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スイスの国民投票で知る「ベーシックインカムで人は働かなくなる?」
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.11.30 06:00 最終更新日:2018.11.30 06:00
2016年6月、スイス・ジュネーブで「ベーシックインカム」に関する国民投票が行われました。結果は反対多数で否決されましたが、国民投票を実現するために12万筆あまりの署名を集めた人たちは、投票で勝つことを目標とはしていませんでした。
運動を立ち上げた一人であるエノ・シュミットさんに、その背後にある考え方について聞きました。
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ベーシックインカムとは、個人が生活していくのに必要な収入、個人が生き延びるために、生活するために、贅沢ではないけれども、まともな生活ができるだけの収入を、無条件で給付するというアイデアです。
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理想主義とかユートピアとか思われる方もいるかと思いますが、実はそうではなくて、民主主義と同じぐらい強力な考え方でありまして、現在、世界的にいろんな議論が持ち上がっています。
皆さんに考えていただきたいのは、たとえばの数字ですけれども、皆さんが無条件のベーシックインカムとして、毎月20万円を手にすることができたら、それで何をしたいと考えるでしょうか。
その20万円を受け取るかわりに、今まで手にしていた給料や社会保障や年金などは20万円分減るかもしれません。しかし、すべての人が、無条件で毎月20万円を手にすることができたとします。
では、その20万円を手にした後、皆さんは今の仕事を続けるでしょうか。
ヨーロッパで行われた、いくつかの興味深いアンケート調査があります。そこでこの質問をしたところ、実に9割近くもの人が、「はい、仕事は続けます。1〜2日は働く日を減らすかもしれないですけれども、仕事は続けると思う」と答えています。
今度は同じ人たちに、「他の人はベーシックインカムをもらったら働き続けると思うか」と質問しました。すると、同じく9割近くもの人が「いや、他の人は仕事をしないんじゃない?」と答えたのです。
これは、無条件のベーシックインカムというものを自分のこととして考えるか、他の人のこととして考えるかで、答えが180度変わることを意味しています。
ある意味、私たちは自分の心と正直に向き合って自らのことを議論するよりも、他者のことを議論するほうが議論しやすいようです。
ですので私が強調したいのは、ベーシックインカムを考えるときに、社会全体とか他者のためのというような遠い世界のこととして議論することはやめてもらいたいということです。
そうではなく、自分のこととして、自分がこのベーシックインカムを手にすることができたら、どのような自由を手にすることができるか、何ができるのか、このギフトをもらえたら自分の個人的な生活をどう発展させることができ、また膨らませることができるのか、こういうふうに考えてもらえたらと思っています。
世界各地で、いろいろなベーシックインカムの給付実験が行われていますけれども、そのほとんどで、人びとがより多く熱心に働くようになったという結果が出ています。世間一般でいわれる怠け者になるとか、働かなくなるとか、そういう意見とは逆の結果です。
このことから、無条件のベーシックインカムを導入しよう、導入に向けて挑戦してみようという政府も出始めています。
2016年の6月にスイスで国民投票が行われたとき、ベーシックインカムの導入に賛成と言った人は23%でした。反対した人の方が多数派でした。これをもって失敗だと考える人もいますが、私たちはそうは思っていません。
民主主義では、人びとに知らせること、教育というものが大切です。スイスでも、このような大きなトピックに関しては、1回目の国民投票では否決されることが多々あります。しかし、同じトピックで2回目に国民投票が行われるときには、賛成派が増えるという現象がしばしば見受けられます。
私たちは、ベーシックインカムという制度をテーブルの上に広げ、国民全員に知らせるという目的を果たすことができました。ですから、このキャンペーンが失敗だったとは決して思っていないのです。
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以上、『お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか?』(光文社新書。エノ・シュミット、山森亮、堅田香緒里、山口純著)をもとに再構成しました。