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佐藤天彦名人が語った「コンピュータ将棋」と「藤井聡太六段」
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.05.13 09:00 最終更新日:2018.05.13 09:26
本誌は、第76期名人戦の開幕前、佐藤天彦名人(30)へのインタビューを敢行した。佐藤は、一見、好きなことに没頭するマイペースな好青年だが、将棋も趣味も、相通ずるものがあるという。
「僕が影響を受けたのは升田幸三名人や中原誠十六世名人の将棋。10代のころから棋譜を並べていました。クラシック音楽が好きなんですが、将棋も偉大な先人の足跡を辿るのが好きです。
現在は、若手を中心にコンピュータを研究に取り入れる棋士が多い。じつは、コンピュータの指し手に、昭和初期〜中期の棋譜と似た形がよく出る。
具体的には、飛車の目の前の歩を手持ちにしたほうがよいといわれた時代がここ40年から50年続いていました。ですが、コンピュータの影響で変わってきている。80年前の棋譜のほうが、現在の指し筋に近いものがあるんです」
「初期の将棋ソフト『森田将棋』を使っていた」という佐藤名人は、2017年、第2期電王戦二番勝負で、将棋ソフト「PONANZA」に2敗した。
「コンピュータと真剣勝負をしたことは大きな経験です。コンピュータと自分との感覚の違いも感じましたし、対人にはないシチュエーションも経験できた。コンピュータは、数秒間に何百局面を読め、事前に何億局面と演算していたりと、前提が違うので、そのまま自分の将棋に取り入れられませんが」
若手棋士は、研究に最新の将棋ソフトを取り入れて実績を積む。筆頭格は、2016年に中学生棋士としてプロデビューし、破竹の29連勝と、最年少記録を更新し続ける藤井聡太六段(15)だ。
「藤井さんも、研究にコンピュータを取り入れていると聞きます。自分の考え方がしっかりしているからこそ、うまく取り入れることができるんです」
佐藤名人は2018年1月の朝日杯準々決勝で初めて、藤井五段(当時)と対局。現役名人が、中学生に敗北を喫した。
「僕は世代的に、羽生さんと藤井さんの中間のポジション。若い世代に脅威を感じ始めましたね。藤井さんは、序中盤から、大人顔負けの完成度の高い将棋を指し、終盤の鋭さもしっかり持たれている。対局では、お互い自然体の勝負でした。
藤井さんの完成度の高さ、序中盤のしっかりした落ち着きのある指し手が決め手になった。藤井さんのような方が出てくるのを予測はしていましたが、想像以上に早かったですね」
上の世代も、勢いがついている。羽生竜王は、2017年度竜王位を奪取し、前人未到の永世七冠の称号を獲得。さらに波乱の順位戦プレーオフを勝ち抜き、名人挑戦権を手にした。通算100期タイトル獲得という偉業の達成もかかっている。佐藤名人にとって、羽生竜王はまだまだ大きな壁だ。
「まずは、目の前の名人位の防衛です。そのうえで、いろいろな棋戦で活躍したい。いま、僕自身は30歳で、若いと分類されるほうです。この先、年齢を重ねるにつれて、課題も出てくるはず。羽生さんのように、長く活躍できる棋士を目指したいです」
さとうあまひこ
1988年1月16日生まれ 第74期・第75期名人。中田功七段門下
(週刊FLASH 2018年4月24日)