中国の大気汚染が去年あたりから急激に悪化している。今年1月には北京でPM2.5濃度が日本の基準値の20倍を超えた日もあり、1月だけで26日間もスモッグが続いた。ふつうなら空気が澄む秋も濃度は高いままで、黒竜江省ハルビン市では、10メートル先の顔が判別できないほど濁った大気の底に、街全体が沈んだ。
10月18日に北京でライブコンサートを予定していたグラミー賞受賞の米国人ジャズ歌手パティ・オースティンが北京国際空港に到着後、ぜんそくの発作に見舞われて、ライブ自体がキャンセルされたことも衝撃的に報じられた。
WHO(世界保健機関)傘下のIARC(国際がん研究機関)は10月17日、PM2.5が「肺ガンを引き起こす可能性がある」との研究結果を発表。名指しで中国などが危険にさらされていると指摘した。
中国衛生省によれば、国内の肺ガン患者死亡率は過去30年間に465%増を記録。北京に関していえば、この10年で6割増という。中国で毎年あらたにガンを発症する患者は312万人で、世界全体の2割を超える。ガンで死亡する中国人は毎年200万人以上。そのなかで最多が肺ガンだった。
衝撃的なのは、肺ガンになった江蘇省の8歳の少女について、地元の病院院長が患者の住居が道路のそばにあり、排ガスなどを長期間吸入していたことが原因とメディアにコメントしたことだった。安徽省合肥市で同じく肺ガンになった15歳の女子中学生も、同様の原因と診断された。
「北京の大気汚染は、まさに複合汚染。たとえば四日市公害のようにこの工場から出る排ガスが原因と特定できない。自動車、工場、火力発電所、建設現場の粉塵、黄砂……発生源が多様で、これらの物質が大気中で化学反応を起こし、有害物質ができる。ですから、対策がとても難しい」(清華大学の専門家)
大気は上空でつながっているから、北京の汚染は、タイムラグを経て日本に流れてくる。滋賀県立大学・環境科学部の永淵修教授らの研究チームが公表したデータによれば、’07年、富士山頂大気中から市街地の10倍を超える水銀が検出され、しかもその大気は中国から来たものという。
「私は、ほぼ同時期に中国の大連でも3日間測定しているんですが、富士山頂で測ったのと同じ濃度の25ナノグラムという数値が出ている。水銀で汚染された大連の空気が、そのまま富士山まで来た可能性が高いと思っています」(永淵教授)
となると、日本としても中国の大気汚染防止に積極的に協力していくべきだろう。だが、両国間には政治的にきな臭いスモッグが立ち込めている。これを払う努力を中国側からやってもらわねば、効果的な協力体制などとても望めない。
(週刊FLASH 2013年12月3日号)