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『江戸前の旬』原作者が語る「シャリとタネのバランスは?」

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2020.01.27 16:00 最終更新日:2020.01.27 16:00

『江戸前の旬』原作者が語る「シャリとタネのバランスは?」

 

 マンガ雑誌『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)で、1999年から今も連載が続く、“老舗” の寿司漫画『江戸前の旬』。寿司の具である “タネ” のエピソードを中心に、すでに100巻が発売されている。原作者の九十九森先生が、「寿司ウンチク」を存分に語ってくれた。

 

 

「寿司でタネの大事な “相棒” である、シャリのお話。使うお米の種類から炊き方、味つけに至るまで、店によってさまざまです。

 

 

『江戸前の旬』では、『ササニシキ』が寿司に向いていると描きましたが、それは米自体に甘みがないから。個人的には、『甘い寿司飯は魚には合わない』と思っています。アツアツのご飯で刺し身を食べるなら、ご飯に甘みがあってもいいですけどね。

 

 お寿司のタネへの仕事は、刺し身とまったく違いますし、似ているようで別の食べ物。シャリとタネが喧嘩しないようにすべきですし、つねづね『シャリが出しゃばっちゃいけないな』と思っています。

 

 たとえば、銀座『やまだ』のシャリは、そのまま食べるとかなり酢が効いてすっぱい。ところが、寿司にしてタネと一緒に食べると、そのすっぱさがスッと消えて、調和がとれるんです。甘さは感じませんし、そういうバランスが理想でしょう」

 

 シャリの味つけには、地方ごとの特色があった。

 

「昔は京都や大阪では、シャリを昆布で炊いて砂糖を入れていました。そうすると、めちゃめちゃ甘いんですよ。それを、にぎり寿司にしていましたから、東京の人間には甘くて食べられなかった。

 

 銀座から京都の祇園にお店を出した親方が、江戸前の寿司を出したら、『京都ではそんなんじゃ、やっていけまへんえ』って言われて昔の京都風に直したそうで。

 

 一度知り合いに『京都にも江戸前のお店ができたから』と誘われて、食べに行ってみたんですが、やっぱり口に合いませんでした。ただ、いまは関西のシャリも、江戸前に近い味つけになってきています」

 

 シャリには、ほかにも店によってこだわりがある。

 

「シャリの硬さにもお店によって差がありますが、それ自体にウマいマズいはなく、『お店のやり方と自分の好みが合うかどうか』です。一方、シャリの温度は、『人肌が一番いい』って言われています。

 

 ちなみに、シャリの温度にこだわるお店だと、タネの温度もこだわっています。ふつうに冷蔵庫から出して握ると、温度が低いんですよ。そうすると魚の香りとか味が立たない。だから、わざわざ冷蔵庫から出して、『温度を確かめてから握る』っていう職人さんも、けっこういますね」

 

 温度へのこだわりには、食感以外の理由がある。

 

「ちょっと違う話になりますが、知り合いのバーテンダーに、ドライマティーニをステア、つまりかき混ぜるときに『どこで止めるんですか?』って聞いたことがあるんです。

 

 そしたら、『香りが立ったら止めます』と言う。それで、『ああ、だから寿司も、一番タネの香りの立つ温度が望ましいんだな』と思いました。

 

 ちなみに、カウンターにショーケース式の冷蔵庫を置いているお店は温度調整のためではなくて、ただ見せるためだけのものです。見ていて楽しさはあるんですが、じつは一流店では、ほとんどないことです。タネが乾燥するから、みんな嫌がるんですよ。

 

 だからみんな箱に入れて、つけ台の下の冷蔵庫にしまっています。で、握る少し前に出して、まな板の上に乗せて、温度を上げるんです。

 

 回転寿司を食べるときは、シャリや温度まで気にしていませんよね。だからカウンターのお店に行くと、『渾然一体となって寿司なんだな』と実感するんです」

 


つくもしん
青森県出身 漫画原作者 作画担当のさとう輝先生とコンビで週刊漫画ゴラクで連載中『銀座「柳寿司」三代目 江戸前の旬』、スピンオフ作品の『寿司魂』『旬と大吾』『ウオバカ!!!』などを執筆。メディアへの出演は、連載20年で「ほとんどない」そう

 

(C)九十九森/さとう輝・日本文芸社

 

※『江戸前の旬DELUX』1巻が、日本文芸社より2020年1月29日に発売

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