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日本が作った「ゾンビ企業」救済機関の知られざる実態

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.03.11 20:00 最終更新日:2019.03.22 15:51

日本が作った「ゾンビ企業」救済機関の知られざる実態

 

 日本政府は、2003年から2007年まで存続した「産業再生機構」が、存続中に312億円を納税し、残余財産の分配により432億円を国庫に納付したことから、官製ファンドビジネス(官民ファンドと呼ばれるが、官と民の立場は平等ではないので、官製ファンドと呼ぶ)を積極化させた。

 

 2009年には、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている中堅・中小企業、その他事業者の事業再生を支援することを目的として、政府が100億円、民間金融機関が100億円を出資して「企業再生支援機構」を設立した。資金調達のため、政府保証枠1兆6000億円も用意された。

 

 

 2013年に、企業再生支援機構は「地域経済活性化支援機構」に改組され、新たに政府保証枠1兆円を付与された。

 

 こうして中堅・中小企業向けにできあがった機関であったが、実際には、2010年1月に日本航空に3500億円という巨額の投資を行った。日本航空の再建は成功し、2012年9月には再上場することで、支援機構の株式は7000億円で売却され、3500億円の利益を手に入れた。

 

 地域経済活性化支援機構は、今日でも存続しており、2018年11月までに累計で110件の投資を行ったというが、出資は22件で総出資額は3713億円となっていることから見ると、いかに日本航空の比率が高かったかがわかる。

 

 現在は、地域金融機関から紹介を受けた企業について、案件を審査して、出資や融資、債権買取、経営者派遣等のサービスを行う機関となっており、より当初の目的に忠実な投資が行われている。

 

 ただ、その結果、いわゆるゾンビ企業の救済機関になってしまったことは否めない事実である。

 

 政府の官製ファンドビジネスは、これに留まらなかった。同じく2009年に政府が2660億円、民間27社が140億円、個人2名が1000万円を出資して、「産業革新機構(INCJ)」を設立した。これにも政府保証枠がついており、その金額は1兆8000億円であった。

 

 目的は、企業再生支援機構とは異なり、先端技術や特許の事業化を支援すること。投資対象となるのは、大学や研究機関に分散する特許や先端技術による新事業、ベンチャー企業の有望な技術、国際競争力の強化につながる大企業の事業再編などであるとされていた。

 

 ところが、この産業革新機構が、経済産業省の意向が働いたのか、ゾンビ企業救済機構となってしまった。

 

 2012年4月、東芝、日立、ソニーの傘下にあった中小型ディスプレイ事業を統合してジャパンディスプレイが誕生した。産業革新機構は、2000億円を投じ、出資比率70%を握り、残りの30%を東芝、日立、ソニーが持つことになった。

 

 産業革新機構のシナリオは、3社を統合すれば世界シェア20%でトップとなり、技術力も結集できるから、競争力を強化できるというところにあったようだ。

 

 しかし、統合された3社の実際の業績はというと、ソニーは50億円以上の赤字に陥り、日立は220億円超の債務超過、東芝は累積で1000億円を超える債務超過に陥り、お荷物になっている状態だった。こんな会社に2000億円を出資するぐらいだから、余程自信があったのであろう。

 

 投資をした直後の2013年3月期には、売上高1651億円、経常利益83億円、2014年3月期は売上高6145億円、経常利益190億円と好調を維持した。そして、2014年3月には、東証1部上場も果たした。

 

 しかし、業績が良かったのはここまでだった。それ以降、業績は悪化し、

 

・2015年3月期は経常利益18億円、純利益128億円の赤字

 

・2016年3月期は経常利益129億円の赤字、純利益318億円の赤字

 

・2017年3月期は経常利益88億円の赤字、純利益316億円の赤字

 

・2018年3月期は経常利益936億円の赤字、純利益は2472億円の赤字

 

 に沈みこんだ。この赤字の原因は、中国のパネルメーカーである天馬微電子、京東方科技集団等が高い価格競争力を武器に台頭してきたことにある。

 

 産業革新機構は、2014年3月の上場時に700億円の売却益を得たが、2016年12月には750億円を追加出資した上、銀行からの融資1070億円に保証を付けているというのだから、3000億円以上のリスクを背負っている状態である。

 

 元々競争力がなく、ただ規模だけ大きかった事業に安易に投資を行った責任を誰が取るのかと考えてしまう。

 

 ただし、産業革新機構は、2009年設立から2016年末までに112件に投資し、1兆2483億円の利益を上げたことは、お伝えしておきたい。

 

 ほとんどが、半導体大手のルネサス・テクノロジーの売却益のようであるが、このルネサスもNEC、日立、三菱電機の半導体部門を統合してでき上がった会社であり、電機業界支援の側面を持っていたことにも触れておこう。

 

 産業革新機構は、2018年9月に「産業革新投資機構(JIC)」に改組された。産業革新投資機構は、AIやIoTなどの革新的な分野に投資して新規事業を創造したり、企業価値の高い非上場企業に資金を供給することをもくろんでいたらしい。

 

 2019年度予算で、経済産業省は、投資規模を拡大させるため、1600億円の予算を要求していた。ところが、取締役報酬について、経済産業省が自ら提案した報酬案を産業革新投資機構が取締役会で決議した後に撤回したため、産業革新投資機構の田中正明社長は経済産業省を厳しく批判することになった。

 

 12月10日には、お互いの溝を埋めることができず、産業革新投資機構の民間出身取締役9名が辞任することになった。これによって産業革新投資機構の活動は停止することになり、経済産業省は2019年度予算で要求していた1600億円を撤回したのである。これが官製ファンドのお粗末な実態である。

 

 

 以上、植田統氏の近刊『日米ビジネス30年史』(光文社)をもとに再構成しました。 この30年で日米のビジネスは完全に逆転してしまいました。その原因を明らかにします。

 

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