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電車で本を読むために何度も往復で「乗車分の料金」、SNSで話題の現役駅員に取材「目に見えない財産売っていることわかって」

社会・政治 投稿日:2023.09.29 19:57FLASH編集部

電車で本を読むために何度も往復で「乗車分の料金」、SNSで話題の現役駅員に取材「目に見えない財産売っていることわかって」

(写真・AC)

 

 9月18日、X(旧Twitter)で発信されたある投稿に、驚きの声が寄せられた。

 

《【電車は図書館ではない】読書をするため、半日近く何回も往復していたという若いお客さん。乗った分の電車賃を頂くことをお話すると。客『お金がかかるなんて知らなかった。せめて入場券だけに…終点まではヒドイ』ステーキ定食を食べながら勉強して、コーヒー代だけにしてくれと同じです(続)》

 

《手元に分厚い本もあり、悪意が無いのは分かりますが。と諭し…私『往復した回数も覚えてないので、確実に判明している終点までの一往復分は頂きます』客『給料が直接減るわけじゃ無いでしょ?途中駅までで良くない?』私『個人事業主ではないので、直接減りませんが、この仕事で食べてるんです』》

 

 

「現役駅員の本当の話」というアカウントが投稿したこのポストは、現時点で5.1万いいねと多くの注目を集めている。こうした電車賃をめぐるルールを知らなかった人も多かったようで、驚きの声が続々と寄せられた。

 

《知らなかった!特例ルールならOKじゃかったっけ?と思って調べたら、重複しちゃダメと書いてる!つまり往復アウトー!!》

 

《乗り越したから次の駅で降りて反対行きの電車に乗ろうってのもアウトなんだね、初めて知った。》

 

《山手線を何周も回るというのもアウト?》

 

《30年以上前 暇なときに隣駅までの切符かって山手線を何週も乗っていたことがある いけないことだったんですね(反省》

 

 たしかに、鉄道好きの間では、都市部の特例である「大回り乗車」がよく知られている。電車に乗り続けて長距離を移動しても、乗り始める際に利用した駅と降りた駅を結ぶ最も安い運賃で乗車できる。ただし、同じ駅の重複は不可・途中下車不可など、いくつかの決まり事もある。

 

「大回り乗車」について、投稿主である現役駅員のA氏に詳しい話を聞くと、こんな答えが返ってきた。

 

「まず、私は勤めている鉄道会社名を明かしておらず、JR運賃制度の説明と、私が勤めている会社の関係性は一切ありませんので、その点だけご了承ください。

 

 今回多くの反響をいただいた『都市部での大回り乗車』ですが、まずは『全ての鉄道会社において、乗車したルートに基づいて運賃を計算することが大原則』です。その上で、JRが大回り乗車のルールを設けている経緯は、複雑な路線網にあります。

 

 例えば、池袋から大宮まで行きたい場合、湘南新宿ラインと埼京線、走行ルートの異なる二つの列車があります。これを、大原則の『乗車したルートに基づいた運賃算出』を行うと、まず切符の発売時に、全てのお客様に『あなたは今から埼京線に乗りますか?湘南新宿ラインに乗りますか?』等と経路を伺って対面で切符を販売しなければならず、切符売場が大混雑します。券売機でも同様のことが起こります。

 

 そのようなことは現実的ではなく、鉄道会社と利用客の双方にメリットを得られるよう、複雑なJR路線を抱える都市部において、一定の定められたエリア内において、運賃は最短経路で算出して、他のルートも乗車できる簡便化した『例外ルール』を設けているとお考えください」

 

 実際には、「大回り乗車」のルールを間違って認識し、「改札さえでなければお金はかからない」と認識している乗客も一定数存在するという。

 

「実務上で多くのトラブルになる事例として、『途中駅まで行ったが、自宅に忘れ物をしたことに気付いて引き返してきた』との申告です。大原則の『乗車したルートに基づいて運賃を頂戴する』ルールに基づいて、忘れ物に気付いて折り返した駅までの往復運賃を精算するのですが、『後でもう一度乗るのに、なぜ払うのか?』等のトラブルになるケースが多いです」(A氏)

 

 投稿に対する反応のなかには、「山手線を回り続けるのもアウトなのか」という驚きの声もあがっていた。

 

「環状線を周回する場合に『どこからどこまでを支払うべきか?』の支払区間については、様々な議論を呼んでいるので、明言するのは避けたいと考えます。

 

 その上で、『複数回の往復をすれば、往復した回数に応じて運賃はかかる』ので、環状線を一本の棒に置き換えて考えれば、支払区間について明言しないものの、『複数回の周回をすれば、周回した回数に応じて運賃はかかる』ことは、申し上げておきたいところです。

 

 そして、多くの鉄道会社は、一定の範囲を定めて『一日乗り放題パス』を販売しています。あくまで私の個人的な意見ですが、複雑な規則上の制限を考えずに、環状線の周回を楽しむのなら、このような乗り放題パスを購入するのが良いと考えます。JR東日本さんのホームページでは、山手線をエリアに含む都区内パスを大人760円で販売しているそうですから、このようなパスを購入されてはいかがでしょうか」(A氏)

 

 なお、JR東日本にも問い合わせてみたところ、「やはり大前提として、乗った分の運賃はかかってまいります。都市部では『大回り乗車』の特例がありますが、山手線を何周もするとなると、同じ駅を何度も通ることになりますので、特例が適用されません。そのため、仮に3周した場合は3周分の運賃をお支払いいただくことになります」との答えが返ってきている。

 

 現役駅員のA氏は、「ICカードの普及に伴い『改札を出るときにチャージから運賃を引かれる』体験に慣れてしまい、改札さえ出なければ無料と錯覚してしまう気持ちも分かります。しかし、鉄道は多くの職人が携わっている『目に見えない財産』であることを、多くの方に知っていただきたいと思います」と訴えかける。

 

「約1年間かけて国家資格と訓練を積んだ運転士。終電から始発までの限られた時間で、線路や架線等を設備をメンテナンスする人。車庫に入った電車をメンテナンスする人。常に運行状況を把握し、トラブルでの遅れを定刻に戻す手配をする指令員。快適な車内や駅を保つために掃除する清掃員。そして、駅や車内でのトラブル対応等、お客様に直接関わる駅員。

 

 みんなが『目に見えない財産』を作り上げる為に、各々に課せられた使命を全力で全うしています。

 

 それを『改札を出なければタダにしろ』『往復払うのは納得いかない』等と言うのは、『目に見えない財産』を売っている我々からすれば、罪の意識が無いのは分かりますが『万引きして何が悪い』と言ってるのと同じ意味です。

 

 お客様は目の前にいる駅員を恨んで支払っていかれますが、駅員の裏には多くの職人がいて、日中夜問わず汗水垂らして働いています。それを思い浮かべれば、自ずと『乗った分の運賃を正しく払う』気持ちになると私は信じています」

 

 現役駅員さんが紹介している通り、この頃はJRをはじめとした各鉄道会社が一日乗車券を販売しており、メトロ、都営バスなども含め乗り降り自由のパスも出るなど、バリエーションが豊かになっている。正しいルールを守りつつ、楽しい鉄道ライフを送ってほしい。

( SmartFLASH )

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