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【食堂のおばちゃんの人生相談】57歳・会社員のお悩み

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.12.09 11:00 最終更新日:2019.12.09 11:00

「食堂のおばちゃん」として働きながら執筆活動をし、小説『月下上海』で松本清張賞を受賞した作家・山口恵以子。テレビでも活躍する山口先生が、世の迷える男性たちのお悩みに答える!

 

【お悩み/待つわさん(57)会社員】
 先日、妻に「あなたが定年退職したら、私は実家の近くで喫茶店をやりたいから、別居しましょう」と言われました。「定年後は、妻とのんびり過ごしたい」と思っていたのに、寝耳に水。定年まであと3年。このまま、熟年離婚への道まっしぐらなのでしょうか。

 

 

【山口先生のお答え】
 まあ、それはそれは。さぞかしショックを受けられたでしょうね。あなたのお気持ちはよくわかります。

 

 長年一生懸命働いてきて、苦労が報われるまであと3年。やれやれ、やっと肩の荷を下ろせると思ったら、いきなり……。これまで奥さんを裏切ったことはないし、大切にしてきたつもりなのに、いったい何故こんなことに? 多分「奥さんの気が知れない」と思う男性読者は大勢います。

 

 ただ、私は奥さんの気持ちも想像がつきます。あなたが会社で働いている期間、奥さんはずっとご主人をサポートしてきたわけです。

 

 言い方を換えると、自分の都合よりご主人の都合を優先する生活を続けてきたと、奥さんは思っているのです。そんな生活が30年近く続いて、いい加減飽き飽きしてしまったんですね。

 

 だから、せめてご主人が定年になったら自分の都合を優先して生活したい。新しいステージに踏み出したい。それが実家の近くで喫茶店を経営するという選択に繋がったのでしょう。

 

 その場合、ご主人の世話をしながら新しい仕事をするのは、精神的・肉体的な負担が大きすぎる。だから別居を望んだのです、きっと。

 

 実は年末に「婦人公論」の依頼で『ライフ・シフト』(東洋経済新報社)という本を読みました。それによれば、今10歳の子供の半数以上が100歳以上生きるのだそうです。衝撃でした。

 

 もう教育・仕事・引退の三つのステージでは、人生を使い切れない。ステージを増やして、80歳過ぎまで現役生活を送る人が増加する、と。その予想が当たるか外れるか、多分私は結論が出る前に死んじゃいますけど、それにしてもすごい世の中になったもんです。 

 

 もし、あなたと奥さんが100歳近くまで生きると想定すれば(しかもその想定はかなり現実味がある)、奥さんの喫茶店経営は良いアイデアだと思います。特別な趣味でもない限り、長すぎる老後を有意義に、生き甲斐を感じながら過ごすのは難しいです。定年の3年前に奥さんの計画がわかって良かったですね。

 

 今からでも遅くはありません。真剣に炊事洗濯の能力を身につけてください。掃除や洗い物は奥さんに教えてもらうのも良いですし、料理なら男性歓迎の料理教室がいくつもありますから、そこへ通って腕を磨くのも良いでしょう。

 

 少し腕が上がったら、休みの日は奥さんの代わりに掃除・洗濯をしたり、料理を作ったりして、役に立つ人材であることをアピールしてください。3年かけて、ゆっくりと、着実に。

 

 そして、定年後は奥さんの喫茶店に “従業員” として雇ってもらうのです。勿論、ボランティアでただ働きですよ。掃除、皿洗い、簡単な調理、経理事務など、何でも喜んでやりましょう。

 

 やがて奥さんは、役に立つあなたを見直します。頼りにするようになるかも知れません。新しいステージに踏み出した奥さんの一番の味方があなたです。二人は夫婦の絆に加えて、喫茶店経営を通して新しい絆を結べるのです。

 

 喫茶店が成功したら万々歳ですよ。ぶっちゃけ、退職金と年金だけで長い老後の生活を支えるのは難しいですから。奥さんは別居は望みましたが、まだ離婚とは言っていません。定年を前に夫婦の関係も見直して、新しい絆を結んでください。


やまぐちえいこ
1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。就職した宝飾会社が倒産し、派遣の仕事をしながら松竹シナリオ研究所基礎科修了。丸の内新聞事業協同組合(東京都千代田区)の社員食堂に12年間勤務し、2014年に退職。2013年6月に『月下上海』が松本清張賞を受賞。『食堂メッシタ』『食堂のおばちゃん』シリーズ、そして最新刊『夜の塩』(徳間書店)が発売中

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