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根津美術館の国宝屏風とカキツバタを愛でるゴールデンウィーク/女子アナ横井弘海の「エンタメ時間」

芸能・女子アナ 投稿日:2022.04.22 16:00FLASH編集部

根津美術館の国宝屏風とカキツバタを愛でるゴールデンウィーク/女子アナ横井弘海の「エンタメ時間」

国宝 燕子花図屏風

 

「昨日、庭のカキツバタが開花していました!」

 

 一足早く「庭」を訪れた友人が連絡をくれました。庭といっても、1万7000平方メートル超、高低差が約10メートルもある起伏に富んだ日本庭園――「鉄道王」と呼ばれた実業家・根津嘉一郎(1860〜1940)の私邸だった敷地に1941年に開設された根津美術館(東京・南青山)のお庭です。

 

 

 美術館は戦争で建物が焼失した後、再建・増築をおこない、2009年には建築家・隈研吾氏が設計した切妻型の屋根が印象的な和モダンの姿となりました。

 

 壁一面のガラス越しに見える庭園は、深山幽谷の趣をそのままに、清涼な空気と四季折々の自然を感じられる都内でもひときわ贅沢な空間です。

 

「根津美術館八景」と呼ばれる美術館の見どころのひとつが「弘仁亭の燕子花」。茶室「弘仁亭」の前に広がる池のほとりに、毎年4月末から5月中旬にかけて、カキツバタが紫色の花を咲かせます。

 

 毎年、花を見ていらっしゃる美術館の方によると、「カキツバタの花時は長く、今後の気温次第ですが、GWいっぱいお楽しみいただけそうです」とのこと。

 

根津美術館・庭園内のカキツバタ


 さて、カキツバタが見頃を迎えるこの時期は、根津美術館もひときわにぎわいます。国宝・重文含む一級品ぞろいの古美術コレクションのなかでも、名品中の名品である尾形光琳「国宝 燕子花図屏風」の特別展が、年に一度開催されるのです(5月15日まで、オンラインで日時予約制)。

 

 嘉一郎は収集したコレクションを広く公開し、「衆とともに楽しむ」を理想にしたと言いますが、国宝を間近で眺めることのできる貴重な機会です。

 

 シンプルで、そのデザイン的な感覚が現代に通じる「燕子花図屏風」は何度見ても飽きません。屏風1枚(一隻)の大きさは縦1.5メートル、横3.5メートル。元禄文化を代表する六曲一双の大名品です。

 

 入念に貼られた金箔の上に、型紙の技法を応用したカキツバタの群生が、高価な「群青」や「緑青」の岩絵具をふんだんに使って描かれていて、近くで見ても、離れて見ても、庭園の水辺のカキツバタそのままに、生き生きとリズミカルに咲き誇っています。

 

 京都・西本願寺に伝わる寺宝でしたが、莫大な借金整理のために、1914年、嘉一郎に売却されました。1951年に国宝に指定されています。

 

 この「燕子花図屏風」の特別展は、毎年テーマを変えて開催されます。今回は「燕子花図屏風の茶会 -昭和12年5月の取り合わせ」。

 

 嘉一郎は「青山(せいざん)」の号をもつ茶人で、膨大な茶道具のコレクターでもありました。喜寿(77歳)を目前にした嘉一郎が亭主として、大切なお客様ひとりひとりに給仕もしたという昭和12(1937)年5月の茶会は、ひときわ豪華な茶会だったそう。そのときの道具の取り合わせを再現しています。

 

 茶会一番のサプライズは、普通の茶事なら終わって帰るところで案内された、“おまけ” の浅酌席(酒宴)の大書院。そこに「燕子花図屏風」が、重要文化財「藤花図屏風」(円山応挙筆)、「吉野図屏風」とともにドカンと現れ、招待客たちを感動させました。

 

 茶会がおこなわれる季節や客に合わせて趣向を考え、道具の取り合わせを決めるのが迎える側の亭主ならば、亭主の趣向を理解して、その「おもてなし」に感謝しつつ、ともに過ごすひとときを楽しむのがいい客だと、にわか茶道で習った気がします。そこで、屏風のモチーフについて一言。

 

 屏風の題材は『伊勢物語』の第8段「東下り」です。『伊勢物語』は作者不詳ながら、『源氏物語』など後の文学に大きな影響を与えた平安時代の大恋愛物語です。

 

 主人公は六歌仙の一人、在原業平という実在した高貴な美男子とされています。元服してから数々の恋愛遍歴を重ね、臨終に至るまでを和歌で詠む一代記です。

 

 京に居づらくなり東下りの旅に出た男が、三河国・八橋あたりの川辺に咲き誇るカキツバタを目にして詠んだ折句は有名ですね。

 

「からころも 着つつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」
(身になじんだ唐衣のように、長年なれ親しんだ妻を都に残したまま、はるばる来た旅のわびしさを思う)

 

 茶会の取り合わせに逸品や季節感を入れるだけでなく、「燕子花図屏風」を出すことを内緒にしながら「におわせ」を入れたり、実はもっといろいろな意味や思いが込められているのでしょうが、素人ながら、奥が深い大人の趣味だと感じます。

 

 さて、展覧会を堪能した後は、庭園内の森の中のカフェ「ネヅカフェ」で、自慢のビーフシチューを頼むのもよし、庭園内の茶室「披錦斎(ひきんさい)」で薄茶とお菓子を楽しむもよし。

 

 久しぶりに多くの人出が予想されるゴールデンウィーク。この都会のど真ん中で、しばし喧騒から離れて、心豊かな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

 

※冒頭の写真は「国宝 燕子花図屏風」(左隻・部分)尾形光琳筆、根津美術館蔵(特別な許可を得て撮影しています)

 

横井弘海(よこいひろみ)
東京都出身。慶應義塾大学法学部卒業後、テレビ東京パーソナリティ室(現アナウンス室)所属を経てフリー。アナウンサー時代に培った経験を活かし、アスリートや企業人、外交官などのインタビュー、司会、講演、執筆活動を続ける。旅行好きで、訪問国は70カ国以上。著書に『大使夫人』(朝日新聞社)

 

( SmartFLASH )

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