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【日朝首脳会談】岸田首相「早期に実現」発言に「会えない理由はない」と反応した北朝鮮の真意を識者に聞いた
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2023.06.05 06:00 最終更新日:2023.06.05 06:00
「私自身、わが国自身が主体的に動き、トップ同士の関係を構築していくことがきわめて重要であると考えております。私自身、条件をつけずにいつでも金正恩(キム・ジョンウン)委員長と直接、向き合う決意であると申し上げているゆえんでありますし、全力で行動してまいります。(中略)首脳会談を早期に実現すべく、私直轄のハイレベルで協議をおこなっていきたいと考えております」
5月27日、岸田文雄首相は都内で「全拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会」で、こうあいさつした。その2日後、北朝鮮の朴尚吉(パク・サンギル)外務次官が反応した。
「日本が新たな決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日両国が会えない理由はない」
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北朝鮮の「朝鮮中央通信」が、朴次官の談話を報じたのだ。「拉致問題はすでに解決した」との主張は繰り返したが、日朝協議に前向きな姿勢を見せた北朝鮮。開かれる現実味はあるのか。
「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)」会長の西岡力氏が語る。
「5月27日に岸田首相が発言した中身について、北朝鮮が金委員長の決済までもらって、わずか2日後に談話を出したという、レスポンスの速さに着目しています。岸田首相の談話を重視している証拠です。北朝鮮は協議をすることに否定的ではない、という感触を受けました。岸田首相は『私直轄のハイレベルで』と言っていますから、首脳会談が実現するかはわかりませんが、秋葉剛男氏(国家安全保障局長兼内閣府特別顧問)や内閣情報官が訪朝することはありうるでしょう」
一方、「コリア・レポート」の辺真一編集長はこうみる。
「外務次官の談話が発表された5月29日と同じ日、北朝鮮から日本の海上保安庁に『5月31日から6月11日までの間に衛星を発射する』という通報がありました。つまり、朴次官の談話は、アメリカなどと一緒に衛星の打ち上げを非難して、国連で北朝鮮に制裁や圧力をかけるような動きをしないなら、首脳会談を考えてもいい、という“けん制球”にすぎないでしょう。
また、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権はいま、北朝鮮との対決姿勢を鮮明にしています。岸田首相が、韓国の頭越しに金正恩と首脳会談をすることは、尹大統領にとってはあってはならないことで、断じて認めないと思います。日朝首脳会談が開かれれば、尹政権は『南北首脳会談はどうなっているんだ、なぜ日本が先にやるんだ』と、国内で突き上げられるわけです。バイデン政権も北朝鮮の核を止められない状態ですし、日朝首脳会談は、日米韓の絆をゆるめることになってしまいます。開かれることは、ありえないのではないでしょうか」
また、ジャーナリストの有田芳生氏はこう分析する。
「5月29日の朴次官の談話を丁寧に読めば、『拉致問題は解決済み』という北朝鮮側の結論は変わっていません。北朝鮮外務省は、拉致問題や日朝交渉に関して権限がありませんので、『関係改善を模索するなら、会えない理由はない』というのは、あくまで“一般論”として言っているのでしょう。
それに、岸田首相の発言にあった『私直轄』の『直轄』の意味が不明です。もともと拉致問題は、外務省であれ官邸外交であれ、首相が指示して初めて動くシステム。その意味では、いつも『直轄』です。要するに岸田首相の談話は、新しい表現を加えて、横田早紀江さんたちに期待を持たせた、という“国内向けのメッセージ”を発したにすぎません。『すべての拉致被害者の即時一括帰国』という、救う会と『北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)』の方針変更に政府が距離を置かなければ、結局は何も動きません」
「即時一括帰国」という方針によって、「2014年に、北朝鮮から政府認定拉致被害者の田中実さん生存の伝達があっても、日本政府は放置している」と有田氏は指摘する。
日朝首脳会談の実現には、さまざまハードルが残されているようだ。
( SmartFLASH )