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生き残りを図る歯科医、新たな治療法で未来を模索する
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.11.15 11:00 最終更新日:2018.11.15 11:00
数カ月前に発売された経済誌で、今後給料が下がる仕事のトップに挙げられたのは歯科医だった。なんでも現在約64万円の月給が、約17万円になるという。
その理由は、すでに歯科医の数が飽和状態にあり、淘汰が始まっていることに加え、今後AI(人工知能)に取って代わられる可能性が高いからだそうだ。
歯科医の高野仁男さんは、現状を次のように語る。
「現在の歯科医は二極化していると思います。講演などをしていて感じるのですが、知識や技術を高めようとする先生が増えている半面、従来の治療の枠のなかで四苦八苦している先生も多い。
歯科の治療費は主要先進国のなかでも低く抑えられていて、医療保険制度が整えられてから50年以上、あまり変わっていません。
そのなかで、流行りがきて人気の先生もいます。情報社会なので、患者も歯医者を選べます。すべての歯医者が儲かる時代ではありません。日本の歯科医は、一般的には虫歯を削って詰めるというイメージがあり、ほとんど口の中だけを診ています。
しかし、昔から『病のもとは口にある』といわれてきました。欧米ではガンや成人病になると、まずは歯科医に口の中の状態を診てもらうことが、けっこうあります。
口の中の炎症は、身体を悪くする原因になることが知られてきていますが、扁桃腺や蓄膿症など頭部の病気に深く関わっています。それがあらゆる病気の一因となり、身体に影響を及ぼします」
歯の中に病巣があると身体の細胞が戦闘態勢になり、その弊害が本来の場所と違った場所に出てくる。
「口の中の状態が悪くなると、心臓や肝臓が悪くなることがあります。口の中の菌が心臓に付着し、弁膜症や感染性心内膜炎を引き起こすこともあります。
胃腸炎や下痢症、便秘症の人が、歯の掃除をすると治るなど、いろいろな病気は口の中の状態の影響を受けます。
ところが歯医者へ行くと、患者さんに細かな説明がないことも多く、大切な口の中を知らない間に治療され、ときとして身体に合わない重金属を詰められたりします。また、金属アレルギーの人に金属を埋め込むようなケースもあります」
東京医科歯科大学大学院修了後、30代半ばで、歯科医としての転機が訪れる。
「歯と全身状態が関係していることがわかったときは、自分の道が大きく変わったと思いました。歯を治すことで、その人の病気が治り、健康になる。歯が大切なのだと見方が変わりました」
一般医療は器官ごとに分けて専門的に診るが、最近は総合医など、全人的な治療が見直されてきた。個別の器官だけを治療しても、根本的に治すことはできないからだ。
「歯科も例に漏れず、虫歯を削って詰めるだけでなく、なぜ虫歯になったのか、『Why』に着目する必要があります。本当の健康を手に入れるために、背景にある食生活や生活環境、疾患などを総合的に診て治療にあたるように心がけています」
皮膚や骨と同様、歯も再生治療の研究が進み、歯の神経の再生治療はすでに始まっている。
「このような治療が進めば、歯を抜いてもインプラントや義歯などの治療の必要がなくなる時代が来ます。
私はインプラント治療をおもにおこなってきましたが、新しい治療法ができて、必要ならインプラントを抜いて新しい治療をしましょうと、次の10年を見越して患者さんに説明しています。異物を入れた以上、取り除く責任もあります」
大学院では、内科研究室で分子細胞生物学を研究していた。
「たまたま選んだもので、卒業したらその勉強は終わりと思っていましたが、最近、細胞治療が脚光を浴びてきました。
縁があったのか、この流れは自分にとって必然だったのかなと思います。今後は細胞治療に力を入れて、自分の身体は医者ではなく、自分の細胞でしか治せないという治療スタンスでやっていきたい」
注射一本で細胞が再生され、虫歯が治る日が待ち遠しい。
(週刊FLASH 2018年11月20日号)