8月19日、河南省安陽市を走るバスで刃物を持った男が乗客に襲いかかり、3人が死亡、12人がケガをするという事件が起こった。亡くなった3人は17歳の男性、10歳の男児、10カ月の女児でいずれも未成年という陰惨さだ。
日本ではあまり報道されていないが、この夏、中国国内では同様の凶悪事件が頻発している。犯人はいずれも“持たざる”側に属する者とされる。いわゆる『貧困テロ』が激増しているのだ。減速したとはいえ、’13年4〜6月期のGDP成長率が7.5%を誇る中国で、いったい何が起こっているのか。
まず背景にあるのが中国独自の戸籍制度だ。中国には都市戸籍と農村戸籍の2種類の“身分”が存在し、農村戸籍を持つ農民が都市に移住することは基本的に禁止されている。ノンフィクション作家の安田峰俊氏が解説する。
「中国社会でもっとも豊かなのは、党や政府に政治的なコネを持つ人。中産階級でいられるのは都市戸籍があって学歴がある人。
一方、農村戸籍を持っていて学歴や軍歴のない人が、持たざる層ですね。結婚や就職で明らかな差別を受けるほか、行政サービス上でも大きな差異があり、事実上、社会階層を上げることは不可能です。
また改革開放政策の施行から30年以上が経過し、こうした階層がほぼ世襲され、固定化してしまっています」
また、安田氏は貧困テロの背景には中国版ツイッター『微博(ウエイポー)』などネットの普及も見逃せないと言う。
「ネットが身近になったことで、格差や社会階層が可視化されやすくなっています。結果、持たざる層は自分の境遇を意識し、かつ成り上がる可能性がないことに気づきはじめ、不満を持つようになってきた。ネットが炎上したりマスコミが動いたりすれば、持たざる層の窮状が改善される可能性もあるので、捨て身のテロに走るのです」
その一方、太子党と呼ばれる共産党高級幹部の子弟で、特権的地位にいる者たちの横暴はとどまるところを知らない。ジャーナリストの宮崎正弘氏は彼らの腐敗こそ貧困テロの原因だという。
「アメリカの『TIME』は年間約6000億ドルが海外へ不正に持ち出されたと推測しています。その数字はCIA筋から出ているので、それほど不正確なものではありません。海外逃亡した人間は1万8000人。もはや末期症状といえるでしょう。
明日食うコメもない貧乏な人の隣にBMW、ベンツを乗り回している党幹部や地方政府の幹部がいる。彼らの息子たちはフェラーリやランボルギーニを乗り回し、貧困層をひき殺しても証拠がないので無罪放免。
こんなことが日常的におこなわれています。中国国内では民衆の怨念が回復不能なレベルまで募っているのです」
(週刊FLASH 2013年9月10日号)