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少子化対策はなぜ失敗するのか…江戸時代も独身が多かったのに現代と何が違う?

社会・政治 投稿日:2021.06.04 16:00FLASH編集部

少子化対策はなぜ失敗するのか…江戸時代も独身が多かったのに現代と何が違う?

 

 なぜ人は、子どもを欲しいと思うのでしょう? 私の場合は、妻と子育てをしてみたかったからです。教育費とか、お金はめっちゃかかるだろうけど、それでも欲しかった。いわば、好奇心です。

 

 義務感なんてないし、子どもに老後の面倒を見てもらおうとか1ミリも思ってないし、継いでもらいたい家業もないので、子どもがいないとヤバイなんて思いません。「いたらいいなぁ」というスタンス。こんな感じの方、少なくないと思います。

 

 

 この考え方を経済用語で表現すると、子どもを「消費財」と捉えていることになります。子どもというのは、少なくとも家計的には、お金がかかるだけの存在です。「まぁ、言い方はともかく、そりゃそうじゃね?」と、思いましたよね。しかし、この考え方は人類の歴史的には完全に異端です。

 

 なぜなら、子どもはずーっと、経済学用語で言う「生産財」だったからです(開発途上国の貧困層にとっては今でも生産財です)。昔は、多くの人が家族単位で農業などに従事していたので、子どもは労働力として期待されていましたし、実質的に両親の老後の面倒をみる義務もありました。

 

 現代のように国家が運営する年金も介護保険もない状況では、両親の福祉は子どもが担うのがもっとも合理的、というより、他に手段がなかったのです。そういう意味で、親にとって子どもは「資産」でした。子どもがいないと生活(家業)も老後もヤバかったのです。

 

 かつて、江戸、明治の頃は、実に多種多様な世帯で社会が成り立っていました。メキメキ人口が増えていた時代だったのだから、み~んな結婚して子どもを産みまくっていたと思われがちですが、さにあらず。

 

 例えば幕末の江戸と現代の東京を比較してみると、未婚率がほとんど変わらないどころか、むしろ、地域によっては江戸の方が高い場合もあります。「まったく! これだから東京の若もんは! 未婚率は高いし! 出生率も日本で最低だし! まったくけしからん!」という人もいますが、実はそれ、江戸の頃から変わってないのです。

 

 しかし、江戸時代中期から末期の人口は、堅調に推移しています。実はこの時代は世界的な寒冷期で、度重なる飢饉という、人口が押し下げられる強い要因があったにもかかわらずです。大都市の江戸の若者がこんな感じなのに、なぜでしょう……?

 

 答えは簡単。この時代の人口維持は、主に地域の農村が担っていたのです。室町末期から江戸時代に入ると技術革新と制度改革(太閤検地とか)があって、貧しい農民も自立できるようになりました。結果、江戸中期以降は農村部では多くの人が結婚でき、子どもを持てるようになったのです。

 

 わかりやすい事例をひとつご紹介します。1716年から1870年の陸奥国(現在の福島県、宮城県、岩手県、青森県)下守屋村と仁井田村です。未婚率は45~49歳の男子で4.8%、女子では0.6%となっており、ほぼ全員が結婚している状態でした。ただ、興味深いのは、離婚もとても多かったことです。

 

 この下守屋村と仁井田村は確かにほとんど全員が結婚していましたが、平均普通離婚率(人口1000人あたりの年間離婚件数)は4.8に達していて、これは現代の米国を上回る高水準です!

 

 都会で生涯独身を貫く人もおり、みんなが結婚している農村もあり、かと思えば離婚しまくっていて、柔軟にコミュニティを形成してバランスをとっていたのが江戸・明治期でした。なんだか、現代より遥かに多様な家族観が共有されていた時代に思えますね。

 

 こんなに多様な世帯が共存していた社会が変わり始めたのが、大正でした。「外で働くお父さんと、家を守るお母さん、子どもは2人」という家族の形が、いわゆる「標準家族」として突如、社会に姿を現したのです。

 

 標準家族の登場の背景は、主に以下の3つで説明されています。

 

(1)産業・社会構造が変化して、子どもを持つ意味も変わった(生産財から消費財になった)
(2)工業化に伴い、これまで地方で農業に従事していた人々が都会で職を得て暮らすようになった(核家族化)
(3)医療の発展により、乳児死亡率が低下。多産の必要がなくなった

 

 標準家族の増加に伴い、既婚女性の出産回数が激減します。これが日本の少子化トレンドの始まりです。明治の頃は、既婚女性は平均して5人も子どもを出産していましたが、大正時代におよそ2人まで急落し、それを維持して現代に至ります。

 

 人類の長い歴史からすれば、ぽっと出と言える「標準家族」は、その後、凄まじい勢いで社会の隅々にまで広がり、人々の価値観だけでなく、社会福祉制度まで変えていきました。いつしか、一部の政治家の方々はこの特殊な家族の形を「伝統的家族」と呼ぶようになり、これこそが “理想の家族” と考えるようになりました。

 

 そういう政治家の皆さまが「少子化の克服」を考える時、「父親が外で働き、母親が家庭を守るという伝統的家族のベースを維持したまま、子どもの数だけ増やす」というのが暗黙の了解であり、大前提です。だから「もうひとり産んでくれたら◯万円支援します!」という発想になります(もっとも、それすらまともに実行してくれないわけですが)。

 

 ここまで歴史を振り返って考えれば、もはや既婚女性が平均して2人以上の子どもを出産するなんて未来はありえないとわかります。なぜならそれは、「これだから、最近の若いもんは!」案件ではなく、社会と経済の構造的な変化によるものだからです。

 

 未婚率上昇の流れが逆転してほぼ全員が結婚し、しかも、平均して子どもを2人もうけるなんてこともまた、ありえないでしょう。だって、その必要がないのだから。しかも現代は、結婚出産は女性にとって不条理な差別を受ける可能性すらあります。「子育て罰」なんていう悲しい言葉があるくらいですからね……。

 

 つまり、政治家の皆さまが後生大事にする「伝統的家族」を維持するなら、少子化の解決は不可能、という結論に至ります。

 

 私は、真の少子化対策の道筋はひとつしかないと思います。日本の悠久の歴史から見れば異端に過ぎない “伝統的家族” にこだわっていないで、多様な家族・個人を尊重する社会の仕組みや価値観をみんなで共有することです。

 

 独身であれ、既婚であれ、事実婚であれ、どんな家庭環境だろうと、子どもがいようといまいと、社会的な不利益や差別を受けずに生きていける社会、これを実現させるしかないのです。

 

 

 以上、前田晃平氏の新刊『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ! ママの社会進出と家族の幸せのために』(光文社)をもとに再構成しました。育休を取ったことで社会の不条理に気づいた普通のパパが、豊富なデータと実体験を交えて現状を語ります。

 

●『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』詳細はこちら

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