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拡散する陰謀論、誰がハマりどう対処すればいいのか…“笑い泣き” の顔文字多用する人も【データ分析で判明】

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.09.21 20:00 最終更新日:2022.09.21 20:00

拡散する陰謀論、誰がハマりどう対処すればいいのか…“笑い泣き” の顔文字多用する人も【データ分析で判明】

国際大学GLOCOM准教授・山口真一氏

 

■身近な人が陰謀論にハマった場合は…

 

 身近な人が陰謀論を信じていた場合、反論して認識を改めさせることはできるのか?

 

「このことは、じつは社会問題になっています。とくに反ワクチンの陰謀論。配偶者が反ワクチン派になったせいで、家族全員に対して打つなと言って強制したりします。

 

 その結果、離婚した、あるいは家庭崩壊したという事例はかなり出ています。私の周りにも、親族に陰謀論者がいて大変な状況になっている人は多くいます。

 

 ただ残念ながら、陰謀論にハマってしまった身近な人に対する特効薬はありません。

 

 仮に専門知識があって論理的に反証できたとしても、それで解決するわけではないことがわかっています。『バックファイア効果』という理論があり、ある物事を信じている人に対して、その考えを否定するとかえってより強固に信じ込んでしまうのです。

 

 相手の陰謀論について矛盾点を指摘すると、『お前は真実に気づいていない』となって反発し、どんどんのめり込んでいきます。

 

 一応、推奨されている方法としては、陰謀論を信じる相手と根気強くコミュニケーションを取り続けるということです。陰謀論の真偽について口論するのではなく、共有する経験や思い出などを語って少しずつ解きほぐしていき、自ら『なんかおかしいよな』と疑念を抱いてもらうように誘導します。

 

 ただ、この方法は端的に言ってとても難しい。ですから、陰謀論の信者が自分の知り合いレベルなら、放っておくことをおすすめします。

 

 口論になってしまうと相手はより強く信じるし、自分も傷つくので基本的には触れないでおきます。ただ、いつも顔を合わせる家族などは無視できない存在なので、そういう場合には粘り強く思い出を話しながらコミュニケーションを取り、徐々に自ら気づくようにうまく導きましょう」

 

 身近な人ならコミュニケーションを試みることはできるが、社会で接点を持ちえない陰謀論の信者に対してはあきらめるしかないのか?

 

「難しい問いですが、じつは私は放っておけばいいと考えています。もちろん私を含めた専門家は、社会全体に陰謀論が広まらないような仕組みを考えたり、SNS上の抑止機能を提案したりする責務があるでしょう。

 

 ただ、社会の隅々にいる陰謀論を強く信じる人たちに対しては、正直に言ってできることはない。世の中にはさまざまな考え方の人がいて、そのひとつと捉えるしかありません。

 

 アメリカには宗教の関係で、進化論を信じていない人や、地球は平らだと信じる人がかなりいる。そのようにいろんな信念をもった人が存在するのはある種当然のことであり、科学的に誤った考えだとしても、むしろ尊重すべきかもしれません。

 

 ただ、陰謀論には反ワクチン派やQアノンの運動のように社会に実害を与えるものがあります。主張が行き過ぎて、何らかの違法行為に至った場合には、しっかりと法的措置が取られなければなりません。

 

 そうした過激な考え方を除き、それぞれの思想の自由を尊重するしかありません。やはり一度、陰謀論にのめり込んでしまった人を引き戻すのはそうとう難しい。

 

 ただ学者としては、真偽の判断がつきかねている人たちに対して陰謀論にハマらないように何とかできないかとつねに考えています。

 

 SNS上で偽情報に『ラベル』をつけるなどの取り組みがありますが、そのような機能によって広がるのをできるだけ食い止める仕組みは必要です」

 

■陰謀論にハマらないための方策

 

 専門知識がない一般人が、偽情報に引っかからないためにできることはないか。

 

「何かの情報に出会ったとき、すぐには信じないことが重要です。コミュニケーション研究でわかっていることとして、人は身近な人から聞いた情報を信じがちという特徴をもっています。

 

 だからこそ、家族や親しい友人から聞いたことであっても、真偽がわからないものは鵜吞みにしてはいけません。ある情報に出合ったら、まずは自分でいろんな文献等に当たって調べてみることが大切です。それでもわからなかったら放っておきます。

 

 重要なのは自分が偽情報のスプレッダー(拡散者)にならないことです。検証しても真偽がわからなかったら、人に伝えない。それが一人ひとりにできることです」

 

 正確な報道を担うという意味で、メディアの責任は重大か?

 

「マスメディアに期待されているのはファクトチェックです。インターネット上の偽情報と思われるものについて、資金も人材も豊富なマスメディアならファクトチェックを確実におこなって結果を公表できます。それをもっと積極的にやってほしい。

 

 しかし、日本には残念なことに、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)に加盟している組織が一つもありません。米CNNも英BBCも自社媒体でファクトチェックのコーナーを設けたり、ほかのIT企業と組んで偽情報対策をおこなったりしているのに、日本のメディアはほとんど取り組んでいない。

 

 要するにファクトチェックにはコストがかかるため、非常に消極的です。市場がシュリンクしている今、彼らのいちばんの目標は大量の社員をどう食べさせるか、いかに現状を維持するかにあります。その状況で新たにファクトチェックを始めようという機運は、残念ながらなかなか生まれせん。

 

 それでも、私がおこなった調査では、情報の真偽を確かめる手段として人々が最も期待しているのはマスメディアでした。つまり、ファクトチェックにはニーズがあるのです。

 

 これだけ偽情報への警戒が高まる今、誰もが情報の真偽にセンシティブになっています。だから、精密なファクトチェックを経た情報への需要はますます高まり、それが部数や視聴率にもつながるはずです。

 

 人々からクオリティペーパーとかクオリティ番組と評価されれば、中長期的にビジネスにプラスになる可能性が高いと思います。ぜひ、日本のマスメディアにはファクトチェックに取り組んでいただきたい。マスメディアへの信頼が揺らいでいると言われることが多くなっていますが、私はマスメディアに非常に期待しています」

 

 陰謀論を信じる人は、社会にまんべんなく存在する。自分もひっかかるかもしれないと自覚し、真偽のわからないことは人に伝えず、まずは自分で調べてみる。身近な人を巻き込まないためにも、信用を失わないためにも、ひと手間かけることが重要だ。

( SmartFLASH )

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