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精米歩合60%「純米吟醸酒」を送り出した蔵元の先見の明
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.02.20 16:00 最終更新日:2019.02.21 10:49
東広島市の中央部には赤レンガの煙突がそびえ、白と黒のなまこ壁を配した伝統的な酒蔵が立ち並ぶ一帯がある。
灘、伏見と並んで日本三大酒処として知られる西条。江戸の宿場町の風情の残る町並みの一角にあるのが賀茂泉酒造だ。
「灘は六甲山からの急峻な流れを使う水車精米が可能なうえ、近隣に港があったため、酒蔵が集まりました。西条の場合、動力を使った精米機の開発と、鉄道の敷設がターニングポイントとなって酒造業が栄えました」
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こう話すのは、賀茂泉酒造副社長の前垣壽宏さん。大好きなわが町を語りはじめると止まらない。そんな前垣さんに、賀茂泉の歴史を聞いてみた。
「戦中戦後の米不足や、食糧管理法もあったため、お米だけでお酒を造ることは難しい時代がありました。そんななか、私の祖父にあたる2代目前垣寿三は、米と米麹だけで醸す純米酒の復活に取り組みます。
1972年に当時としては画期的な精米歩合60%の純米吟醸酒を世に送り出しました」
醸造アルコールを添加したものが当たり前だった時代、2代目は純米での酒造りに社運をかけた。今から考えると先見の明があったのである。
「純米醸造は賀茂泉の原点。広島杜氏伝承の三段仕込みを忠実に守りながら、活性炭素ろ過をおこなわないお酒にこだわりつづけたいですね」
快活に語る前垣さんに、「伝統を守りつつ変革していくことのバランスをどう考えているのか」と問うと、眼差しが真剣になった。
「それは永遠のテーマだと思っています。創業の精神とはなんなのかと考え続けなくてはなりません。その一方、時代の変化を捉えるには、それを見極めるだけの英知や経験も必要になってきますから責任は重い。
攻めの部分では、海外のマーケットには目を向けていきたいです。しっかりしたバックボーンのあるものは受け容れてもらえますから、その歴史をちゃんと伝えていけば、活路を見い出せるのではないでしょうか」
常日頃から、「我々は99%消費者だ」という意識を持ちつづけているという。
ちょっとわかりにくいので、その心を聞くいた。
「自分が口にしないものをお客様に販売するのは、おかしなことだという意味ですね。自ら喜んで呑めるものなら自信を持ってすすめられます。常々心がけているのは『安全と安心』。消費者としての目線を忘れないということを、肝に銘じておくための言葉です」
<蔵元名>
賀茂泉酒造(広島)
創業107年(1912年)
<銘柄>
純米吟醸 朱泉本仕込
広島県東広島市西条上市町二ー四
<社訓>
われわれは99%消費者だ