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相続トラブルなぜ起きる「ニトリ創業家」遺産裁判で検証
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.02.12 06:00 最終更新日:2019.02.12 06:00
少子高齢化や核家族化が進む現代では、遺産をめぐる争いの数は確実に増えている。家具販売大手・ニトリの創業家で実際にあった、長男vs.母親&3人の弟妹連合で争われた「遺産分割裁判」を例に、一般家庭でも起こりうる相続問題について学ぶ。
「お、ねだん以上。」のCMでお馴染みだが、「ニトリ」の前身は、1967年に札幌市内に創業した「似鳥家具店」。当時は、家長の故・似鳥義雄さんが、妻、長男・昭雄氏(現会長)、長女、次男、次女とともに一家総出で家業を切り盛りしていた。
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その後、1972年3月に「似鳥家具卸センター株式会社」を設立、1986年7月に現在の社名「株式会社ニトリ」に。1989年7月に義雄さんが死去し、義雄さんが所有していた「ニトリ株」9万2500株はすべて長男の昭雄氏が相続した。
ところが相続から約18年後の2007年4月、似鳥家に異変が起きる。すべての自社保有株を引き継いだ長男・昭雄氏に対して、妻のみつ子さんと3人の子供たちが訴えを起こしたのだ。
義雄さんの死去にともない、妻・みつ子さんは不動産、ほか3人の子供たちは、それぞれ現金1000万円を相続。事業を継承した長男・昭雄氏はニトリ株と、資産管理会社・ニトリ興業株をすべて相続。1990年1月10日付で作成した遺産分割協議書が相続税申告書とともに税務署に提出されている。
争点となったのは、遺産分割協議書に押印された「実印の有効性」。原告の母・弟妹連合は、こう主張した。
「実印が勝手に使われた可能性があり、偽造された協議書は無効であるから、遺産分割は未了であり、ニトリ株はいまだ全相続人の共有状態である」
札幌地方裁判所での相続をめぐる裁判は2011年10月に結審し、2012年1月に昭雄氏全面勝訴の判決。のちに控訴審で和解が成立した。しかし、裁判所が認定しているとおり、遺産分割内容に偏りがあったことは確かで、家族内にしこりを残したといえる。
「ニトリの事例から学ぶことは、相続の不公平感です。裁判所も昭雄氏へ極端に偏って遺産分割されたことを認めています」
こう話すのは、『磯野家の相続』などの著書がある、弁護士の長谷川裕雅氏だ。似鳥家の争いのポイントから、一般家庭にも起こりうるケースを検証してもらった。
前述のとおり、みつ子さんは不動産、昭雄氏以外の3人の子は現金1000万円、昭雄氏は義雄さんが所有する株式すべてを相続した。
当時の株価は約591円。これで換算すると約5500万円なので、ほかの3人の子供の5倍以上も、相続することになる。ニトリは2002年10月に東証一部に上場、株価は4710円。提訴された2007年4月には6000円台と、株価は相続時の10倍以上になっていた。
「相続人の相続分に偏りが出れば、必ず揉めます。そうならないように、遺言を残すようにしましょう。また、昭雄氏が100対0で勝訴したので、家族間でわだかまりが残り、母親の暴露で昭雄氏が誹謗中傷に遭いました。
80対20ぐらいで勝ったほうが、その後は揉めなかったのではないでしょうか。遺産相続問題も100で勝つことがいいとは、言い切れないと思います」(長谷川弁護士・以下同)
遺産分割協議書に押印された「実印の有効性」についてはどうだろうか。
「家族間における印鑑の無断使用は、トラブルになることが多い。実際に印鑑が無断使用されて争うケースでは、『二段の推定』という法の原理が問題となります。
嚙み砕いて説明すると、印影が本人の印鑑と一致した場合は、本人の意思で『押印』されたと推定します。これが『第一の推定』。
さらに、本人の意思で押印したのだから、文書は本人の意思に基づいたものと判断するのが『第二の推定』です。この『二段の推定』によって、その文書が有効に成立するかどうかを判断するわけです。
ニトリの事例では、母と昭雄氏以外の3人の子供が、『昭雄氏が勝手に印鑑を持ち出して押印した』と主張しましたが、敗訴しました。ということは、この『二段の推定』が覆らなかったのです」
子供が勝手に父親の印鑑を持ち出して、金銭借用書の連帯保証人欄に、署名・押印をしてしまったというのは、ドラマだけではない。
自分の印鑑は、たとえ家族であっても安易に預けないで、保管することが大切。それが相続に限らず、家族を醜い争いに巻き込まない予防策である。
(週刊FLASH 2019年2月19日号)