や工場で働きながら実践的経験を積むことが重要である」と強調した。この方針により、当時の学生たちは学業を放棄し、農村や山間部で農民とともに生活する「上山下郷(山へ行き、郷へ行く)」キャンペーンに強制的に参加させられた。約1600万人の都市部青年が農村に送られ、彼らの多くは基礎教育を完了することなく農村労働に従事することとなった。

 

 1977年に大学入試制度「高考」が復活したが、「大媽世代」はすでに小中高教育をまともに受けられなかったため、実際には大学教育を受ける機会は失われていた。2018年の調査では、「大媽世代」の年齢層で大学教育を受けた比率はわずか3%に過ぎず、これは現在の若い世代の50%以上という大学進学率と比較した際に、極めて深刻な教育格差を示している。

 

 さらに重要なのは、この世代が形成期に経験した集団主義的価値観である。文革時代には個人の自由な思考や独立した判断は「ブルジョア的傾向」として厳しく批判され、集団への絶対的な服従と画一的な思考が要求された。当時の都市部では職場ごとに4つの共同、すなわち「共同勤務、共同居住、共同生活、共同食事」が厳格に適用され、個人の生活のあらゆる側面において集団意識を徹底的に培うシステムが構築されていた。

 

 現在の広場舞も、この歴史的背景と無関係ではない。文革時代には毛沢東への忠誠を表現する「忠字舞」が中国全土で集団的に踊られていた。紅衛兵が緑色の軍服に赤い星の帽子をかぶり、片手に赤い『毛沢東語録』を持って革命歌謡を歌いながら踊る集団舞だった。当時最も有名な歌謡『東方紅』の歌詞は「東が赤くて、太陽が昇る。中国には毛沢東が出現した。彼は人民のために幸せをもたらす。彼は人民の大救星(救世主)」というものだった。

 

 この世代にとって集団からの排除は人生最大の恐怖であり、集団への所属と集団内での承認こそが自己実現の根本的な基盤となった。60歳を過ぎた今でも、広場や公園で集団的に踊り、集団的に金を買い入れ、不動産投資を行う行動パターンは、文革時代に深く刻み込まれた集団主義的価値観の現代的な表現なのである。

 

■制度改革が生んだ「勝ち組」

 

 この中高年女性層は、改革開放の時期に社会人となり、1990年代以降の急速な経済成長の恩恵を受けた世代である。特に社会主義体制下での住宅政策により、職場から無償で提供されたアパートを所有することが可能であった。その後、中国の都市部で不動産価格が急激に高騰すると、彼女たちの資産価値も連動して跳ね上がり、再開発による立ち退き補償などによって巨額の利益を得ることになった。制度的恩恵と市場経済の転換が重なったことで生まれた、時代的な特権といえるだろう。

 

 こうした資産を元手に、「大媽世代」は株式市場や不動産市場への投資にも積極的に参入し、さらなる富の蓄積を果たしていった。彼女たちの投資活動はしばしば市場に影響を与え、とりわけ金市場では「中国の大媽」の動きが国際的に注目されるほどとなった。彼女たちの存在は、もはや単なる家計の担い手ではなく、経済を左右する一大勢力であり、このような経済的影響力が若者の反発を一層強める結果を招いている。

 

 現在の若い世代は、住宅価格の高騰や教育費の増大、そして厳しい就職市場という三重苦の中にいる。高学歴でありながらも、住宅を持つことすら困難な状況に直面し、多くは「996」(朝9時から夜9時まで週6日働くという過酷な労働慣行)と呼ばれる過酷な労働環境で働いている。こうした現実の中で、制度の恩恵によって資産を築いた「大媽世代」との経済的格差は、単なる世代間の違いを超えた、構造的な不公平として捉えられている。

 

 さらに深刻なのは、そうした恩恵を受けた「大媽世代」が、依然として社会的発言力を持ち続けている点である。彼女たちは広場ダンスや集団投資などを通じて社会に影響力を持ち、時に若い世代に対して保守的な価値観や行動規範を押しつけることもある。これに対し、自由や多様性を重んじる若者たちは強い違和感を覚え、SNSなどを通じて彼女たちを風刺・批判する動きが拡大している。公共空間での騒音問題や市場の混乱を引き起こすような行動も、若者の目には「迷惑行為」と映っており、両者の価値観の乖離は深まる一方である。

 

 

 以上、李虎男氏の近刊『中国は覇権を握るのか 帝国をよみとく8つの鍵』(光文社新書)をもとに再構成しました。コロナ禍前後で様変わりした中国の現在地と未来像を明らかにします。

 

●『中国は覇権を握るのか』詳細はこちら

出典元: SmartFLASH

著者: 『FLASH』編集部

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