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「ギャンブル依存症はありふれた“病気”…大阪市は世論が反発するIR計画を撤回せよ!」【泉房穂の「ケンカは勝つ!」第40回】

社会・政治 投稿日:2024.04.10 06:00FLASH編集部

「ギャンブル依存症はありふれた“病気”…大阪市は世論が反発するIR計画を撤回せよ!」【泉房穂の「ケンカは勝つ!」第40回】

「IRが話題になる今こそ、ギャンブル依存症対策の議論を徹底的にせなあかん。仮にカジノを進めるなら、環境整備と相談体制の確立が不可欠」(泉氏)

 

 大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏が違法賭博に関わったとされる問題。私は事実関係を知る由もないが、彼が告白した「ギャンブル依存症」については一家言がある。

 

 私は弁護士として、ギャンブル依存症にともなう犯罪や家庭崩壊に、毎日のように向き合ってきた。

 

 その経験から言うと、ギャンブルは性犯罪や違法薬物と同様、理性の制御を超えた行為。まわりがやめさせようとしても、実現は極めて難しい。たんに叩けばすむという、簡単な話ではない。

 

 

 ところが、「ギャンブル依存症は自己責任」という論調が大勢を占め、それに端を発する「水原叩き」も起こっている。それはおかしい。さらに、学歴詐称疑惑から「あいつはもともと悪い奴だ」とか「嘘つきだ」などと言われているが、そもそも違法賭博とは関係ない。なんでも一緒くたにして人格攻撃に走れば、彼を追い込むだけや。

 

 ギャンブル依存症は、医学的には「精神疾患」とされ、日本でも人口の2~3%が発症しているといわれている。50人に一人はいる計算で、ありふれた “病気” 。

 

 加えて、ギャンブルは本人だけでなく、周囲の人間を巻き込む。DV(家庭内暴力)や離婚に繋がる。家のカネを持ち出して、借金もしまくって、最後は破産する。暴力に走る。子供が泣いていても顧みない。子供の進学が妨げられたりもする。お父ちゃんがギャンブルにハマることで、子供たちが泣いている家族を嫌というほど見てきた。

 

 ギャンブルに起因する犯罪も多い。目立つのは横領。会社のカネに手をつけるとか、自治会長が町会費を使い込むとか、例はなんぼでもある。

 

 そして、ギャンブルに必ずついてくるのがサラ金。ギャンブルにのめり込むと、サラ金に手を出すことが多く、よけいに引き返せなくなる。ここまでくるともう終わり。さらにギャンブルをして負けを取り返そうとするが、泥沼にはまるばかり。その現実を見てきた者としては、「ギャンブルNO」という気持ちがものすごく強い。

 

 ギャンブルの特徴は、勝ったままで終われないこと。勝てばそのカネをまたつぎ込むから、最後は必ず負けて終わる。勝ち逃げができない。負ければ借金をしまくり、家庭が壊れるというパターン。

 

 ギャンブルには経済効果があるといわれるが、ギャンブルそのものは何も生み出さない。客から賭け金を集めた胴元が自らの取り分を確保し、残りを客に分けるから、客は損をするに決まっている。

 

 たとえば競馬、競輪、競艇など、日本の公営ギャンブルの還元率は7~8割。2~3割を胴元が取る。100万円を集めて30万円を胴元が取り、残り70万円を分けるわけやから、儲かるのは胴元だけ。賭けた人間は、どこかで必ず損する仕組みになっている。でも、みんな自分だけは得していると錯覚するから、ギャンブルは成り立つ。

 

 カジノの胴元の取り分は2~3割よりもっと低いが、全体の金額が大きいから儲けは大きくなる。宝くじなんか、胴元の取り分は5割を超える。つまり、賭け金の半分以上をドブに捨てるのと一緒。

 

 3月25日にインターネット番組「ABEMA Prime」で、ギャンブル依存症について討論した。私はギャンブルに批判的な立場で発言したが、20代の出演者が「わずか3%のギャンブル依存症のために、97%の人の楽しみを奪うのか」と、疑問を投げかけてきた。

 

 これは、私に言わせれば想像力の問題。その3%の人のまわりで、妻や子供の涙が流れているということを意識できるかどうかだと思う。

 

 そして、ギャンブルに手を貸すサラ金もどうにかせんとあかん。明石市長になった1年め、駅前のビルに入る計画だった複数のサラ金業者に出て行ってもらった。サラ金は今も明石市内になくはないが、少なくとも税金が投じられた空間にサラ金を入れないという強い覚悟で臨んだ。

 

 パチンコ店が、再開発計画で出店することも認めなかった。参加する権利があった店と揉めたが、毅然と対応し、代わりに子供の遊び場や図書館を造ったり、大型書店を誘致したりした。これらに関して裁判も起こされたが、最高裁まで争って勝訴した。

 

 また、条例を変えてパチンコ店の出店を規制しようとも考えたが、これは残念ながら実現しなかった。

 

 市長時代にはさらに、2022年9月から「全国ギャンブル依存症家族の会」と連携して相談窓口も開設した。弁護士資格のある専門職員を置き、この問題に詳しい医師とも連携して、テーマに特化した市民相談会を今も続けている。これは全国初で唯一。こうした対策がもっと広がってほしいと思っている。

 

 また、市職員に向けて研修をおこない、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんを招聘(しょうへい)した。田中さんとは前述の番組で共演した。田中さんは祖父、父、夫に加え、ご本人もギャンブル依存症だったが、今は克服し、当事者の支援をしている。

 

 田中さんは、大阪IRを推進する日本維新の会や自民党に「ギャンブル依存症対策をするから」と言われ、それを信じて計画に協力した過去がある。結局、依存症対策は進まず、田中さんは「騙された」との思いだそうだ。

 

 依存症の治療のためには、環境を変えることが不可欠。つまり、ギャンブルから遠ざけることが絶対条件や。だから近所にカジノ建設なんて、いちばんやってはならない。

 

 カジノができれば、確実にギャンブル依存症の患者が増え、不幸を招くことになる。

 

 IR誘致を表明していた横浜市は、市長選を経て撤回した。大阪市も、世論の反発をボディブローのように受けており、今からでも計画中止はあり得ると思っている。子供たちを不幸にするカジノに私は反対。

( 週刊FLASH 2024年4月23日号 )

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