「医療ドラマは当たる」と、近年のテレビ業界ではいわれている。いまどきの若者はネットやゲームに忙しく、テレビは中高年向けの娯楽となって久しい。
現在のドラマのメインターゲットであるアラフォー以上の世代にとっては、学園ものよりも病院を舞台にしたドラマのほうが身近な存在なのだろう。
しかし、医療ドラマならすべて当たるのかというと、けっしてそうではない。10月から放送されていた『メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断』(フジテレビ系・火曜9時)は「大学病院を舞台に、原因不明の病気の謎を解き、患者の命を救うべく奮闘するメディカルミステリー」という、“いかにも”な企画だ。
主演は吉田羊。ほかにも相武紗季や吉岡里帆など若手人気女優を配して、登場女医の女子力合計点としては、『ドクターX』よりも高そうなのだが、視聴率は6~8%台と低迷。コンスタントに20%超を叩き出す『ドクターX』に完敗している。
私も『ダ・ヴィンチ』を観てみたが、正直言って退屈だった。「患者に寄り添う」「オペよりも大切なことを仲間が教えてくれた」etc.……どこかで聞いたような美辞麗句のオンパレードで、空しくなってしまった。
金八先生がヒットし、20代がドラマの主要顧客だった時代なら、こういうストーリーもウケただろう。
しかし、アラフォー以上の世代にとって「優しさとチームワークで命を救う」的な美談は、「人間はそんな単純じゃない」「患者に寄り添うのは、医師免許なくてもできるよね」と、シラけてしまうのだ。
『ドクターX』にも「患者に寄り添う」がモットーの原先生(鈴木浩介)がシリーズ1から登場しているが、大門未知子にはいまだに名前すら覚えてもらえない。
加地先生(勝村政信)は、大門を「デーモン」呼ばわりしていながら、オペ中の協働はバッチリだったりする。
登場するほかの医師たちも、「外国かぶれ」「女好き」など人間臭い弱点を抱えており、人生経験を積んだアラフォー超の世代にとっては「あるある~」的な共感をもたらしている。
先日の米国大統領選挙ではトランプ候補が勝利を収めた。薄っぺらい美辞麗句を聞き飽きた人々に、タブーぎりぎりのストレートな本音をぶっちゃけて、しかもビジネスマンとしては大成功している人物。
結局のところ、「優等生のヒラリー」よりも「不良だが結果を出すトランプ」のほうが、有権者のハートをとらえたのではないか。
「理想の医者は?」と聞かれて「患者思いの優しい医者」と言う人は多いが、その真意は「病気を治す基本的スキルがあったうえで」である。
特に外科医の場合、「スキルのない人間的な医者」と「スキルのある破天荒な医者」の二択なら、後者を選ぶ患者がほとんどだろう。
よって、『ダ・ヴィンチ』の優等生女医仲よしチームよりも「破天荒だが、手術では結果を出す」大門未知子&個性派医師チームが、視聴者の支持を集めるのは当然の結果だと、私は思うのである。
<筒井冨美 Fumi Tsutsui>
1966年生まれ。フリーランス麻酔科医 国立医大卒業後、米国留学、医大講師を経て2007年からフリーに。『ドクターX』(テレビ朝日系)の取材にも協力。新著『医者の稼ぎ方』(光文社新書)が来年1月発売予定